季節感が全くない、と言われるカンボジア。でも確実に季節はめぐってくる。そう、来ました。灼熱のこの季節が。そしてこの季節が来ると始まるのが「停電」。
私がカンボジアに来た1994 年当時。1 日のうちに電気がある時間を数えるほうが早いくらい、電気がない毎日だった。そのころ私がいた宿舎では、夕方から夜にかけて大きな発電機をガッッガッガッガガガガ…って発動させてくれるのだが、夜10 時になると、近所迷惑だからということで、ガガガガッガッガッッガッッ…と発電機は悲しい音を立てて消されてしまう。しばらくは「残り冷気」で部屋にいられるが、セキュリティー上窓を開けっ放しで寝るのはダメだったので、風も通らず、次第に冷気はなくなりとっても暑くなっていく。
そんな日々を送り、だんだん気がおかしくなり始めていたんだろうか、「夜10時になると発電機が動かなくなってクーラーが使えない」というロジックから、「そうか! クーラーが使えないんなら、扇風機を買えばいいんじゃない!」と思い立った私は、神奈川県警のステッカーが貼っ
てある元放置自転車でオリンピックマーケットへ行き、前に小さくinter と書いてあるNational の扇風機を買うのだった。
その日の夜、意気揚々と夜10 時を待ち、いよいよ外で発電機が消される音が聞こえてあたりが暗くなり、扇風機の前に座って待ち望んでいた私はその時に気づくのだ。「あ…。電気がないんだ…」
あれから20 年。そのころと比べれば、断然「発展」したカンボジア。ある日、夜に停電になり、外に出てみるとあたりは明るかった。月夜なんだ。当たり前のように電気がある生活をしていると、月明かりがこんなに明るいんだということを、私たちは忘れてしまう。日本で震災が起きた時、日本人はそれを痛感した。私は、発展途上国にいるから、もっと頻繁に立ち止まって考えてきた。そして、発展途上国にいることが、私の人生を豊かにしているのかな、とさえ思ってしまう。発展してしまったら、その途上を知ることはなく、それが当たり前になるのだから。そう思えば、連日の停電だってありがたく感じられる。そんな風に考える、停電の季節が再び始まった。
2013.4月-5月号(第64号)掲載
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