今年で14周年を迎えるニョニュム。毎号様々な企画やコンテンツを展開している中で、超老舗コーナーのひとつに「リムケー」がある。創刊からずーっと読んでくださっている方にとってはお馴染み。最近ニョニュムを読み始めた人にとっては「話が読めない」と飛ばしてしまうページかもしれない。だが私にとっては、それはそれは思い入れの強い連載なのだ。
リムケーは直訳すると「リァムの名誉」。インドの二大叙事詩の一つ、「ラーマーヤナ」物語のカンボジア版。リァム(ラーマ)王子が、妻であるシータ姫が幽閉されているランカー島の大魔王リァップ(ラーヴァナ)を退治に、猿の将軍ハヌマーンと猿の軍隊を引き連れて討ち入りをする…。簡単に言うと「桃太郎」みたいな、そんなストーリー。リァムはヴィシュヌ神の化身。すなわちヒンズー教の神。ランカー島はスリランカ、すなわち仏教が信仰されていた地域。つまりインドでのそれは、ヒンズー教が仏教を打ち負かす、ヒンズーの神の偉大さを称える叙事詩なわけだ。
しかし、カンボジアに伝承されてきたリムケーは、絶対的な神であるはずなのに、ストーリー展開の中で泣いたり、嫉妬したりと、ちょっと人間的な要素が描かれることで、比較文学の研究題材になっている。また、古典舞踊やスバェクトム(影絵)などで公演されることも多く、お馴染みだ。ところが、高校や大学では「あらすじ」だけをさらっと読んで終わり。そもそも文字にされた作品は古典の詩文しかなく、「現代版源氏物語」のような、現代語でしっかりストーリーとして出版されている本がないのだ。
そこで、このリムケーを日本語で訳してみよう! そんな偉大なるプロジェクトを開始した私。ニョニュムが始まるもっと前から、古典の先生に個人授業を受けて、パーリ語・サンスクリット語で書かれた詩文を先生に現代語になおしていただき、それをノートに書き留めて、それから日本語に翻訳…。これが蓄積されれば現代クメール語版のリムケーと、日本語版のリムケーが一気に完成しちゃうのだ。
リムケーはB5よりもさらに小ぶりな小冊子で、1冊55ページ前後で編集され、全部で18巻ある。先生とのレッスンを再開し、先日10巻に入った。ようやく折り返しだ。今年は集中して時間をとって、一気に最後までいきたいな。 そんな希望とともに、ふとある「都市伝説」を思い出した。舞踊や影絵でリムケーを最後まで演じると、その主役だった人は死んでしまう、というジンクスがあるとかないとか。
ということで、勉強をしながらいつも思う。この勉強を第18巻の最後までいったとき、私は死んでしまうのだろうか…。ふむ。怖い。けどどうなるのか知りたい気もする。
いろんな意味で目が離せないリムケー。どうぞみなさん、楽しんで読んでくださいね!
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