2003年のNyoNyum創刊当初から連載している「ボンユキエッセイ」。カンボジアに長年住むと街の移り変わりが見えてくる。
おもしろくもあり、どこかもどかしくもある。
通訳、翻訳、会社経営に奮闘中のボンユキこと山崎幸恵がおくるカンボジアあれこれ。
今回は北九州で行われた北九州市上下水道局によるカンボジアでの協力20周年を記念した式典の通訳を務めた際にあったお話です。
水とともに生きる人たちとともに
今回のニョニュムでは、北九州市上下水道局によるカンボジアでの協力20周年を記念した特集が組まれました。実はこの水道プロジェクトは、私の通訳人生の原点なんです。
遡ること20 年前。当時王立プノンペン大学文学部の3 年生だった私は、突然の「呼び出し」を受けました。
「水道のセミナーがあるから通訳が必要」
学生でありながらも通訳や翻訳を少しずつ手掛け始めていた私は、自転車をこいでプノンペン水道公社(PPWSA)の片隅にぽつんといた、北九州市から派遣された久保田和也さんに会いに行きました。
「通訳できるんかね。今度セミナーがあるんよ。お願いできる?」
北九州なまりのその男性は私にそう言い、私はわけのわからない資料を渡されました。
それが「テレメータシステム」のプレゼン。
なんじゃこりゃ。電話回線でデータを送って…って、どうやって訳せばいいんだろう。勉強を重ね、セミナーに臨んだのでした。
その数年後、JICA の長期専門家として派遣されていた木山聡さんから「呼び出し」が。
PPWSA のアエック・ソンチャン総裁(当時)と北九州からの訪問団が、当時はまだあったボンコックの湖を見下ろせる公社の屋上で夕陽を見ながら壮大な水道事業の今後の展開を語っていたであろうその傍らで、木山さんが突然「北九州に来てくれないか」と、壁ドン(?)して口説いてきたのです(笑)。
私はそのシチュエーション(夕日と湖とそよ風)にもうメロメロになり、一も二もなくその口説きに応じてしまったのでした。
2009 年より北九州に毎年通うことになりました。
多くの研修員とともに最長で2 か月間、同じ釜の飯を食って研修に挑みました。
水道管の継手の種類や、ボルトのトルクのかけ方、クレーンでの水道管の上げ下ろし作業、漏水調査、水質試験、管末での簡易水質検査、配水管網の設計といった技術から、最後は経営計画の策定やら顧客情報管理などの水道事業体の経営まで、「水道」をめぐるありとあらゆることを通訳してきました。
「将来は水道局長になれるかも」なんて野望も広がり、そして今年から水道の規制・監督をする工業手工芸省の若手スタッフとともに、新たな勉強が始まりました。
歴代の研修員たちはとても熱心で、特に今年の研修では「質問攻め」に遭いました。
次から次へと出てくる質問を通訳するのはそりゃ大変。しまいには「質問は1 人2 問まで!どうしても質問したい人はプラムローイ・イェーン(500円)を払うこと!それで今夜は飲みに行くわよ~」と宣言すると、みんなは大爆笑。
プラムローイ、プラムローイって言いながらたくさんの質問をし、いっぱい知識を吸収して帰っていきました。
私はこんな北九州やカンボジアの人たちを「ゆかいな仲間たち」と称しています。
本当にゆかいで、でも水のために真剣で、愛すべき人たちです。これからも、みんなとプラムローイと言いながら、「みんなのための水」を一緒に作っていきたいな。
Cambodia Joho Service 代表/日本カンボジア通訳翻訳家
神奈川県出身。在カンボジア歴、足掛け25年。
翻訳、通訳のほかカンボジア関連のアレンジやコーディネートを手がけることも。
仕事に追われつつも、大好きなビールは絶対に欠かさない。
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