NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」
上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。
はじめての今回は、アンコールトーイというあまり知られていない遺跡について。
アンコールトーイに行ったことありますか?
大学院生だった1990年代後半に、カンボジアを6回訪れ、都合260日間ほど滞在した。
上智大学調査団の一員として、アンコールワット西参道の実測調査に参加する一方、空いた時間を見つけては、探検家気分で草木を分け入り、連日体力の限り周辺の遺跡を巡った。
滞在日数が100日を超え、相応に遺跡の知識を身につけて自信を持ち始めたころ、たまたま入った食事処のウェイトレスの言葉「貴方はアンコールトーイ遺跡に行ったことはありますか ?」に耳を疑った。
私は「え ? それはどこですか ? 私のガイドブックには載っていませんけど…」と少し動揺した。すると、ウェイトレスは笑顔で続けた。「アンコールトーイは美しい遺跡ですよ。一度行ってみてください」と。
後日知ったことだが「アンコールトーイ」とはシェムリアップ州近辺で用いられる地元民によるアンコールワットの呼び名である。
庶民感覚では、遺跡名は不要でバイヨンを意味する、トム(=大きい)とトーイ(=小さい)で区別すれば十分なのであった。
以来私は「地元民の言葉に耳を傾ける」ことを大切にするよう心がけている。
(この記事は2017年6月に発行されたNyoNuym89号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリァップ本部)助教
1997年10月よりシェムリァップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。
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