アンコール見聞録 #30 クメール正月再び♪(2022)
アンコール見聞録 #30 クメール正月再び♪(2022)
2022.04.30

NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」

上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。

 

クメール正月再び♪(2022)

人で溢れるアンコールワット西参道(2013年4月)

コロナ禍以前のクメール正月

日本では「盆と正月が一緒に来たよう」と例える。日本においてお盆とお正月は二大年中行事であり、多忙ながらも喜びに満ちた楽しい時期でもあることを表す。このニュアンスはカンボジアでも同様だと思う。

知人のカンボジア人が、お正月を終えると「次は盆だ」と言い、お盆を終えると「次は正月だ」と力説する姿が印象的。

あたかも「祝日の間に平日がある」かのような錯覚を覚えるが、カンボジア国民の精神構造を説明するに際し、あながち的外れでもないような気さえする。

近年クメール正月にアンコールワット前を舞台としてイベントが開催されることがあり、その時の市民の殺到ぶりは「凄まじい」と表現できる。

 

 

正月直前に帰省する若者たち(2018年4月)
アンコールワットのライトアップ(2017年4月)
西参道前のイベント会場(2018年4月)
アンコール詣での車両(2008年4月)
深夜のバイヨン遺跡でデバターを迎える祈りが行われた(2017年4月)
アンコールワットはカンボジア人参詣者で埋め尽くされた(2003年4月)

 

2年連続の行事自粛

閉鎖され入場が禁じられたアンコールワット(2021年4月)

2020年3月WHOはパンデミックを宣言した。同月末にはアンコールワットから参詣者の姿が消え無人化した。4月に入ると、カンボジア政府は「正月休みの無期限延期」を発表し、更に州をまたぐ移動を禁じ、正月とその前後における感染拡大阻止に躍起となった。

結果として全国的に正月の各種行事は中止となった。遺跡でのイベントを始め、寺の伝統行事もその例外ではなかった。翌2021年は2.20事案後の感染急拡大を受け、クメール正月どころではなかった。

正月直後にはシェムリアップにおいてもロックダウンが行われ、遺跡前は人の立ち入りを禁じるロープが張られる前代未聞の様相を呈した。

 

再開への環境整備

シェムリアップでは、本年初頭までに、全長約110km におよぶ38本の道路工事を終えたばかりである。同時に上下水道も新しい方式で整備され環境保護と観光発展が両輪として進められる環境が整いつつある。

3月3日からはシェムリアップとバンコクを結ぶフライトも再開された。今後は外国人旅行者を迎える観光の本格的な再開に向けて試行錯誤が続くと考えられる。

国内におけるオミクロン株の感染拡大は保健省公式発表を見る限り、2 月後半でピークを迎えた可能性が高い。

 

ポストコロナの始まり

自転車に5 人乗りして楽しげな子供ら( 2013 年 4 月)

本号発行の直後にはクメール正月(休みは4 月14 ~ 16日)があるはずで、今年は通常通りの「ニューノーマル」として各種伝統行事、イベントが行われると聞いている。遺跡も賑わいを取り戻すかもしれない。

もちろん、新型コロナ感染対策の徹底が前提で油断禁物であることは言うまでもない。

今年こそ、ポストコロナの始まりに向けて、明るい一年になってほしいと心から願っている。

(この記事は2022年4月に発行されたNyoNuym118号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)

 

コラムニスト: 三輪 悟(みわ・さとる)

上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリアップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。

 

 

前の記事:

 

過去の記事

7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光
20:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う
21:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う(続編)
22:統計に見るウイズ・コロナのアンコール観光
23:スラスラン中央寺院(仮称)の復元・再構築
24:新型コロナ一年
25:紙幣の図柄をよく見ると
26:遺跡修復新時代
27:レッドゾーン指定でついに修復作業がストップ
28:観光の再開
29:変わるもの、変わらないもの
30:クメール正月再び♪(2022)

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