NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」
上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。
遺跡を空から見てみると
古代の技術者が高所からアンコールワットを見ようと思ったら、バケン山に登ってみる以外に方法はなかった。現代では、様々な手段が確保されている。以下紹介したい。
高度120m の気球から見るアンコールワット(中央塔までの距離約1.8km)2015年
ヘリコプター
アンコールワット周辺のヘリ観光は2000年から営業を始めた。高度やルートに制限があり、アンコールワット敷地の上空を飛ぶことは許されていない。不測の事態においても文化遺産を傷つける可能性を排除するため。高額ながら最もエキサイティングに全容を見ることができる。
気球
2003年アンコールワットから西へ1kmのところで営業を始めた。機体は仏エアロフィル社製であり、ヘリウムガスを使用し騒音も出ないことから環境配慮型の観光というのが売りだった。しかし当時のカンボジアではまだその考え方に関心は示されなかった。機体の直径は22mで定員は30名。当初高度200mまで上がっていたが現在では最高高度を120mと規定している。かつて日本の長崎ハウステンボスでも同機種が運航されていた。現在パリのディズニーランドにもあるという。
一方で熱気球観光も遺跡地域から離れた場所で一時期行われていた。筆者が乗った際は60m道路沿いより飛びたちロリュオス方面へ向かい畑地に着地した。
ウルトラライトプレーン
2010年頃パイロットと乗客の計2名のみが搭乗できる超軽量動力機があった。ヘリと同様の複数の既定ルートがあり特注ルートも可能だった。市内近郊の国道6号線の南に小さな滑走路があり、そこから飛び立った。時速100kmほどで巡行し高度は500m前後であった。
ジップライン(フライトオブザギボン)
遺跡地域内の森の中、タネイ遺跡の近くにてジップラインの営業が始まったのは2013年頃のことである。国際会議(ICC)の専門家委員から「遺跡地域にはふさわしくない」趣旨の発言があり疑問が呈された経緯がある。最高地点は地上35m。ただし森に隠れるため遺跡を見ることはできない。
ドローン
ドローンによる遺跡の撮影が散見され始めたのは2012年頃からだろうか。地上からの手持ちやヘリ空撮では得難い構図が魅力。遺跡での撮影はアプサラ機構の事前許可が必要なので要注意。
観覧車(アンコールアイ)
2020年より国道6号線沿いにて営業を開始。高さ85mからの景色を堪能できる。観覧車は北九州のスペースワールド(2018年閉園)から運ばれたもの。1周18分が短く感じられる。最新の運航情報はFacebook(https://www.facebook.com/angkoreye)を参照ください。注:上記のうち熱気球とウルトラライトプレーンは現在営業しておりません。
(この記事は2022年6月に発行されたNyoNuym119号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリアップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。
前の記事:
過去の記事
7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光
20:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う
21:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う(続編)
22:統計に見るウイズ・コロナのアンコール観光
23:スラスラン中央寺院(仮称)の復元・再構築
24:新型コロナ一年
25:紙幣の図柄をよく見ると
26:遺跡修復新時代
27:レッドゾーン指定でついに修復作業がストップ
28:観光の再開
29:変わるもの、変わらないもの
30:クメール正月再び♪(2022)
31:遺跡を空から見てみると
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