NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」
上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。
統計に見るコロナ禍からのアンコール観光回復度
ウイズコロナ
昨年9月末にフンセン首相は「ウイズコロナ」に舵を切り規制緩和に転じた。12月にはシェムリアップの空港が再開し、シンガポール航空が飛び始め、市内に外国人旅行者の姿が散見されるようになった。
2022年2月末にオミクロン株の感染が急拡大するも、その後まもなく減少に転じ、4月のカンボジア正月を経てもなお感染状況は一定の低値安定を保っている。6月1日には老舗のグランドホテルが再開した。
日本人の姿が見えない
ガイドと歩く西欧人の姿を頻繁に見かけるようになり「最近旅行者増えたよね」という会話が定着した。しかしその一方で日本人旅行者の姿を見つけられず違和感を覚えた。そこで遺跡チケットの販売統計を整理し、コロナの前後を比較し、日本人の旅客動向の現状につき数値的に裏付けをとってみた。その結果と現状が合致し合点がいった。
2022年上半期(1-6月)の状況をみると、全体としては6月までに2019年に比し11%にまで回復しているが、日本人に限ると4%程度と低迷している。全体に占める日本人のシェアは2022年上半期の平均が1.5%で国籍別順位は15位である。2019年以前の日本人シェアは約5%あり、順位は5位であった。他国と比べて、明らかに日本人が一歩遅れていることがわかる。
コロナ以外の要因
日本人が他国よりも出遅れている要因はなんだろうか。ロシアのウクライナ侵攻、円安、燃料費・チケット高騰などは、大きく影響していると考えられる。そもそもコロナ疲れがあったところへこれらが加算され元気が出にくいことは容易に想像できる。コロナ禍で発展したオンライン化に慣れ親しむことで若者の内向き志向が更に加速しているのかもしれない。陰性証明など日本入国時の規制が一部残ることも大きな要因と思われる。
なお今回の統計には半年間や一年間といった長期パスの所有者の訪問はカウントされてないことを申し添えておく。2022年末まで長期パスのプロモーションが行われており、在住者で購入されている方は少なくない。本稿では1日券、3日券、7日券の販売記録に基づく数値のみを取り扱っている。
現地人による遺跡観光と今後
2022年6月の時点で、統計上コロナ前比で11%に相当する数の外国人が遺跡を訪問していることになる。ところが現場を見た印象はもう少し人間の数が多いように思われる。これはおそらくカンボジア人による国内旅客の増加があるためで地元民と外国人を合わせた全遺跡訪問者数は、コロナ前の2割前後まで回復しているのではないかと推測される。
むしろ、国内旅客が増え定着したところに、今後外国人旅行者が復活する際、遺跡その他の場でどのように棲み分けを行うのか?これは今から十二分に想定・訓練しないと市内の交通渋滞含めて捌ききれなくなる懸念がある。あるいは杞憂だろうか。
シアヌークは今?
コロナ禍で職を失った若者がシアヌークで働いているという話をよく耳にする。週末シアヌークを訪れ見聞を広めた。短期の滞在であり誤解の可能性も承知で感想を申し上げると、大型のショッピングモールが2020年末に開業し、市内を行き交う若者たちが元気な印象を受けた。
無駄に高層で密に立ち並ぶ高層建物群には好印象は持てないながらも、一方で「凄いエネルギーだな」と感じているもう一人の自分が傍にいた。
(この記事は2022年8月に発行されたNyoNuym120号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリアップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。
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過去の記事
7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光
20:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う
21:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う(続編)
22:統計に見るウイズ・コロナのアンコール観光
23:スラスラン中央寺院(仮称)の復元・再構築
24:新型コロナ一年
25:紙幣の図柄をよく見ると
26:遺跡修復新時代
27:レッドゾーン指定でついに修復作業がストップ
28:観光の再開
29:変わるもの、変わらないもの
30:クメール正月再び♪(2022)
31:遺跡を空から見てみると
32:統計に見るコロナ禍からのアンコール観光回復度
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