アンコール見聞録 #33 在住外国人への遺跡無料パス発行と世界文化遺産登録30周年
アンコール見聞録 #33 在住外国人への遺跡無料パス発行と世界文化遺産登録30周年
2022.11.09

NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」

上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。

 

在住外国人への遺跡無料パス発行と世界文化遺産登録30周年

遺跡チケットの売り上げは過去20年で30倍に

この年、史上最多の約260万人がチケット購入した(2018年2月5日)

アンコール遺跡の入場に際しては、90年代より「外国人は有料で、カンボジア人は無料」という仕組みが今も続く。料金徴収については、1999年5月より2015年までソキメックスが請け負い実績を伸ばし、2016年1月以降はAngkor Enterpriseがこれを継承した。1999年5月から1年間の売り上げは約380万ドルであったが、2018年には1 億1,700万ドルまで急成長した。つまり約20年間で30倍となったのである。

この間、入場券の発券場所は二度場所を変え、規模を拡大した。また料金については2017年2月に、券種ごとに1日券(20>37ドル)、3日券(40>62ドル)、7日券(60>72ドル)と大幅に値上げされた。各券種共通で販売価格の内2ドルはKantha Bopha Children’s Hospitals Fundへの寄付であるが、これを知る購入者は少ない。アンコールは世界の人気観光地ランキングの常連となり、国内において一大産業に発展した。

 

在住外国人への無料パス

8月初頭、とある記事に一瞬目を疑った。それは、カンボジア政府が「在住歴2年以上の外国人に対して無料の遺跡入場パスを発行する」ことを検討しているというものであった。管見の限り、過去20余年でそのような措置が取られたことはなかった。カンボジア政府としては、プノンペン他地方都市の外国人
が、国内を移動し、ホテルに泊まり、レストランで食事することで、内需拡大を喚起する戦略を選択したのである。在住者にとっては、画期的な出来事であり大事件と言ってもいい。

【申請】

下記でのオンライン申請がお勧め。もしくはチケット券売所で対面申請も可能。

Angkor Special Pass website(https://spass.angkorenterprise.gov.kh

必要書類:パスポート、2年間分のビザ、顔写真(4×6)

【発行元:Angkor Enterprise】
Phone:(+855) 63-965-414
E-mail:angkorenterprisekh@gmail.com
Address:Circle Apsara Circle (Angkor Kyung Yu)Street 60m, Treang Village, Sangkat Slor Kram, Siem Reap Town, Siem Reap Province

 

世界遺産登録30周年が目前

カンボジアが世界遺産条約を批准したのは、日本より1年早い1991年で、翌1992年にアンコール遺跡群が世界文化遺産に登録された。本年2022年12月14日でアンコールは世界文化遺産登録30周年という記念すべき日を迎える。この間、2004年には危機遺産から除外されるなど、ユネスコや各国の国際協力による遺跡保護活動などが功を奏した。上智大学のアンコール遺跡国際調査団は、90年代より10名以上の遺跡保存専門家を上智大学等へ留学させ大学院教育を供するなど、今日まで一貫して人材育成を継続している。

 

2022~2023年の整理

2022年
・世界遺産条約採択50周年(ユネスコ)、1972年11月16日
・アンコール遺跡群世界文化遺産登録30周年(カンボジア)、1992年12月14日

2023 年
・日カ外交関係樹立70周年(日本‐カンボジア)、1953年1月9日
・法隆寺世界文化遺産登録30周年(日本)、1993年12月
・アンコールICC(国際調整委員会)発足30周年(カ‐ 日+仏)、1993年12月

 

コロナ禍で人の姿が消えたアンコールワット(2020年3月25日午後3時半)
カンボジア正月は多くのカンボジア人が遺跡を訪れた(2022年4月15日)

(この記事は2022年10月に発行されたNyoNuym121号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)

 

コラムニスト: 三輪 悟(みわ・さとる)

上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリアップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。

 

 

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過去の記事

7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光
20:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う
21:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う(続編)
22:統計に見るウイズ・コロナのアンコール観光
23:スラスラン中央寺院(仮称)の復元・再構築
24:新型コロナ一年
25:紙幣の図柄をよく見ると
26:遺跡修復新時代
27:レッドゾーン指定でついに修復作業がストップ
28:観光の再開
29:変わるもの、変わらないもの
30:クメール正月再び♪(2022)
31:遺跡を空から見てみると
32:統計に見るコロナ禍からのアンコール観光回復度
33:在住外国人への遺跡無料パス発行と世界文化遺産登録30周年

 

 

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