NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」
上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。
今回は、アンコールワットの堀と人のかかわりについて。
アンコールワットの矢ワニ
2007 年のことだが、アンコールワット西参道の第一期修復工事が完成を迎える頃、現場で働く石工らがアンコールワットの堀で一匹のワニを捕まえた。
体長は丁度 1 mであった。ワニの頭部には長さ 10cm 余りの返し付きの鉄製の矢が刺さっていた。
誰かが捕獲し損ねて、ワニは逃げて来たのであろう。
珍客の来訪に石工らが大興奮したため騒ぎを聞きつけた遺跡警察がやってきて、「野生動物だから」との冷徹な理由でワニは没収された。
後に警察がそのワニを食べたであろうことは、疑うべくもないこの国の常識的解釈である。
周囲 5.6km、最深部約 2.5m の堀であるが、静かに見える水面の下には、実はかなり大きな魚がいたりする。
規則では「釣り」は禁止されているものの、70cm 超の大物を釣り上げる姿を目にしたことがある。
また亀の捕獲と販売を繰り返す子供の姿は今も珍しくはない。
規則とその運用の間に大きな「あそび空間」があるのがカンボジアという国なのである。
その後アンコールワットの堀でワニを見たという証言を聞いたことはない。
(この記事は2018年8月に発行されたNyoNuym96号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリァップ本部)助教
1997年10月よりシェムリァップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。
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過去の記事
1:アンコールトーイに行ったことありますか?
2:「今日はいい天気?」~日本とカンボジア~
3:あれから20年
4:カンボジアは日本の先輩!?
5:アンコールワット西参道前の広場
6:アプサラ機構専門家による熊本視察
7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
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