あの歓喜を再び。2015年、サッカーのカンボジア代表はロシアワールドカップアジア地区1次予選でマカオと対戦して勝利をおさめ、史上初めての2次予選へ進出。2次予選では日本代表と対戦し、国内が大いに盛り上がったことは記憶に新しい。
あれから4年。
6月6日(木)、カンボジアの首都プノンペンのオリンピックスタジアムで、2022カタールワールドカップアジア地区1次予選のカンボジア(FIFAランキング173位)対パキスタン(同200位)が行われる。昨年8月、元日本代表本田圭佑選手がカンボジア代表の「Head of delegation」というチーム構成や指揮に対する全権も与えられるというポジションに就任し、日本でも話題となった。ロシアワールドカップ以降、オーストラリアのメルボルンビクトリー(現在は退団)でプレーし、オーストラリアとカンボジアを行き来しながらプロサッカー選手と代表監督というをこなしていたが、登録上の監督は本田氏のパーソナルアシスタントでもあるアルゼンチン人フェリックス・アウグスティン・ゴンザレス・ダルマス氏が務めている。アルゼンチン出身の同氏は若干31歳ながら南米の最高峰の指導者ライセンスを保持し、母国語のスペイン語だけでなく英語、日本語も操るトリリンガルだという。そんなフェリックス監督とは一体、どんな人物なのか、なぜカンボジアへやってきたのか、今回お話を聞きにいってきました。
カタールW杯予選とは?
サッカーのワールドカップ(W杯)は4年に1度開催される世界的なイベント。出場できるのはわずか32ヶ国で、予選には200以上の国と地域が参加。今回は2022年に開催されるカタールワールドカップのアジア地区予選。アジア予選は1次予選、2次予選、最終予選と3回に分けられ、FIFAランキングが低いカンボジアは1次予選からの参加となる。
<アジア地区予選の詳細>
1次予選
出場全46チームのうち、アジア内でのFIFAランキング上位34チームは1次予選を免除。残る12チームが2チームずつの6組に分かれてホーム・アンド・アウェーで対戦し、勝利した6チームが2次予選に進出。
2次予選
1次予選免除の34チームと1次予選勝利の6チーム、合計40チームを5チームずつの8組に分け、ホーム&アウェー方式の総当たりリーグ戦を行う。各組1位のチームと、各組2位チームのうち成績上位4チームは最終予選に進出する。※日本はここから参加
最終予選
方式はまだ未決定。前回大会は2次予選を勝ち上がった12チームを2組に分け、6チームずつのリーグ戦を実施し、各組上位2チームがワールドカップ出場権を獲得。また各組3位同士によるプレーオフを行ない、勝利チームはさらに他地域の国と大陸間プレーオフを行なった。
フェリックス監督の多彩な経歴
本名:フェリックス・アウグスティン・ゴンザレス・ダルマス(Felix Agustin Gonzalez Dalmas)
生年月日:1988年2月2日生まれ(31歳)
現役時代はポジションはMFで日本でも当時JFLの佐川印刷、関西サッカーリーグのAS.ラランジャ京都でプレーしていました。2014年にウルグアイのクラブに所属していましたがその年限りで引退し、その後指導者への道へ進みました。日本語はアルゼンチンに住んでいた時に日本人の友人がいて彼らから学び、その後日本でプレーしていた時にチームメイトや周りの人から教わりました。今もうまく時間を見つけて勉強していますね。
本田圭佑との出会い
本田選手がまだイタリアのACミランでプレーしていた頃に私の大学の友人が圭佑のビジネスパートナーで紹介してもらい、知り合いました。当時、僕はアルゼンチンでのコーチングライセンスを終了したばかりでサッカー関連の仕事を探していて。その後、彼がメキシコに移籍する際に声をかけてくれて一緒に仕事をすることになりました。メキシコでは彼とチームの間に入ってスペイン語の通訳はもちろんのこと、メディア対応、個人トレーニングのサポート、そしてビジネス面においてなど、本当にたくさんのことを経験しましたね。私自身は現役時代に選手としてハイレベルなサッカーを経験できませんでしたが、これまで世界の第一線で活躍してきた彼を通して、サッカー選手として、そして人間としてより高いレベルに到達するためにはどのようにすればいいのかを学びました。彼は普段の生活の中でもサッカーやビジネスに限らず、あらゆる面でどうしたら少しでも向上できるか、世の中をよくできるかを常に考えている。たぶん24時間考えているんじゃないかな(笑)
また、彼は「失敗から学ぶことは多い、失敗は新しいことに挑戦している証だ、だから恐れずにどんどんチャレンジしよう」と言っていて、当時の私にとってそれは思っていない新しい発想でした。今はその言葉を意識しながらカンボジアで日々チャレンジしています。
そして、カンボジアへ
ある日、本田選手は私にカンボジアについて語ってくれました。彼曰く、カンボジアは本当にいい人がたくさんいる素晴らしい場所だから実際、自分の目で現地の様子を見て感じてほしいと。そして彼はカンボジアをいい方向へ導いていくための筋道を作りたいと話してくれ、もしよかったら指導者として一緒にカンボジアのサッカーを支えていこうと誘われ、快く快諾しました。
最初に訪れた時は約3週間ほどの滞在で、毎日本当にすごい衝撃的なことの連続でしたが、本当に素晴らしい経験で本田選手が言っていた意味が来てみてわかりました。私はアルゼンチンで生まれ育ち、本当に大好きな場所でしたが、10歳の時に国内が経済危機に陥り、家族でアメリカへ移住しました。その頃は本当に何も持っていなく、両親は僕の将来のために必死になって働いて育ててくれました。現在、社会が成長途中のカンボジアを見ているとその頃を共通するものを感じますね。当時のアルゼンチン同様、このカンボジアでプレーする選手たちのバックグランドもバラバラで、それぞれ抱えている問題もあると思います。私はまだ彼らの気持ちを全てはわかりきってはいないと思いますし、大したことは言えないですが彼らとたくさんの時間を過ごして、いい方向へ導いていきたいと思っています。
代表監督の仕事
カンボジアに来てからは本当に多くの仕事がありますが、その一つで他国の代表監督と同様にカンボジア国内リーグでプレーする選手たちのスカウティングをしています。A代表だけでなく、U-22カンボジア代表(22歳以下の代表)も指導しているので、試合のチェックや分析は日々欠かせませんね。最近は新しいアシスタントコーチのリクルートなども行なっています。また、カンボジアの選手は本当に勉強熱心で、毎日ミーティングやトレーニングの内容でわからないことがあるとSNS等を通じて素直に私に聞いてきますね。彼らはサッカーが上手くなるために私達からいろんなものを吸収したいという意欲を常に持っており、それは成長していくためには一番大事なことだと思います。このような選手の成長を感じると同時に様々な問題も日々起こりますが、このカンボジアプロジェクトは簡単じゃないからこそ価値があると思います。私が関わるどの仕事に関してもカンボジアにとってベストな選択をするように心がけています。
カンボジアサッカーに必要なこと
私はこれまでの人生の大部分をサッカーに関わってきましたがサッカーは特別なパワーがあると思っています。サッカーは世界で最も注目されているスポーツで誰でも気軽にプレーすることができ、多くの人を幸せにすることができる。また、サッカーは教育のツールとしても重要な役割を持っています。感情のコントロール、対戦相手やチームメイトへのリスペクト、そして夢を持つことの大切さなどサッカーを通して学ぶことはたくさんありますね。これからカンボジアのサッカーが成長していくためには子供の頃から良い教育や良いコーチからの指導が必要ですが、重要なのはこれらを続けていくこと。それが真のプロフェッショナルだと思っています。
そして、カンボジア代表チームは子供たちにとっていい指標で、サッカー選手としてだけでなく、人間としてどうあるべきかを表現する必要があります。また、以前の日本もそうだったように代表チームを強化していく上で、カンボジア人選手たちもどんどん海外に出て経験を積むべきですね。近年、海外でプレーするカンボジア人選手も増えてきたいま、国外へのドアは開かれています。そしてカンボジア国内でも数年前と比べてもどんどん経済が伸びているので、サッカー含め何事もこれまでのようにがむしゃらにやるのではなく、スマートに賢く効率的に物事を進める段階にきていると思います。その国内外で経験を積んだ選手たちが目指す最終着地点として代表チームが存在します。今後、カンボジアという国が成長していく上でもサッカーカンボジア代表は重要なポイントとなるでしょう。
カタールW杯アジア地区1次予選に向けて
対戦相手のパキスタン代表は情報が少ないですが、何人かデンマークとイングランドなど欧州でプレーしている選手もいるようで今回のメンバーにも入ってくる可能性ありますね。パキスタン代表は強敵ですが、我々にとってこの試合はいいチャレンジだと思っています。どんな試合でも基本的なベースは変えずに、相手に関係なく主導権を握ったサッカーをしていきたいですね。明後日はスタジアムで応援宜しくお願いします!
※写真提供:FFC(カンボジアサッカー協会)
※取材:狩野宏明(CJS)
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