日本の文化、カンボジアの文化と聞いて、皆さんはどんなことを思い描きますか?
文化は人類が、それぞれの地域や社会においてつくりあげ、伝承してきたもの。
異なる文化の中で育っていても、自分の考えを伝えることで共感しあい、新たな文化をつくりあげることもできます。
国際文化交流の専門機関として日本とカンボジアの交流に取り組んでいる国際交流基金プノンペン連絡事務所と、カンボジアの文化や社会を多面的に伝え続けてきたニョニュムが、旬の文化人や文化交流のキーパーソンをご紹介します。
~ことばのその先にある文化を伝えたい~ ハン・マカラーさん
「Hello Japan!」で始まる動画YouTubeチャンネルでおなじみの、ハン・マカラーさん。
2020年8月から、国際交流基金アジアセンタープノンペン連絡事務所のFacebookページで日本文化・日本事情の紹介動画『Hello Japan』を配信し、合計で28本、55万視聴回数を誇る。
人気の高かった動画は
・1 分でも遅刻!??
・日本の結婚式ってどんな感じ?
・すみません、よくわかりません
など。
日本語を学び、教え、そして今では日本とカンボジアをつなぐ企業の人材総合サービスの会社「Ayum Japan Consulting Co.,Ltd.」を立ち上げ、日々日本とカンボジアの懸け橋として活躍している。
マカラーさんの日本語に対する、そして日本に対する思いを聞いた。
マカラーさんが⽇本や⽇本語に興味を持ったきっかけを教えてください。
私はシェムリアップ出身で、小さい頃から日本人観光客を含め、多くの外国人が周りにいる中で生活をしており、日本語をはじめ、多くの外国語に触れてきました。
ある時、私が通っていたお寺の中にある小学校に日本の支援で新しい校舎ができたんです。
学校では、お坊さんが英語、日本語、タイ語などを教えるクラスを開いており、そこが日本語との出会いでした。
その後、高校になって、自分の将来について真剣に考えたとき、単に語学だけで仕事をしていくのか、他のスキルを身につけるべきなのかという悩みがありましたが、高校を卒業して政府の奨学生枠で王立プノンペン大学外国語学部日本語学科(IFL)に入学することが決まり、その悩みを持ちながらプノンペンにやってきました。
入学前はガイドができる日本語レベルをイメージしていたんですが、実際に日本へ行く機会にも恵まれ、日本語をもっと深めたいという気持ちが芽生えました。
そうやってもう1つ高いレベルを目指そうと思ったのと同時に、自分が未熟だということを自覚しました。
それからは言語だけでなく、気候や四季、お祭りなどの日本文化にも興味を持ち、一生懸命勉強しました。
初めて日本に行ったのは2009年、大学2年生の時です。21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)という日本政府のプログラムで日本に行く機会をいただきました。
東京と北海道を訪れて、日本の学生と交流をしたんです。当時は出発から帰国までとにかくカメラを離さず、見るものをすべて撮影していました。
ついつい、トイレの中まで撮影していました(笑)。
IFL で⽇本語教師をされた後、⽇本の⼤学院に進学されていますが、なぜ⽇本への進学を決められたのですか?また、⽇本での学生生活はいかがでしたか? 楽しかったことや⼤変だったことなど教えてください。
日本語教師という仕事には幼い頃から興味があり、IFLでの日本語教師の仕事を選択しました。
大学を卒業してすぐに教壇に立ったこともあり、とにかく大変なことが多かったです。
例えば、日本語の語学スキル、クラスのコントロールや教え方など、教師としてのスキルが不足していました。そのため、生徒が理解しやすい教え方もわかりませんでした。
また、少し前までは先輩だった立場から急に先生という立場になり、生徒との距離感なども難しい部分がありました。
そんな時、日本の文部科学省の奨学生として日本に行くチャンスが巡ってきたんです。
実は、この奨学金を得る前にも、国際交流基金の枠に2回、文部科学省の枠に1回、応募して落ちていました。
ですが、2015年にようやく「日本で教育を学びたい」という夢が現実になりました。
日本にはたくさんの大学院がありますが、日本人の友人やホームステイでお世話になった家族などに日本で教育を学ぶにはどこの学校が良いかと尋ねたところ、「東京学芸大学の大学院がたくさんの教師を輩出していて、 日本の教育分野ではトップクラスの大学だよ」と教えてもらい、東京学芸大学の大学院への進学を決めました。
そして大学院では、語学ではなく、教授法やクラスマネジメントなど自分が学びたかった教育について勉強しました。
日常生活ではいろいろなところに遊びに行ったり、ボランティアに参加したりしました。
小学校でのボランティアには、 ベトナム人、タイ人、カンボジア人の学生がいました。
日本語ができない子どもに通訳して勉強をサポートするだけではなく、メンタル面でも寄り添うという活動をしていました。
また、他にも「留学生が先生」という、留学生が自国の文化や自分のヒストリーを日本の子どもたちに紹介するというボランティアに参加したこともあります。
カンボジアのことを知っている子どもたちはとても少なく、そんな子どもたちに母国カンボジアを知ってもらい、興味を持ってもらえる良い機会で、とても思い出に残っています。
⽇本語を学習する楽しさや⼤変さはどんなことがありましたか?また、在学中からYouTube で⽇本語の授業を無料配信されていたそうですが、そういった活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
カンボジアで日本語を勉強しているときに日本語を教えることがとても上手な日本人のYouTubeを見ていました。
留学中、思い切って彼にメッセージを送ってみたところ、会ってくれることになったんです!
彼とは、仕事や日本語学習のことを話しました。
そしてその流れで自分のYouTubeに出ないかと誘ってくれたんです。その日のうちに撮影もしたんですよ(笑)。
それ以来、自分でもクメール語で日本語や若者言葉などを伝えるYouTubeチャンネルを作り活動するようになりました。
現在では、Facebookを中心に配信しています。プノンペンの街中でも声を掛けられることもあり嬉しく思っています。
カンボジアに帰国後、⼈材総合サービスの会社を⽴ち上げられました。その理由や、会社ではどのようなことをされているか教えてください。
2018年4月にカンボジアに帰国しました。帰国後は、言語に限らずカンボジアの「教育」に携わりたいと考えていました。
その時、同じ思いを持った日本人のパートナーと再会し、就職~人材育成・定着までをサポートできる会社を立ち上げました。
設立してちょうど3年が経とうとしていますが、新しいプロジェクトにチャレンジしたり、少しずつですが会社の規模も大きくなったりと、挑戦の日々を送っています。
また、これまでの経験を生かして研修講師も担当していますが、講師としては日系企業で働くスタッフの方へ、日本文化やビジネスマナー「報・連・相」など25種類のカリキュラムを開発し、教えています。
言語は学校で学ぶことができますが、ビジネススキルなどのソフトスキルを学べる場所は少ないと感じています。
日本で学んだ事や日本人と一緒に仕事をする中で感じた実体験を通して研修できることはやりがいです。
そして日本人とカンボジア人がより相互に理解しあえるようなサポートをすることが私の使命だと思っています。
これからも、弊社のサービスを通じて日系企業が更に成長できるお手伝いをしてきたいです。
2020年、国際交流基⾦アジアセンタープノンペン連絡事務所とコラボし、Facebook に日本文化・日本事情などを紹介する動画『Hello Japan』の配信をスタートしました。このプロジェクトを通して、カンボジアのみなさんに伝えたいことはどのようなことですか?
カンボジア人の若者に日本の文化、日本での生活習慣を伝えたいと思い、この動画を制作してきました。
日本に関する基本的な情報はネットで検索すると調べられますが、この動画では失敗談も含め実体験をもとに細かい部分まで紹介しています。
具体的にはごみの出し方が分からず怒られたという経験や、あいまいに「わかりました」と返事をした場合に起きる日本人とのトラブル事例などを伝えています。
この動画は、これから日本へ仕事に行こうとしている人からの反響が多いです。
日本に行ったら守らなければならないルールなどを知りたいと言われることが多いですね。
視聴者の方々が疑問に思っていることに応えるため日々コンテンツを考えています。
最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。
自分を通じて日本のこと、日本人のことを知ってもらいたいです。ただお互いのことを知らないということだけで信頼関係を損ねることがあるんですよね。
カンボジア人が「普通」と思っていることが日本人にとってはそうでないことがあります。それは「当たり前」の基準が違うからです。そういったことを配信動画で知ってほしいです。
日本人のみなさん、「なぜカンボジア人は…?」と疑問に思うことがあれば、いつでもご相談ください。
両者が理解をし合おうという気持ちが大切だと思っています。両国の架け橋となれるよう、これからも努力していきます!
プロフィール
Han Makara(ハン・マカラー)
シェムリアップ出身。王立プノンペン大学外国語学部日本語学科を卒業後、同大学で3年間日本語を教える。その後、日本の国費外国人留学生として来日し、2018年に東京学芸大学大学院修士課程教育学研究科修了。在学中から日本語教師として Facebook やYouTube で無料の日本語授業を配信。帰国後は仲間と人材総合サービスの会社 Ayum Japan Consulting Co.,Ltd. を立ち上げ、日本人との働き方・ビジネススキルなどの研修講師としても活躍。
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