日本の文化、カンボジアの文化と聞いて、皆さんはどんなことを思い描きますか?
文化は人類が、それぞれの地域や社会においてつくりあげ、伝承してきたもの。
異なる文化の中で育っていても、自分の考えを伝えることで共感しあい、新たな文化をつくりあげることもできます。
国際文化交流の専門機関として日本とカンボジアの交流に取り組んでいる国際交流基金プノンペン連絡事務所と、カンボジアの文化や社会を多面的に伝え続けてきたニョニュムが、旬の文化人や文化交流のキーパーソンをご紹介します。
~日本語を通して若いカンボジア人サッカー選手の可能性を広げていきたい~三丸俊大さん
タケオ州バティにあるカンボジアフットボールアカデミーでは、2021年5月から国際交流基金(JF)制作の『いろどり 生活の日本語』をメインテキストとして、日本語の授業をU-18の25名の選手向けに実施中。
将来、アカデミーを卒業した選手がJリーグに挑戦する際にコミュニケーションの一助になることを目指しています。日本語学習中の選手たちはJFによる日本語・日本文化紹介イベントに参加したり、日本の大学生とのオンライン交流(全3回)にも参加しました。
そんなアカデミーで日本語教育に奮闘するのは三丸俊大さん。東京都出身で國學院大學大学院を卒業後、2018年からネパールサッカー協会ナショナルチームでゴールキーパー(GK)コーチを務めた経験を持ちます。
2020年からカンボジアサッカー協会(FFC)所属GKコーチに就任し、カンボジアフットボールアカデミーでU-18のサッカー指導を行う傍ら、選手と共同生活し、生活指導、英語・日本語教育にも従事しています。
今回は、三丸さんの日本語教育に対する思い、コーチとしての活動を聞かせていただきました。
Q.三丸さんはGKコーチとしてA代表、U-23代表チームに帯同し、10月は海外遠征されました。活動の場がアカデミーに留まらず大変お忙しそうですが、直近のお仕事について教えてください。
アカデミーでU-18のGKコーチを行うのとU-19代表の指導を行うのがメインでカンボジアに来ました。ただ、契約内容にはA代表とU-23の選手たちへのサポートも入っているので、今はここで4つのカテゴリーでの指導をしています。
赴任してから1年半、ここタケオ州バティでカンボジアの選手たちと共同生活をしつつ、選手の生活指導もしています。それと並行してU-23やA代表のトレーニングキャンプが入ってくれば、それに付いて行って、GKの指導とチームへのサポートも行っています。
Q.三丸さんがカンボジアに来られたきっかけを教えてください。
カンボジアでU-20とU-18の代表監督兼アカデミーU-18監督を務める行德浩二監督の誘いでカンボジアに来ることを決めました。行德監督とは僕がネパールにいたときに知り合って、カンボジアに呼んで頂きました。
ネパールでもそうですが、カンボジアでも現地でいろいろな方々との関わりができて、素晴らしい経験をさせていただき本当に来て良かったです。
Q.指導されている選手たちの情熱はどう感じ取っていますか。
2023年にカンボジアが主催国となる東南アジア競技大会(SEA Games)があるので、それに向かってみんなのパワーが沸き上がっている感じがあります。
Q.現在は選手と共同生活をしながらサッカーの指導をされているとのことですが、アカデミーでの仕事のやりがいや大変なことなど教えてください。
ここの練習場はよく整備されていますよね。こんなところにこんな立派な練習場があるとはカンボジア人も、そして日本人もあまり知らないと思います。実はこの施設は2023年のSEA Gamesでカンボジアが優勝することを目標に、サッカー選手を育成していくために設立されたんです。そしてそのために、日本人のコーチが何代かにわたって指導に来ています。
今私が指導している選手たちは今まだ16から18歳なので、2023年にSEA Games代表選手として選出されるかは分かりませんが、カンボジアの次世代のサッカー選手を育てていくという意味で、この施設はとても重要な役割を果たしていると思います。
大変なことに関しては、カンボジアの選手たちは共同生活におけるマナーやルールをあまり意識しないということですかね。たとえば共有スペースの認識があまりないようで、私物を置きっぱなしにして片付けようとしません。それを何とかやめさせようと私がいちいち私物置き場にそれぞれの名前を書いて貼ったりしています。
また、他人のことを考えて行動するというマナーや、時間を守るといった日本人からすれば些細な常識的なことですが、とても重要なことを教えようと努力しています。こういった日本的なマナーとかルールをこの時期に身に付けていれば、将来社会に出たり日本や海外で活躍するときに、必ずためになると思っています。
Q.現在は、英語の授業に加えて『いろどり 生活の日本語』を使って日本語も教えられていますが、本物の先生さながらです。サッカーだけではなく語学を教えることも得意なのでしょうか。また、選手の反応や上達具合はいかがでしょうか。
日本語を教えるのは初めての経験です。選手みんなも日本語がまったくできない状態だったので、日本語を学ぶのが嫌いにならないように、子どもに日本語を教えるように丁寧に授業をしています。サッカーの練習は厳しくやっていますが、日本語の指導は優しく、飽きないようにやっている感じです。
選手たちの日本語学習に対する反応ですが、いい感触です。英語と日本語の授業をやっているのですが、英語より日本語の反応のほうが良く、授業に対する意欲もあります。日本人のコーチが何人かいて実践的に日本語が使えるので、それが面白くて真面目に取り組んでくれるのだと思います。
今はひらがなとカタカナが書けるレベルを目指していますが、文字だけでなく覚えた日本語を喋ろうとしている子もいるので、学習意欲を感じます。すでに何人かは簡単な日本語の会話もできるので、まだできない子の良い刺激になるかと思います。
Q.選手たちはJFによる日本語・日本文化紹介イベントに参加したり、日本の大学生とオンライン交流などの課外活動にも積極的に参加されましたが、そのような外部との交流で何か変化はありましたか。
日本語を話したい意欲のある選手6人が関西国際大学の大学生たちと交流するオンラインイベントに参加しました。反応はとても良かったですよ。簡単な日本語で自己紹介をしたり、日本の学生が話した日本語を理解したり、日本人に直接いろいろ伝えてそれがきちんと伝わったという実感を持てて嬉しかったようです。こういうイベントは、日本語学習者にとって達成感を感じられる場だと思いますね。
Q.サッカー以外の生活指導や語学学習などを通じて、選手たちには何を得てほしいと思っていますか。
サッカーだけでなく、生活態度や語学を身に付けることで、どこに行っても重宝されるようなキビキビ動ける人間になってほしいですね。日本語に関しては若い時からいろいろ学んでおけば、いつかそれが役に立つ日が来ると思います。将来身に付けた日本語でいろんな可能性を広げてほしいです。日本語を通して将来の選択肢を広げてあげたいです。
Q.2023年の自国開催のSEA Gamesに向けて、カンボジア国内は盛り上がりを見せています。その中でも特にサッカーへの注目度が高いですが、三丸さん個人、またチームとして目標はありますか。
個人的には、最初から優勝を目指すのではなく、目の前にある試合一戦一戦に勝つということを目標にしています。その積み重ねによって、優勝に近づいていくという考え方です。
もちろん選手やチーム、そしてカンボジアという国にとっては優勝するのが最終目標であり夢であると思いますが、それに向けて今から何を準備したらいいかを考えることが大事です。
たとえば優勝するためには、隣国のタイとベトナムに勝たなければならない。そのための準備が大切です。ですから、良い準備をして目の前の一戦一戦に勝てるようにします。
Q.今後、コーチとして取り組んでみたいことがあれば教えてください。
自分自身、学び続けることはやめたくないです。自分が学んだ新しい知識と情報を選手たちに与え続ける。これがコーチとしてやっていきたいことです。来年になるとカンボジアはU-19、U-23、A代表でさまざまな国際試合が予定されています。2023年に向けて来年行われるすべての試合に勝てるよう良い準備をしたいです。そして、試合を通して選手たちにいろいろな気付きを得てもらいたいですね。
Q.カンボジア人と日本人のサポーターへ一言お願いします。
サッカー選手が成長していく過程では、サポーターからの応援が欠かせません。金銭的支援もありがたいですが、やはり足を運んでスタジアムまで試合を見に来ていただけるのが一番です。
ネパールでは、ワールドカップ予選など世界各国での試合でもネパール人サポーターが多く集まっていて、それがチームにとって大きな力になりました。サポーターがスタジアムに足を運び、自国チームが戦っている姿を実際に見て、その興奮を感じ、自分の国に対し誇りを持ち応援すること。それが良いのだと思います。
選手が一生懸命プレーする姿を実際に見たら、心を動かされると思います。ぜひ、スタジアムで一緒に感動してもらいたい。それが最大のサポートなのだと思います。
そして、私たち日本人もこの国のサッカーのために全面的なサポート体制を作っています。A代表からユースまで、何代にもわたって日本人コーチが現地に根付いて指導するという国はカンボジアだけと言ってもいいと思います。今は僕を入れて日本人コーチが4人常駐していますし、ご存じのとおりA代表とU-23代表は本田圭佑選手をはじめとして多くの日本人が関わっています。日本が総力的にカンボジアのサッカーをサポートしています。日本人コーチがどう生活し、どんな指導をしているのか興味があれば、ご連絡ください。
日本語を学ぶ選手にも聞きました!
レート・リーヘン選手(17歳/GK/FFCアカデミー所属)
三丸先生からサッカーの指導に加え、日本語を学ぶこともできてとても嬉しいです。GKのトレーニングだけでなく、日本語や英語を学ぶことは、将来外国人コーチとのコミュニケーションの際に必ず役立つと思います。今は日本語がちょっとわかるようになり、片言ですが話せるようにもなりました。日
本語は勉強しやすいので、もっと学びたいです。三丸先生がここに来てから、生活の規律、そして責任ある選手になれと、いろいろ教えてくださっています。日本の知識と新しいサッカーのテクニックを指導してくれる先生に感謝します。
チャン・ヴィボル選手(17歳/FW/FFCアカデミー所属)
日本人の先生と一緒に日本語が学べることを嬉しく思います。日本語を学んでから間もないですが、簡単な日本語が言えたり、日本語を聞きとることができるようになりました。僕は日本語を学ぶのが好きです。日本人のコーチが多くいるので、コーチとコミュニケーションがとれることは選手にとって大切だと思います。これからも日本語を学ぶ機会があれば続けていきたいです。
ピッチ・カウット選手(18歳/MF/FFCアカデミー所属)
日本語を学べて嬉しいです。日本語は難しくなく理解しやすいので、すごく好きです。日本語がある程度理解できたり話せるようになりました。三丸先生からは、日本語だけでなく生活習慣や規律あるサッカー選手になるためのさまざまな指導を受けています。三丸先生に出会えてラッキーだと思います。
アカデミー出身のカンボジアA代表チャンティア選手も現在『いろどり生活の日本語』を使って日本語を勉強中。三丸さんがチャンティア選手に日本語を教える「今日のチャンティア~日本語チャレンジ~」はJFAC Fecebookページで好評配信中!
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