NyoNyum Magazine にて連載しているスローライフエッセイ「Moi Moi ライフ」
(「Moi Moi」とは、クメール語で「ひとつひとつ、ゆっくりと」の意味)
シェムリァップで暮らす小出陽子さん。自身が運営するカフェレストラン「Cafe Moi Moi」での発見や、NGO「アンコール人材養成支援機構:JST」の活動、JSTがサポートしている「バイヨン中学高等学校」の近況、そして普段の暮らしで感じたいろいろなことを綴ります。
今回は、小出さんの畑に来た”ノマド”な人々について。
カンボジア遊農民のキュウリ畑
遊牧民ならぬ“遊農民”の一族3家族が訪ねてきたのは、一昨年の雨期の初めのことでした。アンコールクラウ村にある我が家の遊閑地で、キュウリを栽培したいと申し出てきたのです。
了承するや否や、即座に土地を耕し、畝をつくり、種を撒き、枝木を支柱としてキュウリを育てること50日。成長した大量のキュウリを収穫し、市場で売りさばき、あっという間に去っていきました。
聞くところによると、彼らは土地を持たない農民で、シェムリァップ周辺の使っていない農地を転々としながら、キュウリを作り続けているとのこと。
行く先々で、木の枝とビニールで仮設のテントのような“家”をつくり、畑の中で生活をしながら、キュウリの成長を見守っています。
テントといっても単にビニールを屋根状に組んだ枝に引っ掛け、小枝の重しを載せただけ。雨期の豪雨の下では、ビニールは舞い上がり、びしょ濡れになること間違いなし。濡れた衣類や家財道具は、昼間に自然乾燥させれば何の問題もない、と考えているようです。
食事は、薪を集めて火をおこし、持参した鍋で作りますが、食材は、畑の横を流れる川で捕まえた魚や蛙や睡蓮の茎など。畑に隣接する小さな森に入れば、木の実や香草も豊富に自生しているので、食べ物には全く困らないとのこと。
原始的な生活スタイルそのままでプロの農民として生きる彼らに、カンボジアの大地の懐の深さと、人間が本来持っている生きる力を垣間見たようでした。
また、農民は定住しているもの、という概念を打ち破るカンボジアらしい出来事でもありましたが、考えてみれば、連作に適さないキュウリ栽培を行うならば、3カ月に1度ほど土地を替えながら2年周期くらいで農業を行う方がずっと効率的なのかもしれません。
とはいえ、今後、彼らは、環境や社会の変化に、どう折り合いをつけながら生きていくのでしょうか……。興味は尽きません。
(この記事は2014年10月に発行されたNyoNuym73号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
一級建築士 ・ レストランオーナー
2000 年、UNESCO/JSA 遺跡修復オフィス建設のためカンボジアに赴任。2005 年シェムリァップにレストランカフェ「Cafe Moi Moi」 をオープンする。同年 JST(NGO;アンコール人材養成支援機構)を設立に携わり農村地域の支援活動を始める。現在は、バイヨン中学校、高校の運営も行っている。
JSTホームページ Cafe Moi Moi 紹介記事
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6:読み書きができない村の若者たち
7:ひょんなことからレストラン経営へ
8:おばあちゃんになっても!?
9:中学校がほしい!
10:みんなで中学校をつくろう!
11:村の中学校が開校した!
12:未来へのバトン
13:農村案内ツアー開始!
14:雨降って地固まる
15:20年の重み
16:カンボジア遊農民のキュウリ畑
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