NyoNyum Magazine にて連載しているスローライフエッセイ「Moi Moi ライフ」
(「Moi Moi」とは、クメール語で「ひとつひとつ、ゆっくりと」の意味)
シェムリアップで暮らす小出陽子さん。自身が運営するカフェレストラン「Cafe Moi Moi」での発見や、NGO「アンコール人材養成支援機構:JST」の活動、JSTがサポートしている「バイヨン中学高等学校」の近況、そして普段の暮らしで感じたいろいろなことを綴ります。
今回は、アンコールワットのもう一つの顔について。
真夜中のアンコール・ワット
アンコール・ワットほど昼と夜とで趣が変わる場所はないのではないでしょうか。
いや、「趣」といった穏やかな表現ではなく、「世界」と言った方が適切かもしれません…。
現在、アンコールの各遺跡では夕方の定時になると遺跡監視員が敷地内を回りはじめ、観光客は退出しなければなりませんが、そんなとき、後ろ髪を引かれる思いでアンコール・ワットを見上げると、夜の帳が下りはじめた瞬間から、異次元とでもいうべき世界に向かって刻々と変化していくその姿に驚きを禁じ得ないときがあります。
まず、どこからともなくやってきた沢山の猿たちがアンコール・ワットの上に登り始めます。
そして、祠堂の上、回廊の屋根の上などから、アンコール・ワットを、いや世界を征服したようなドヤ顔で周囲の森を見わたしています。
南方からはコウモリたちが飛来し、あるものは回廊の中へ、あるものは周囲の森へと静かに消えていきます。
また、脇の小道を歩いていたときのこと。
突然の「ガオォォォォ!」という唸り声に驚き、そちらに目を向けると、側溝から何ものかが強烈なオーラを放ちながら威嚇している姿が目に飛び込んできました。
それはなんと、コブラでした!!︎ 腰を抜かしそうになるほど驚き、一目散でその場から離れましたが、私の脳裏に焼き付けられたコブラの姿は、その威嚇音と相まって、何本もの広がった姿、まさにアンコールの寺院の欄干に置かれているナーガの彫像そのものでした。
そして私は悟ったのです。たくさんの観光客が訪れるようになる前は、アンコール・ワットは彼らあらゆる生き物たちの棲家だったのだと。
今でも人間が見ている世界は光のあたった半分でしかないということを。
真夜中、アンコール・ワットでは、精霊たちも加わって、賑やかな饗宴が繰り広げられているに違いありません。
(この記事は2017年2月に発行されたNyoNuym86号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
一級建築士 ・ レストランオーナー
2000 年、UNESCO/JSA 遺跡修復オフィス建設のためカンボジアに赴任。2005 年シェムリアップにレストランカフェ「Cafe Moi Moi」 をオープンする。同年 JST(NGO;アンコール人材養成支援機構)を設立に携わり農村地域の支援活動を始める。現在は、バイヨン中学校、高校の運営も行っている。
JSTホームページ Cafe Moi Moi 紹介記事
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21:近くて遠いアンコール遺跡
22:バイヨン中学校の養殖プロジェクト
23:お菓子をめぐる歴史ロマン
24:どうなる?バイヨン中学校完成式典
25:半年後、道は開けるか?
26:クメールの源流をたどり、スリランカへ
27:初めてのクーラー
28:アンコール・ワットの珍味
29:真夜中のアンコール・ワット
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