(日本語) Moi Moi ライフ #3 遺跡修復プロフェッショナル一家
(日本語) Moi Moi ライフ #3 遺跡修復プロフェッショナル一家
2020.02.01

NyoNyum Magazine にて連載しているスローライフエッセイ「Moi Moi ライフ」
(「Moi Moi」とは、クメール語で「ひとつひとつ、ゆっくりと」の意味)

シェムリァップで暮らす小出陽子さん。自身が運営するカフェレストラン「Cafe Moi Moi」での発見や、NGO「アンコール人材養成支援機構:JST」の活動、JSTがサポートしている「バイヨン中学高等学校」の近況、そして普段の暮らしで感じたいろいろなことを綴ります。

今回は、日本政府遺跡救済チームにいる職人の家族について。

遺跡修復プロフェッショナル一家

日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JASA)の修復事業も今年で18年目となりました。事業開始当初から修復に携わっているカンボジア人作業員の中には、現在はその子供も一員であるという家族も珍しくありません。

特に副棟梁のチン・ダオイ一家は、4人もの息子がJASAチームに所属し、修復職人の中でも一目置かれた存在となっています。

そのような中、現在、バイヨン寺院で行われている「散乱石材の組み合わせ作業」で、ダオイ親子が大活躍をしていると聞き、現場を訪ねてみました。

バイヨン寺院内には6万個以上の落下石材が散在しており、JASA では、そのうち約3,000 個をバイヨンの南側に集め、部材ごとにグループ分けし、隣接する石材を探す作業を行っています。

その作業チーム9名のうち5名がダオイ親子です。父親のチン・ダオイ氏(66 歳)を筆頭に、三男ソール(38歳)、四男チュラッチ(30歳)、五男ダー(25 歳)、六男ダエン(21歳)が、脈絡なく散らばる石材同士を組み合わせ、まさに立体パズルのような作業を続けているのです。

わずかなレリーフ模様を手掛かりに、無数の石の塊の中から、たったひとつのピースを見つけ出す能力は、根気と忍耐力はもちろん、それまでの修復現場で培われた経験と勘があるからこそ為し得る職人技です。

現場には、彫刻の連続模様がみごとに繋がった石が積み上げられ、いくつもの固まりになって置かれていました。父親のチン・ダオイ氏は、18 歳でフランスの修復チームに入り、その後、インド隊、ハンガリー隊、保存事務所などの現場で働き、石工としての腕をみがいてきました。

4 人の息子たちは、毎日、父親に直接指導を受け、修復技術を学んでいます。六男以外の息子たちは結婚し、独立してそれぞれ別に暮らしているのですが、日本のチームで安心して遺跡修復の仕事を続けられること、そして、毎日親子が同じ現場で顔を合わせて仕事ができることがとてもうれしい、子供や孫にも受け継がせたい、と口を揃えて話してくれました。

JASAでは、バイヨン寺院南の Bayon Exhibition Hut にて、修復事業の過程や研究の最新成果を展示し、当時の石積み道具などを再現して紹介しています。

隣接する石材置き場では、上記のような修復職人たちの作業をリアルタイムで見ることもできます。遺跡修復現場の空気を丸ごと感じてみたい方、ぜひ一度、訪ねてみてはいかがですか ?

(この記事は2012年8月に発行されたNyoNuym60号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)

コラムニスト: 小出 陽子(こいで・ようこ)

一級建築士 ・ レストランオーナー
2000 年、UNESCO/JSA 遺跡修復オフィス建設のためカンボジアに赴任。2005 年シェムリァップにレストランカフェ「Cafe Moi Moi」 をオープンする。同年 JST(NGO;アンコール人材養成支援機構)を設立に携わり農村地域の支援活動を始める。現在は、バイヨン中学校、高校の運営も行っている。
JSTホームページ Cafe Moi Moi 紹介記事

 

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1:マンゴーの季節
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