NyoNyum Magazine にて連載しているスローライフエッセイ「Moi Moi ライフ」
(「Moi Moi」とは、クメール語で「ひとつひとつ、ゆっくりと」の意味)
シェムリアップで暮らす小出陽子さん。NGO「アンコール人材養成支援機構:JST」の活動、JSTがサポートしている「バイヨン中学高等学校」の近況、そして普段の暮らしで感じたいろいろなことを綴ります。
今回は、『インドラネット』について。
『インドラネット』
私がカンボジアに来たばかりの頃は、テレビもなく、メールの送受信もままならない環境の中、毎日の楽しみは眠りにつく前に読む小説でした。仕事は深夜に及ぶことも多く、一日の終わりは頭も身体も疲労困憊。軽く読み進められ、かつストーリー展開が魅力の桐野夏生さんの小説は、数少ない娯楽の一つでした。
そんな桐野さんがカンボジアを舞台にした小説を書かれるということで、出版社の方々とシェムリァップにいらしたのは4年前のこと。あるご縁で繋がり、滞在の一部をご一緒させていただきました。そして今年。待ちに待った小説が上梓されました!タイトルは『インドラネット』。
インドラ神をイメージした神話的な内容かと思いきや、現代のカンボジアを舞台にした波乱万丈の物語で、カンボジアの熱い空気を纏いながら終盤に向かって加速する怒涛の展開にハラハラ、ドキドキ。一気に読み終えました。終盤は桐野ワールド全開! カンボジアは2泊だけ、しかもシェムリアップのみの訪問で書き上げたとは思えない内容で、プロの作家とはこういうものか!と納得。
夫の経歴に似た人物が登場したり、夫の名前が出てきたりしたのには驚きましたが、もし映像化されたら歴史に残るロードムービーとなるのでは、とも期待が…。というのも、本書はジョセフ・コンラッドの『闇の奥』を原案にしたフランシス・F・コッポラの映画『地獄の黙示録』が意識されていると、桐野さんが出版後の対談で話されていたからです。
また、物語にはアンコール遺跡の描写は特にないのですが、宮沢賢治の短編『インドラの網』とあわせて読んでみてください。飛天が舞うアンコールの世界がふわっと広がります。こうして全体を俯瞰してみると、ストーリーの奥に隠された別の姿が見えてきます。そしてこの本は、悲劇の歴史と現代のカオス、カンボジア人の魂が散りばめられた、まさにカンボジアをまるごと表した現代小説なのだと知るのでした。
※小説「インドラネット」に興味を持った方はこちらから購入できます!
(この記事は2021年10月に発行されたNyoNuym115号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
1992年早稲田大学大学院卒。一級建築士。2000年、UNESCO/JSA 遺跡修復オフィス建設のため、カンボジアに赴任。2005年シェムリァップにレストランCafe Moi Moiをオープンする(一時休業中)。同年JST(NGO:アンコール人材養成支援機構)を設立し、農村地域の支援活動を始める。2013年“アンコールの都の西北” に公立のバイヨン中学校を創設。2019年には高校も併設され、現在、全校生徒820人の学校運営を行っている。
JSTホームページ Cafe Moi Moi 紹介記事
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39:#cafemoimoi で繋がる輪
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41:粋なお福分け
42:魅惑のカンボジア発酵魚料理
43:NyoNyumとカンボジアと私
44:村の中学生たちの日常
45:中学校退学者のその後
46:バイヨン高校がほしい!
47:バイヨン高校、ついに開校!
48:他国事(ひとごと)ながら
49:”パプリカ“歌って英語授業!
50:”サイクリングブーム
51:将来の夢はYouTuber!
52:ナーガ・シンハ彫像修復プロジ ェクト終了!
53:Cafe Moi Moi コロナ禍で一時休業へ
54:バイヨン中高校先生方のコロナ禍副業
55:話し出したら止まらない“将来の夢!”
56:Moi Moi Farmでマンゴー狩り!
57:"一家に一農園"ブーム到来?
58:『インドラネット』
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