NyoNyum Magazine にて連載しているスローライフエッセイ「Moi Moi ライフ」
（「Moi Moi」とは、クメール語で「ひとつひとつ、ゆっくりと」の意味。恵み豊かなカンボジア
でのスローライフをお届けします）

シェムリアップで暮らす小出陽子さん。NGO「アンコール人材養成支援機構：JST」の活動、JSTがサポートしている「バイヨン中学高等学校」の近況、そして普段の暮らしで感じたいろいろなことを綴ります。

今回は、「政治はまつりごと、選挙は祭りなり」です。

政治はまつりごと、選挙は祭りなり

今年6月。カンボジアでは5年に1度の地方選挙が行われました。カンボジアの選挙の投票率は8割前後と高く、それを支えているのは、選挙の半年も前から地方農村を回って準備を進めている各政党の支持者や役人たちです。夫も選挙担当地区が決められ、「政党を全面的に支持しているわけではない」とぼやきながらも、週に何度も担当地区に出かけ、住民の悩みを聞いたり、カンボジアの将来について語り合ったりして、政党支持を呼び掛けていました。

カンボジア農村部の識字率は低く、投票用紙に書かれているクメール語が読めない住民も多いため、政党のマークを覚えてもらい、☑を記入する練習をさせることが重要な役目とのこと。それだけでなく、地区住民の生活向上のために、皆で身銭を切って村の道路整備を行うなど、選挙に対する献身ぶりには頭が下がる思いでいました。そこまでのめり込むカンボジアの選挙とはどんなものなのか？と興味深く思っていた矢先、政党別の行進の一つに参加できることになりました。

そこで見たものは、トラックや耕作機に乗り、音楽に合わせて踊りながら高揚する人々、「〇〇党、チャイヨー! チャイヨー!（万歳、万歳!）」と拳をふり上げながら練り歩く村人の姿でした。これはまさにおみこしや山車の行列で盛り上がるお祭りの風景そのもの。このようにカンボジアの選挙活動は、何か月も前から地域の人々ほぼ全員が支持政党ごとに何度も集まって準備をし、そして選挙運動開始日と最終日は、皆の連帯感を確認するかのように“政党＂という同じおみこしを担いで村を練り歩く、一大イベントなのです。そうすることによって、社会共同体の一員であることを実感し、おきて、秩序、協力といった政（まつりごと）の本質を体感できるのでしょう。「政治はまつりごと、選挙は祭りなり」。そんな政治の原点、祭政一致だった頃の古代的風景を垣間見ることができたカンボジアの選挙活動参加でした。

（この記事は2022年8月に発行されたNyoNuym120号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。）

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