NyoNyum Magazine にて連載しているスローライフエッセイ「Moi Moi ライフ」
(「Moi Moi」とは、クメール語で「ひとつひとつ、ゆっくりと」の意味。恵み豊かなカンボジア
でのスローライフをお届けします)
シェムリアップで暮らす小出陽子さん。NGO「アンコール人材養成支援機構:JST」の活動、JSTがサポートしている「バイヨン中学高等学校」の近況、そして普段の暮らしで感じたいろいろなことを綴ります。
今回は、「ベトナムのクメールクロムを訪ねて」です。
ベトナムのクメールクロムを訪ねて
皆さんもご存知のように、アンコール時代、クメール帝国はインドシナ半島の広い地域を支配していました。そのため、現在も東北タイやベトナムのメコンデルタ地域などに多くのクメール民族が住み、それぞれクメールスリン、クメールクロムと呼ばれています。また、クメール文明発祥の地は、クメールクロムが住むオケオ遺跡周辺でもあります。
3年前、私は、メコンデルタ地域最古のクメール寺院、642年創建のサムロン・アエク寺院を初めて訪問し、僧侶のみならず檀家である近隣住民も日常的にクメール語を話すのを目の当たりにしました。そして、メコンデルタ地域には500以上のクメール寺院があり、100万人ものクメール民族が住むこと、寺院を中心とした檀家で共同体をつくり、クメールの伝統を大切に守りながら暮らしていることも知りました。近くにはクメール民族博物館もありました。カンボジア国内以上に、クメールの精神がここベトナムで継承されている!と肌で感じ、感銘を受けた訪問でした。
そして先日の2度目の訪問。まず知りたかったことは、ベトナム人でもあるクメールクロムの帰属意識です。何人かに質問したのですが、全員が「もちろんクメール。私たちはクメール民族として誇りをもって生きている」と熱く語ってくれました。
しかし、「クメールクロムは抗仏戦争やベトナム戦争で貴重な戦力として戦ったのに、ベトナム国家の中で虐げられ、弱い立場に置かれている」とか、 「クメールクロムから3人もカンボジア首相(ソン・ゴク・タン、ロン・ノル、ソン・サン)を輩出しているのに、カンボジア人からはベトナム人だとみなされて嫌われ、とても悲しい」などと、国家間で翻弄される彼らの悔しく苦々しい胸の内も知ることと
なりました。社会主義国家にあるため学術調査も難しく、情報量も少ないこの地域ですが、 一 人でも多くの人々に認識してもらえたらと強く願う訪問となりました。
(この記事は2023年6月に発行されたNyoNuym125号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
1992年早稲田大学大学院卒。一級建築士。2000年、UNESCO/JSA 遺跡修復オフィス建設のため、カンボジアに赴任。2005年~ 2020年、シェムリアップにてレストランCafe Moi Moi を経営。2005年JST(NGO:アンコール人材養成支援機構)を設立し、農村地域の支援活動を始める。2013年“アンコールの都の西北” に公立のバイヨン中学校を創設。2019年には高校も併設され、現在、全校生徒1,000 人の学校運営を行っている。
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42:魅惑のカンボジア発酵魚料理
43:NyoNyumとカンボジアと私
44:村の中学生たちの日常
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46:バイヨン高校がほしい!
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51:将来の夢はYouTuber!
52:ナーガ・シンハ彫像修復プロジ ェクト終了!
53:Cafe Moi Moi コロナ禍で一時休業へ
54:バイヨン中高校先生方のコロナ禍副業
55:話し出したら止まらない“将来の夢!”
56:Moi Moi Farmでマンゴー狩り!
57:"一家に一農園"ブーム到来?
58:『インドラネット』
59:日本にもクメール寺院が!
60:コロナ禍乗り越え、 自立したスタッフたち
61:公立学校の教師不足、次なる一手へ
62:教師の頑張りに感謝!
63:政治はまつりごと、選挙は祭りなり
64:学校閉鎖中の生徒たちの学習はいかに?
65:“これまで” と“これから”
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67:バイヨン高校初の卒業生の快挙!
68:ベトナムのクメールクロムを訪ねて
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