今年はコロナウイルスの影響でめっきり減ってしまったものの、これまで年間約20万人もの日本人が訪れる国カンボジア。
世界遺産アンコールワット観光をはじめ、学校や孤児院でのボランティア活動で訪れたり、はたまた夢と希望を抱いて新興国カンボジアで事業を興した方など、実に様々な目的でこの国にやってくる。
また、成長著しいカンボジア経済の影響もあり、ここ数年間の日本人移住者の増加率は前年比15%前後と世界でもトップクラスである。
実際に現地を訪れてみると、この国の不思議な魅力の虜になってしまい、「年に何度も足を運んでいる!」、「はまり過ぎて移住してしまった!」という人も少なくないはず!?
この連載では、気がついたらカンボジアにはまってしまった方々にまつわるストーリーを紹介していきます。
第3回目はサッカーカンボジアリーグに参戦しているソルティーロアンコールFCのチームマネージャーを務めている景山慎太郎さんです。
幼い頃からサッカーが好きで、夢だった全国高校選手権に出場するために親元を離れて他県へ転校したことをはじめ、常に熱い想いを持ち続け、行動に移したことで次々と夢を叶えている景山さん。
これまでどんな体験をし、カンボジアにハマっていったのでしょうか。
今回詳しくお聞きしてきましたので紹介します。
■プロフィール
大阪出身。2017年からソルティーロアンコールFCのマネージャーを務める。心技体の育成という観点から、カンボジアサッカー界を変えるという志を持ちながら現地で活動中。直近の大きな目標は2023年にカンボジア初開催のSEA GAMES(東南アジア版オリンピック)
SNS:note, Twitter
サッカーを始めたきっかけ
大阪で生まれ育ったのですが、小さい時からサッカーが好きでいつか「全国高校サッカー選手権(以下、選手権)に出たい!」という夢を持っていました。
選手権といえば、高校サッカー花形の大会でサッカー少年なら誰しもが出場したいものです。
しかし大阪は学校数が多く、府大会ですら強豪校がわんさかいてレベルも高く、選手権に出ることが困難でした。
どうしたら憧れの選手権に出られるのだろうと本気で考え、出した結論が「府外への進学」でした。
中学卒業後、親の実家がある鳥取の境高校に入学を決意。
鳥取県内にはここともう一校が強豪校として知られており、毎年この2校が選手権への出場枠を争っているような状況でした。
当時の僕にとって「選手権に出場すること」は自分の人生のすべてだと思っていました。
15歳で親元を離れることになりましたが、自分の夢を実現するためだったので迷いはありませんでした。
高校時代にのちのチームメイトと対戦!?
結果的に境高校では3年連続全国大会出場。
僕自身は2、3年生の時にレギュラーとして出場し、3年時は全国ベスト16まで勝ち進みました。
最後の試合に負けて大泣きしている様子は、 負けたチームの試合後の様子を放送する「涙のロッカールーム」という選手権番組の中の人気コーナーがあるのですが、そこでちゃんと流されてしまいました。
<当時の映像はこちら>
また余談ですが、2年の選手権1回戦で現在ソルティーロアンコールFCキャプテンの海野智之選手とスタッフの蓮池柊兵が所属していた藤枝東高校と対戦したこともあります。
肝心の試合のほうは蓮池に先制点を決められて負けました。
まさか、約10年後にカンボジアのプロサッカークラブでチームメイトになっているとは思いもしませんでした。
人生何が起こるかわからないものですね(笑)。
このように高校時代は人生最大の目標であった選手権に出場することができましたが、実際出場してみると自分よりも能力が高い選手がたくさんおり、選手としての限界を感じました。
高校時代に「選手権に出場する!」という夢が叶った一方で、大学入学後は力を使い果たして抜け殻のような状態になってしまいましたね。
一応、大学のサッカー部に体験入部したものの、Bチームからスタートすることになり結局モチベーションが上がらずに辞めてしまいました。
その後、サッカーはサークル活動でする程度にとどまっていました。
そして就職活動の時期になり、自分がこれまでの人生で感じ得てきたものはなんだろうと自問自答することが多くなり、最終的にやっぱり自分の人生にとってサッカーが重要だという一つの結論に至りました。
これまでサッカーから学んだこと、サッカーでいくつもの壁を乗り越えてきた経験は、きっと社会人でも生かすことができるだろう。
そしていつかはサッカーに関する仕事をしたい。
ただ、大学卒業後にいきなりサッカー関連の業種に就けるのかというと実際は厳しく、自分はまだ社会のことをまったく知らない。
数年後にサッカー関連の仕事をするためにはどうしたらいいかと考えた結果、枠にはまらずに幅広いことが経験できそうなベンチャー企業に就職しました。
そして、そこでどんなことがあっても3年間は絶対続けると決めました。
自分がやりたいことはなんでも経験させてもらえたので、当時の会社の方々には本当に感謝しています。
ソルティーロとの出会い
そして就職して3年が経とうとしていたとき、SNSを見ていたら大学時代の友人であった辻井翔吾(現ソルティーロアンコールFC代表)がカンボジアでサッカースクールを立ち上げたというニュースが目に入ってきて驚きました。
僕もサッカーの仕事をしたかったので、この時は嫉妬心が生まれてきましたね(笑)。
辻井とは大学の同じサークルに所属していましたが、2人で遊ぶということはなく、そこまで親しい関係ではありませんでしたがすぐに連絡をとり、旅行と言いながら現地の状況を見にカンボジアへ行きました。
これまでの僕の人生において、カンボジアという国について考えることがなかったので、行く前の印象はただ田園風景が広がった田舎というイメージくらいしかありませんでした。
しかし実際に行ってみると、首都のプノンペンは急速な経済発展で次々と高層ビルが建設されており、人々はみんな明るくパワーを感じました。
さらには現地で暮らしている日本人が多いのも驚きでしたね。
都市部の発展に驚いた一方で、農村部に行くと電気や未舗装の道路があったりとまだまだインフラが整っていない現実を目の当たりにし、いろいろと考えさせられました。
ソルティーロの練習場やスタジアムは自分が想像していたよりもグラウンドがぼこぼこの状態で、クラブとしてもできたばかりで人員も組織もまだ何もかもが整っていない状態でした。
でもこれは逆にやれることが多く、やってみる価値があると強く思いました。
そして何よりも辻井のやる気と魅力に惹きつけられたのが、一緒にクラブを創っていきたいと思える一番の決め手となりましたね。
ただ、このチームで働くためには何が必要か、今の自分には何が足りないのか? 辻井とも話した上で出した答えが、サッカーの指導経験と語学の習得でした。
その後いったん日本に戻り、すぐにフィリピンへ語学留学に行き英語を学び、その後は地元のサッカースクールで小中学生向けに指導経験を積みました。
この時、100%ソルティーロで働けるという確約もありませんでしたが、辻井とは頻繁に連絡をとり、ひたすら声がかかるのを待っていました。
そしてカンボジアを訪れてから半年後、辻井から声がかかり、僕はカンボジアへ移住しました。
<クラブ立ち上げの経緯はこちら>
ソルティーロの魅力とは?
もともと僕はサッカーの仕事がしたいと思っていましたが、日本だとJリーグのクラブ運営に関われるのは主に40代以上の人が大半です。
しかし、ソルティーロは「年齢や経験で決めず、そこに覚悟があればやることができる、気持ちある人が挑戦できる」というイメージがあったので、僕は迷うことなく挑戦する道を選ぶことができました。
現在、ソルティーロアンコールFCのスタッフも全員20代と若く、経験や能力よりもクラブの哲学に共感し、一緒に夢を実現したいという強い気持ちがある人を中心に構成されています。
クラブ運営は簡単なものではありませんので、僕たちは経験が足りない分、全員が全力を出し切って協力し合わないと成り立ちません。
だからこそ常に仲間を大切にしないといけないと感じています。
これから挑戦したいこと
チームとしては「想いのサイクルを回したい」というのが目標です。
現在、ソルティーロに所属しているのは平均年齢21~22歳という若い選手が中心です。
僕たちはこれから築き上げていくクラブの歴史を考えた上で、今いる選手を第一世代の選手と認識し、現在の中堅(25歳前後)選手たちがリーダーとなってチームを引っ張っていき、将来ユースやトップの指導者になってほしいと考えています。
そして、それを見た若い選手たちが先代の想いを代々受け継ぎ、後世に繋いでいくのが理想です。
また、明確な目標としては2023年にカンボジアで初めて開催されるSEA GAMES(東南アジア版オリンピック)に代表選手を3人輩出し、その先にソルティーロ出身のカンボジア人選手がJリーグでプレーするということを実現させたいですね。
景山さんにとって挑戦とは
僕にとって挑戦とは、勇気を出して一歩踏み出すことです。今自分の人生を振り返ってみると、選手権に出場するんだという夢も、サッカーの仕事に就くという夢も、一歩踏み込んだ、飛び込んだからこそ実現できたと思います。
頭の中だけで考えているだけじゃ変わらないので、考えて行動することが大事ですね。
これからもその気持ちを忘れずにやり続けたいと思います。
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<気が付いたらカンボジア>
第1回:秋庭 洋さん
第2回:小山 大志さん
第3回:景山 慎太郎さん
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