NyoNyum105号の特集「クメールの魂を踊りに込めて」がWEBでも読めます。
昨年11月18日、ご逝去されたノロドム・ボッパーテヴィ王女はカンボジアの古典舞踊(宮廷舞踊)を広く国内、世界に広めたことで大きな偉業を成し遂げた方です。
その功績に心からの敬意を表し、カンボジアの舞踊にまつわるあれこれをお伝えします。
4回目の今回は、ノロドム・ボッパーテヴィ王女の教え子の1人で、カンボジアだけでなく世界で活躍し、新たな舞踊表現を開拓するチェイ・チャンケツヤーさんについて。
もっと自分を表現したい~古典から現代舞踊への奇跡~
幼い頃からボッパーテヴィ王女の元で古典舞踊を学び、そこから新たに「コンテンポラリーダンス」の世界に飛び込んだ女性がいます。自己表現を行うことに魅了され没頭しているチェイ・チャンケツヤーさん。
カンボジアの舞踊界に新しい旋風を巻き起こすことができるのか。コンテンポラリーダンスの振興に取り組む「アムリタ・パフォーミング・アーツ」で演出家・振付師を務めていたケツヤーさんの魅力に迫ります!
自問自答が成長に
Q ケツヤーさんがコンテンポラリーダンスの世界に入ったきっかけは?
A 2000年16歳の時にASEAN共同制作の舞踊劇「リアライジング・ラーマ」の公演に出演したのをきっかけに、コンテンポラリーダンスの面白さを知りました。
クメール古典舞踊との型の違いはもとより、気持ちの表現にも違いがあり、すぐに魅了されていきました。
7歳頃から古典舞踊を習い始め、この世界に深く入り込んでいったのですが、今までと違うもっと新しいことを学びたいという気持ちがあふれてきたんです。
コンテンポラリーダンスに出会ったことで、いろいろな人とつながり、いろいろな国へ行く機会も得られ、新しい文化を知ることができました。
コンテンポラリーダンスは、古典舞踊家としての自分の限界を教えてくれ、舞踊家としてもっと学ぶことが多くあると気づかせてくれてくれました。世界観を大きく開いてくれましたね。
Q 古典舞踊との一番の違いは何だと思いますか?
A コンテンポラリーダンスを学ぶために、いろいろなセミナーに参加しました。そこで学んだのは「自分らしく生きる」ということでした。
古典舞踊家は、舞台で自分が与えられた役(他人)になりきることを求められます。つまり、別の人格の魂を自分の身体で演じなければならないということ。
一方でコンテンポラリーダンスは、「自分を表現」しないといけない。求められていることが違うんですね。かといって、自分を表現するだけというわけではなく、観客にもイマジネーションを投げかけ共有します。
だから、コンテンポラリーダンスは観客のみなさんがいて成立するものでもあるんです。
Q このコンテンポラリーダンスの魅力は?
A 演劇・舞踊団体の「アムリタ・パ フォーミング・アー ツ 」で演出家・振付師として活動していました。
ダンスの演目を組み立てるたびに、いつも自問自答しています。
どうして 今この ダ ンス を 創 作した い の か 、な ぜこの 振り付 けな の か、何を表 現したいか、なぜそれにするか、といった自らへの質問と答えを常 に考えているんで す。それによって、ダンスは自分の言いたいことを発信する場を与えてくれるものになりました。言論の自由、民主主義の源です。
人にもっと自分のことを理解してもらい見て考えてもらうという活動の中で、自分だけのためではなく、このダンスを通してカンボジア人 に“ものを見て考えるという価値観を与えたい”と思っています。これは現代のカンボジアの発展に必要だと思うんです。
Q カンボジアにおけるコンテンポラリーダンスの立ち位置は?
A 私の所属している「アムリタ・パフォーミング・アーツ」は2003年に設立されたのですが、ここからカンボジアにコンテンポラリーダンスが広がっていきました。ただ、外国人演出家によりカンボジア人ダンサーは育ちましたが、独自に創作できる人材には限りがありました。
そこで、2013年から「コンテンポラリーダンス・プラットホーム」が「アムリタ・パフォーミング・アーツ」に立ち上がりました。
これにより、若いカンボジアの人材がコンテンポラリーダンスを創作できるようになったんです。2013年以降はさまざまなコンテンポラリーダンスグループが活動を行うようになりました。
コンテンポラリーダンスを通してカンボジア人が海外で活動を行い、他国の演出家や振付師と出会うことで、世界にカンボジア人の潜在性を伝えることができるようになったと思います。
Q この先のご自身の抱負・活動の予定は?
A 昨年12月にはニューヨークで「トロイアの女」という舞台を手がけ、現地で13日間の公演を成功させることができました。
今年最初の活動はニューヨーク大学アブダビ校のプログラムで、ダンスの講師を行うためにドバイに2週間ほど滞在していました。
国内では2002年から去年末まで舞踊中等学校で教えていましたが、今年から王立芸術大学で講師をすることになりました。これからは、古典舞踊を基礎として活用し、芸大でカンボジア的なコンテンポラリーの世界をさらに広めていきたいと思っています。
将来の夢は、国の平和と発展のために芸術を活用していくことです。このために、まずは私が受け持つクラスで学生たちに創造性を養わせ、それぞれのコミュニティで貢献できるような人材に育てたいですね。
あとは地方の人たちとのつながりを持てるようなイベントを運営したいと思っています。集まってきてくれた人たちが、お互いの地域コミュニティの特性について相互に理解し合える機会を作りたいのです。
そのうえで、成果が出てきたコミュニティにはアートスペースとアートライブラリーを作りたいと考えています。ここに集まれば、さまざまな形で芸術と出会える機会を与える。そして、集まってきた人々が同じ空間を共有することで結びつきが生まれ、理解を深め合えば、それぞれのコミュニティの活性化につなげられる。そんな活動をイメージしています。
芸術を通したコミュニティ活動で、国の平和と発展の実現に貢献できると信じています。
プロフィール
1984年、プノンペン生まれ 。1992年舞踊中等学校に入学。1999年よりボッパーテヴィ王女の指導の下でヨーロッパなどの海外公演に参加。
2000年にASEAN共同制作舞踊劇「リアライジング・ラーマ」に参加し、コンテンポラリーダンスの世界に魅了され転向。
2005年に王立芸術大学卒業と同時に「アムリタ・パフォーミング・アーツ」に所属。2014年にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校で芸術の修士号取得。同年よりアムリタ・パフォーミング・アーツの演出家・振付師に就任。
今年から王立芸術大学の講師に。海外公演の実績も多数。
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