今月発行したNyoNyum106号の特集は、「起こせ!カンボジアの農業革命 ~カンボジア農業の秘めた可能性~」と題して、カンボジアで農業発展のために奮闘している方々を取材しました。
今回は取材を重ねるうちに、どんどん多くの方に伝えたい、知ってもらいたいことがたくさん出て盛りだくさんの内容になりました。
そこでWEB版では誌面では載せきれなかった部分をいくつか追記し、全6回で紹介したいと思います。
今回はカンボジア産の農産物を市場に届けるために日夜奮闘している人々の取り組みを紹介します。
前回の記事はこちら
国産農産物をマーケットに届けろ!
カンボジアの農家から基準に適合した農作物を集め、都市部の主要マーケットに納品しているNatural Agriculture Village社。
農家に直接指導を行い、作物の収穫量の調整、品質と安全性の確保を図るとともに、農家を支えるために政府やNGOと連携し、需要と供給のバランスをとるなど、作り手と買い手の仲介役を担っています。
Natural Agriculture Village社のシェン・ギェルさんに、その取り組みとカンダール州農林水産局が運営する農作物の品質検査所について教えてもらいました。
Q:具体的にどのような仕事をされているのですか?
Natural Agriculture Village社には約2年勤めており、農林水産省が規定したCamGAPという安全基準に基づいた栽培法の普及に取り組んでいます。
品質管理を栽培の時点から販売まで、徹底して実施しています。
Q:この検査所では1日平均でどのくらい野菜が検査されていますか? またどんな野菜がどの地域から集まり、どこで販売されていますか?
検査所に持ち込まれる農作物の1日の平均量は200キロから500キロで、葉もの野菜が主ですが根菜や果物なども集まってきます。
これらはカンダール州を中心に周辺の州で生産され、ほとんどは近隣都市部スーパーマーケットで販売されています。
Q:農家のみなさんの品質検査所に対する反応は?
自分たちの農作物を第三者に品質検査してもらえることにすごく喜んでいて、検査のクオリティに対する信頼も高いです。
Q:品質検査所ができて以来、農作物に対する農家や消費者の意識に変化は見られますか?
検査所での品質検査が定着してから、消費者からの農作物に対する信頼とともに消費が増えています。
農家はこの検査所での検査を条件としている弊社と契約することで、栽培計画を立てることができ、より高い値段で取引ができます。
また、安全な栽培という意識の向上とともに、清潔な野菜の栽培方法や、基準に沿った栽培方法についても学ぶことができます。
消費者は農薬による健康被害の情報を知っており、作り手の顔が見え品質検査が行われている国内産の野菜に目を向けるようになっています。
野菜に貼っている有機や無農薬のロゴを見て購入する消費者が増えています。
Q:今、特に注力していることは?
農家の栽培能力や品質向上への指導ですが、現場で直接働きかけなければならず時間がかかります。
品質基準だけでなく、栽培計画、技術指導、気候変動問題まで、農家とともに解決しなければならない問題があるからです。
また、消費者や小売業者に対して、農作物の品質や栽培の様子、どうしてこの価格なのかをわかってもらうために農園に案内もしています。
Q:国産の良質な農作物だとアピールするために重要なことは?
消費者に支持される良い野菜を届けるため、栽培方法のみならず、輸送、包装などの指導もしています。
政府やNGOに依頼して、技術支援や評価、農家に対する安全な農薬使用方法を指導してもらったり、各種プロジェクトやネットワークと組んで、国産の安全な農作物のアピールに努めています。
Q:仕事のやりがい、また農家と消費者に伝えたいことは?
直面している問題はまだありますが、消費者に良質かつ安全な野菜を提供できたり、現場で頑張っている農家の生活改善にもつながることがやりがいです。
農家には安全な野菜の需要増加に合わせ、安心・安全な野菜作りに励んでもらいたいです。本気で誠実に安全な野菜を作れば、高値で売れるからです。
栽培技術面で必要なことは、州農林水産局や弊社に直接連絡をしてくれれば、共に解決に取り組みます。
それから、私たちが扱う農産品を信用してくださる都市部のスーパーマーケット、消費者のみなさんに感謝したいです。
みなさんの消費は自分の家族の健康だけでなく、農家の支援にもなります。ぜひ引き続き、国産農作物の購入をお願いします!
カンダール州農作物品質検査所
カンボジア初の農作物検査所で、日本の草の根無償資金協力で2019年10月にオープン。
カンダール州を中心にコンポンチュナン州やバッタンバン州などから集めた農作物の品質をチェックする。
検査費は農作物のサンプル1種につき10ドル(毎回)。1日平均200キロから500キロの野菜を検査している。
特に、周辺の農家、契約農家のグループと取引しているサプライヤーからの検査依頼が多い。
品質検査後、品質を証明するシールを貼るなどの品質保証もしている。検査所には検査した野菜と果物を保管する常温・冷蔵の保管室もある。
最近では消費者から品質証明を求める声が高まり、検査の重要性も認められているため、農林水産省はサプライヤーを通して検査をするように通達しているが、法的拘束力はない。
だが、近年野菜の安全性に関する消費者意識が高く、同省は各州に検査所を設立することを計画している。
周辺の農家やサプライヤー、消費者などに検査所を知ってもらうため、現地でイベントを開催したり、都市部のスーパーマーケットでのプロモーション、農家育成プログラム、食の安全を担保する品質検査の重要性のアピールに取り組んでいる。
野菜農家発の野菜販売グループ
Natural Agriculture Village社の活動や検査所の定着とともに、意識ある農家が自発的にコミュニティーを立ち上げる傾向もみられる。
カンダール州バレン村のノゥ・カェウさんは、野菜販売グループ協会のリーダーだ。
2015年5月に仲間10人で野菜販売グループを発足。安全な野菜を消費者に届けるのと同時に周辺の農家たちの生活向上を目的としている。
カンダール州農林水産局から水槽、ビニールシート、有機肥料製造機などの設備援助を受けた。
加えてNatural Agriculture Village社から資金、有機肥料の作り方などの栽培技術、野菜の買い取りサポートを受けるほか、農作物の価格保証も受けている。
グループ内の農家同士で基金を募って借り入れを返済し、協会運営の自立を目指している。
2017年頃から有機野菜や安全な野菜に対する消費者の関心が高まり、周辺の農家からも注目され、現在ではメンバーは約60人となった。
収穫した野菜はNatural Agriculture Village社を通して主にイオンやラッキーモール、その他の都市部スーパーマーケットで販売されている。
葉もの野菜を主に生産していたが、最近ではより収益性の高いトマトやナスなども栽培したいという農家の要望が
出てきた。
だが、栽培技術が身に付いていないため、農林水産局から技術指導を受けながら、より良い収穫量と収入を生み出す品種の栽培、市場の需要に合うさまざまな野菜栽培を目指したいと考えている。
消費者のご意見伺います!
農家の方々が丹精を込めて作った農作物。カンボジアの人たちはどんな基準でそれを購買しているのでしょう。プノンペンにある従来の市場とイオンで買い物客に聞きました。
<イオン>
まずは、イオンの食品売り場に買い物をしに来ていた大学生に聞いてみた。
従来の市場ではなくスーパーで買い物をするのは、「検査をしているから」だという。
家族から買い物を頼まれてきたというメイン・シェアンさん(19)は、「農薬をあまり使わないで、ちゃんと買う人の健康を考えて野菜を作ってほしいですね」と話す。
同じ店内で食品の実演販売をしていたプルム・スレイニエットさん(22)は、「ここで販売する野菜は見た目も良いし、産地がわからない外で買うよりは安全でいい」と語る。
しかし、従来の市場よりも値段が高いのでは?
「もちろん普通の市場で買うほうが安いですが、農場からこちらに入荷されるまで検査や運送などのコストがかかっていることを考えると、このくらいの値段でお手頃だと思いますよ」
安心・安全な食料への意識が消費者の間で高まっているようだ。
<市場>
一方で、従来の市場で買い物をしている人はどんな意見を持っているのだろうか。
プノンペンのトゥールトンポン市場に来ていたセン・ティンさん(57)は「長年の主婦の目で国産のものと輸入ものの見分けがつくから大丈夫」と語る。
輸入野菜が多いなと思うときは、別の市場へ買いに行くのだそう。
ほかの客に聞いても、従来の市場に来ているのは、「家から近いから」「国産と輸入ものの見分けができるから」「安いから」という答えが多い。
また、農薬を使わずに簡単に栽培できる種類のみを中心に市場で買っている、なんて人もいた。
野菜売り場に店を出している販売者は、「うちでは地方から来る野菜を販売しています。長年この商売をしているし、農家からちゃんと供給されているため、消費者の日々の需要にちゃんと応えられていると自信を持っています」と言う。
売るほうも買うほうも、輸入野菜には慎重な考えを持っている様子。
今こそ、国内の農作物をどんどん作って、カンボジアの人々に安心して食べてもらう仕組みを作る時なのかもしれない。
つづく
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