今月発行したNyoNyum106号の特集は、「起こせ!カンボジアの農業革命 ~カンボジア農業の秘めた可能性~」と題して、カンボジアで農業発展のために奮闘している方々を取材しました。
今回は取材を重ねるうちに、どんどん多くの方に伝えたい、知ってもらいたいことがたくさん出て盛りだくさんの内容になりました。
そこでWEB版では誌面では載せきれなかった部分をいくつか追記し、全6回で紹介したいと思います。
今回はカンボジア農業問題に共に向き合い解決を目指すJCグループの事業を紹介します。
前回の記事はこちら
カンボジア農業問題に共に向き合い解決を目指す
カンボジアの農業に関わり12年。JCグループ代表の髙虎男(コウ ホナム)さんは、自らの足でカンボジアの農地を回り、その手で土を触り、その目で農業をめぐるさまざまな問題を見てきたといいます。
そして、カンボジア農業の問題を解決することをビジネスモデルとした事業を展開することを決意。
そのモデルとはいったい何なのか、そして実際にそのサービスは功を奏しているのか。
現状と今後の展望について聞きました。
日本の「古き良き農協」をモデルに
カンボジアに限らず、農業を主要産業とする国ではだいたいどこでも、農家の苦労は絶えない。
その大きな理由の一つは、農業が構造的に「とても資金効率が悪い」商売だからだ。
農家はまず種や必要な資材をそろえ、農機を買ったり借りたりして土を耕し、肥料や農薬を使用しながら何カ月もかけて田畑を育て、ようやく実った穀物や野菜を収穫する。
それまでの長い期間、お金と労力は出ていく一方で、なんとか収穫した穀物・野菜を売ってようやくお金が入ってきても、その時期の値段の上下によっては思ったほど利益を上げられないこともある。
つまり、スタートしてから長い期間お金は出て行くだけで、最後の最後でようやくお金が入ってくるが、いくら入るかわからないというリスクある商売なのだ。
たとえば小売業だと、お店で商品が売れたお金はその日に入ってくる一方、仕入れた商品の支払いは1、2カ月後でOKというケースもあり、お金の出入りが農業とはまるで逆になる。
特に零細農家が多いカンボジアでは、この農業の「お金が最初にまとまって出ていき、すべて終わった最後の最後で回収できる」という構造が、資金的体力のない農家を苦しめる原因となっているのだ。
今は豊かな先進国と言える日本だが、約70年前、第二次世界大戦後の日本の農家の状況は、現在のカンボジアの農家と極めて類似していた。
自分の田んぼを持ってはいるが、小規模で体力のない稲作農家が多数存在し、みな資金繰りで苦しんでいた。
その日本の零細農家を支えたのは「農協」の存在だった。
それぞれの小さい農家では手に入れられない機械や資材、設備などを貸し出し、苦しい時期には融資もしてくれて、収穫した米や野菜は安定した価格で買い取ってくれる。
農協が存在したおかげで、日本の農家は安心して農業に専念することができ、戦後日本の農業は大きく成長した。
髙さんは2008年にカンボジアで起業し、一貫してカンボジア農業に関わってきた。
初めの5年はバッタンバン州で230ヘクタールの稲作農地で米の栽培・販売・輸出、パイリン州で30ヘクタールのオクラの栽培・日本への輸出などを手がけてきたが、自ら体感した農業経験から、現在のカンボジア農業と昔の日本の農業が似ていることに気づき、「戦後日本の頃の農協機能をカンボジア農家に提供しよう」と考え、ビジネスを「日本型農協モデルのカンボジア展開」に切り替えた。
カンボジアで起業して12年経ち、会社の形はいろいろと変わってきたが、現在はまず農協の「農業技術や設備をカンボジア農家に提供する」機能を、 「JC Agricultural Cooperatives Co., Ltd.(JCAC)」という会社で展開している。
人口が少ないカンボジアの農業にとって必須となるトラクターなどの伝統的な農業機械を、できる限り農家が使いやすいようメンテナンスして販売する一方で、日本で開発された農業ドローンなどの先端農業技術(スマートアグリ・ソリューション)でカンボジア農家の農業レベルを向上させる取り組みも行っている。
伝統的な技術と最先端技術を組み合わせながら、カンボジア農業の生産性・効率性の向上を目指しているのだ。
一方、農協の「農家を資金面で支える」機能を、日本の事業家・投資家とカンボジアで共同創業した「JC Finance Plc.」という金融機関で実現。
マイクロファイナンスの正規ライセンスも取得した。現在はトラクターやコンバインなどの高額な農機を買う現地農家に対して、その購入資金の融資を主に行っている。
同社は今や、「機械や技術、設備」の面と「資金」の面で、日本の古き良き農協の機能の一部を実現させている。
将来的には日本の農協の大きな役割の一つである「農家から農作物を安定した価格で買い取る」機能をなんとか実現したいと考えている。
つづく
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