北九州市とカンボジアが一丸となって復興・開発に取り組んできた水道事業。
最初の記事では長い内戦が終結した1990年代のプノンペンにおける水の状況と、カンボジアの水道マンたちの「きれいな水をみんなに届けたい」という熱い思いに感動し、北九州市が動き出した様子を紹介しました。
②では北九州市が具体的に何をしてきたのかを紹介しました。
③ではの昨年11 月に北九州で行われた「日本・ カンボジア水道フォーラム」の様子と、これまで関わった方々の声を集めて紹介しました。
最終回の今回は北九州市の新たな挑戦を紹介します。
未来へ。北九州市の新たな挑戦
地方民営水道の給水施設を視察する東幸毅さん(中央)と北九州市の専門家(2019 年)
水道事業は終わりがありません。むしろ、時代のニーズに合わせてさまざまな形で展開していかなければならないからです。カンボジアのみならず、日本でも水道をめぐる変化は起きています。そんな世の流れの中で、北九州市はどんな展開をしていくのでしょうか。
2018 年7 月より北九州市上下水道局は、JICA の技術協力で新たに「水道行政管理能力向上プロジェクト」に乗り出した。2016 年11 月に行われた工業手工芸省組織改革に伴い「工業総局・水道部」から格上げされた「水道総局」を対象に、新規雇用職員の能力強化、事業管理、認可発行、規制・監督など、13 の公社・公営水道局と民営水道事業者への規制・監督ができる能力を強化するのがプロジェクトの目的だ。特に、カンボジアの民営水道事業者は400以上にも及ぶが、ライセンスを有するのは226 社のみである。公的な予算が限られているカンボジアにおいては、民間企業の参画が不可欠だ。一方で、人々の生活や衛生に直結する水道事業には、明確な水質基準と、それを監督していく機能が必要である。このプロジェクトには、北九州市上下水道局からの専門家に加え、日本の厚生労働省からチーフリーダーが派遣されている。国と地方自治体が手掛ける今後のプロジェクト展開に期待したい。
地方民営水道の施設を視察する矢山将志さん(右、2019 年)
一方で、少しさかのぼること2015 年。北九州市は、シェムリアップ市に円借款で建設される上水道施設の設計業務の受注に日本の自治体として初めて成功した。このニュースは水道業界の歴史を塗り替えるほどのインパクトをもたらした。このプロジェクトは、これまで地下水を水源としていたシェムリアップにおいて、豊富な水を有するサップ湖を水源として変換し、1 日当たり6 万トンの水を供給できる水道施設(取水施設、導水施設、浄水施設、配水管施設)を建設するという壮大なプロジェクトだ。これにより、給水能力が格段に向上し、市民生活・衛生環境の改善をもたらすだけでなく、地下水くみ上げによる地盤沈下防止により遺跡群を保護し、観光産業・経済にも寄与できる。
この国際入札の応札に当たり、北九州市上下水道局は2010 年に全国に先駆けて設立された官民連携による水ビジネス推進組織「北九州市海外水ビジネス推進協議会(KOWBA)」を会員企業とともに発足した。このほかにも北九州市上下水道局は2011 年以降、JICAやカンボジア政府から水道事業関連のコンサルティング業務を受注し、これまで支援してきた8 州都や、モンドルキリ州センモノロム市の水道整備などに携わってきた。単なる海外での協力事業から、新たに公共事業体が自ら、そして関連企業の先駆者となって水ビジネスを展開する体制を着々と積み上げている。
現在、KOWBA の会員企業数は150 社を超え、カンボジアやベトナムなどの東南アジア地域を中心に展示会参加やセミナー開催を積極的に行っており、その受注実績も着実に増加している。また、2016 年1月には、工業手工芸省、北九州市、KOWBAでカンボジアの水道事業の発展・普及に関する覚書を締結し、さらなる協力を行うことになった。
とどまることを知らない北九州市の「しかけ」
2015 年12 月、「株式会社北九州ウォーターサービス(KWS)」が設立されました。これは、北九州市上下水道局と民間企業の共同出資による「公民共同企業体」で、市内の水道事業に加え、広域事業、海外事業をより積極的かつ柔軟に、そしてスピーディーに展開できる北九州市の新たな武器です。有田仁志・代表取締役社長に、新たな時代の水道事業のあり方、その中での同社の立ち位置について話を聞きました。
先人が積み上げてきた叡智を活かして水ビジネスに貢献
株式会社 北九州ウォーターサービス
代表取締役社長 有田仁志さん
11月28日に北九州市で開かれた日本・カンボジア水道フォーラムにて、工業手工芸省のチャム・プラシッド上級大臣(左)と
日本の水道は、今まさに転換期を迎えています。人口減少に伴い料金収入は減少するものの、老朽化した施設更新による支出は増大しており、また必要な職員確保も難しく、困難な状況に直面しています。
同様に、カンボジア、特にプノンペンも、別の意味で転換期を迎えていると感じています。急速な経済成長と急激な人口増加による水需要増大に伴い、さまざまな問題が発生していると聞いています。これまでの長年の経験と実績を活かして、株式会社北九州ウォーターサービス(KWS)はプノンペンの問題解決に向けた取り組みを行いたいと考えています。
また、海外水ビジネスでは特にスピードが重要だと痛感しています。即断即決は日本人の最も不得意とするところですが、KWS は、これまでの協力で得られた情報やニーズ、相手国との信頼関係や人的ネットワークをベースに、タイムリーに対応できると考えています。
KWS はこれまでに、カンボジア政府の要望に基づき、3 件の水道施設整備に関する無償資金協力案件の提案を行ってきました。今後もカンボジアの水環境改善に積極的に取り組み、カンボジア政府の国家目標CSDGs(2025 年までに都市部給水普及率100 %)とSDGs の目標達成に貢献していく所存です。
次は「カンボジアの奇跡」を!
さまざまな人があらゆる形で「水」に向き合う北九州市の取り組み。すべては「きれいな水を人々に届けたい」、その思いが起こした「形」である。この先、さらに20 年、50 年と、さまざまな変化を遂げながらも、これまで培ってきた絆を礎にカンボジアとともに歩んでいくことだろう。その先には「カンボジアの奇跡」があるのかもしれない。
Photo JICA / ISHIKAWA Masanori
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