現在カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum112号の特集ではカンボジア国内での日本のODAプロジェクトについて紹介しましたがそのWeb版も公開します。
第2回目の今回は「生まれ、育った「ひと」が生きるため」と題して私たちの生活にかかせない水と農業について。
人々の営みに寄り添う~カンボジアの日本ODAプロジェクト訪問~
近年、カンボジアの経済は急速に発展しています。この急速な経済発展により、2016年7月以降、カンボジアは低所得国から低中所得国へと引き上げられました。
しかし、経済構造の弱さと貧困の不平等により、カンボジアではなおもこの成長に伴う多くの新たな問題を抱えています。
2030年までには上位中所得国の地位を獲得するためにカンボジア政府は、これまでの復興、開発、そして現在の発展を持続的に継続させるため、「国家戦略開発計画(NSDP)」と「産業開発政策(IDP)」などの政策を策定しました。
1990年代初頭のカンボジア内戦終結に多大なる寄与をし、政府開発援助(ODA)を行ってきた日本は、その時代時代に、成長過程に応じてカンボジア政府が直面しているあらゆる開発課題を克服すべく、ODA支援を行ってきました。
カンボジア政府が定めたNSDPとIDPを元に2030年の新しい経済開発目標達成を目指すカンボジアの開発のために、日本の現在のODAはどんな役割を担っているのでしょうか?
今回の特集は、カンボジアに生きるニョニュムスタッフから見た、この国における日本のODA事業展開について触れてみたいと思います。
生まれ、育った「ひと」が生きるため
人が生きる中で欠かせないのが食べる、飲むといった行為。日本のODAは命の源を人につなげる中でも重要な事業を展開しています。
「プノンペンの奇跡」と呼ばれたことで世界的に注目された日本の水道事業。そして、人の営みに欠かせない農業にも、日本が寄り添い続けています。
公衆衛生と健康の源・「水」をつくる
カンポット州の州都カンポット市では、1950年代に配給水網を含む上水道施設システムが構築されたが、内戦により浄水場が破壊された。
その後、オランダのNGOやアジア開発銀行(ADB)の支援により既存浄水場の全面的な改修・建て替えが実施されたが、浄水場の供給力不足や配水管網の整備不足、一部配水管の老朽化により、給水サービスに課題を抱えていた。
同市は海沿いにあるために一部地下水が飲料用として適さないことから、住民の多くが井戸を使用することができず、安定した水源を持つ上水道施設の拡張が急務となっていた。
そこで、日本政府はカンボジアへの無償支援の一環として2015年7月から2018年8月にカンポット上水道拡張事業を行った。
カンポット水道局長のティー・キァンさんによると、現在カンポット州の上水道供給能力は13,500㎥/日で、2018年に日本の無償支援でオー・トーイ浄水場が完成するまではADBの支援で設置されたカンポット浄水場のみで6,000㎥/日供給していたという。
日本の支援で完成した施設により1日の給水能力が7,500㎥増えたことになる。
2020年は11地区34村に水道を供給していたが、2021年は12地区41村にエリアを拡大し、さらに5,000㎥増やして18,500㎥/日の供給を実現する予定。
2021年1月時点の上水道供給率は76.14%。将来的には100%に近づけるよう努力したいと将来の展望を語った。
キァンさんによると、カンポット州は自然に恵まれており水は潤沢だが、海水の影響を受けて上水道として利用できない。そのため以前は雨、川、ため池から取水して使う家庭が多かった。
また、資金不足により設備が不十分で取水できなくなることもあったという。日本の無償支援で上水道供給量が2倍以上に増えて本当に感謝していると語った。
地元住民によると、以前は水を購入していたが、葉っぱやゴミの混入、さらに消毒液の匂いがきつかったり白濁していたりなどた。2018年に上水道を引いたことで、生活が便利になり衛生面も改善された。
以前はトゥクトゥクで遠いところまで水を買いに行かねばならなかったり、資金不足で購入できない日もあったという。
また、保健センター関係者によると、水道が引かれていない地域では感染症が多かったが、2018年以降は感染症にかかる患者数が減っているという。
日本の無償支援で行われたカンポット市の上水道施設システム拡張・改良により、安全な水へのアクセス率が向上し、安定した給水サービスの提供が行えるようになり、住民の生活環境が以前よりも向上していることがわかった。
大地の恵みをいただく営み・農業を支える
トンレサップ湖周辺地域は年間降水量が多く、水資源が豊富なためカンボジアの米どころとして稲作が盛んである。
しかし現存する灌漑施設の多くはポルポト政権下に建設されたもので、設計・施工上の問題や老朽化により十分に機能していないものが多く、水量が天候に左右される。このため、日本政府は有償資金協力で灌漑施設を改修・整備することを決定した。
プロジェクト第二期の工事は2019年2月より開始され、2020年6月にすべての施設が完成した。対象地域はトンレサップ湖西部の3州6地区。いずれも農村部の貧困地域だ。
一方で、施設を建設するだけでなく、水資源気象省が主体となって流域水資源管理、灌漑整備事業の支援、灌漑施設の運営・維持管理体制の強化と人材育成、農民による適切な水管理とそのための水利組合の設立・強化と営農指導を行い、農業生産増加を図り、同地区農民の生計向上に貢献することを目的とする技術協力も展開している(2021年2月で終了)。
プロジェクト対象地のバッタンバン州リアム・コン地区の灌漑面積は1,969ha。3地区の7つの村に水を引いている。
農民水利組合リーダーのケーン・サマーンさんによると、灌漑施設が完成する前は川の水を溜められず、深刻な水不足の問題を抱えていたという。
今後は、雨季には放流して洪水を防ぎ、乾季にはせき止めた水を不足地域に配給することができる。灌漑施設を利用し始めて半年ほどで、以前は1haあたり2トンだった米の収穫高が1.5~2倍に増えたという。
また以前は一期作だったが二期作ができるようになり、農民たちは三期作を目指しているそうだ。
「灌漑施設は村人たちの手で管理していくべきもの。施設の価値を分かち合い、協力し合って守っていきたい。また、組合の中でグループを作って清掃をするなど、灌漑施設を衛生的に保つよう教育・啓蒙していきたい」と、水利組合が主体的に施設の利用・管理に取り組んでいこうという意欲がうかがえた。
もう一つの対象地、ポーサット州ワット・チュレ地区の灌漑面積は1,227ha。2地区10の村のリーダーが集まって農民水利組合を結成している。
組合リーダーのメァス・ソックさんによると、「雨季は降雨で川が溢れるが、乾季は逆に干上がってしまっていました。
しかし灌漑施設が完成したことで1haあたり3~4トンだった収穫高が4~6トンに増加、また一期作しかできなかったのが三
期作できるようになりました。さらに米だけでなく野菜栽培もできるようになった」という。
治水、施設の維持管理という重要な役割を持つのが農民水利組合だ。特に乾季の水不足は深刻で、どの村にどれだけ水を供給するか慎重に話し合い、供給量を調整・決定する必要がある。
これまでは水資源気象省に指導を受けてきたが、プロジェクト終了後の2021年3月以降は自分たちで灌漑施設を管理しなければならない。
ポンプ施設のエンジンなどの大規模資産の修繕の場合は水資源気象省に相談することとされているが、水路のコンクリート破損など日々の修理は自分たちで行えるよう、施設を利用する組合員から組合費を徴収し、貯蓄・運用することになる。
そのためにも、利用者一人ひとりがこの施設を自分たちのものとして大切に使っていく意識を持つことが大切だ。
バッタンバン州とポーサット州いずれの地区においても、日本政府が有償資金協力でつくった灌漑施設に寄せる期待は大き
い。
今後、農民水利組合が主体となって灌漑施設を管理し、継続して利用することにより、農業の持続的発展、ひいては貧困の削減や経済成長に貢献するだろう。
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