現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum125号の特集のWeb版です。
「工場で働くということ~プノンペン周辺工場労働者の職と生活の現状あれこれ~」
縫製業やアパレル業などで約90万人の労働者の仕事を生み出すカンボジア。全国1326の縫製工場のうち、727の工場がプノンペンにあり、約34万人の労働者が従事しています。
そんな首都プノンペン郊外の、特にチャオムチャウ町 (プノンペン国際空港の西南部エリア)には工場エリアが広がっています。若い労働者向けの借家や団地もあり、縫製業などに従事する工場労働者が生活しています。そのため、この地区にある工場周辺には日常生活に欠かせない品々や飲食店などがすらりと並び、いつも人々でにぎわっています。
主に地方から集まってくる労働者たちは、この環境でどんな生活を営んでいるのでしょうか。その実態の一角をご紹介します。
〜“工場で働く”背景が見えてきた〜工場労働者のみなさんにインタビュー
総人口約1,660万人に占める労働人口が54%以上というカンボジア。プノンペン周辺の工場では若いカンボジア人労働者がたくさん働いています。働いた給料を田舎の親へ仕送りしたり、結婚し子供を持って家族の生活をより豊かにしたいと頑張っています。そんな工場労働者のみなさんは、どんな思いを持って仕事をしているのでしょう。
マイホーム、そして子供たちの良い教育のためなら頑張れる
ヴェンスレーン通り周辺で約20年間生活しているブラック・チャンラーさん(40)に話を聞くことができた。チャンラーさんはプレイヴェン州出身で、縫製工場の工員として2002年にプノンペンに上京してきた。2007年にエンジン修理の仕事をしていた夫と恋愛結婚し、今は子供が2人いる。10年前にこのエリアに土地を購入して家を建てた。
「長年工場の仕事の収入で生活しているので、ここに土地を買って家を建てることを決めました。土地は手元にある貯金と田舎の親戚からの借金で購入しましたが、数年前に返済が済みました。家の建設のためには銀行からお金を借りています。田舎よりプノンペンには良い学校もあるし仕事もいろいろあるので、ずっと住んでいきたいと思っています」
工場で働き、銀行ローンの返済をしながら2人の子供を育て、4人家族の家計を切り盛りしているチャンラーさん。将来について尋ねると、「ローン返済が終わったら、子供に自分より高い学歴を持たせたいので、良い教育が受けられるようにさらに子供のために働きたい」と語る。
現在、夫はトゥクトゥクのドライバーとして働いている。共働きで家庭のために頑張っているチャンラーさん夫婦は、子供のためにいろんな努力をしてきた。
「長男(14歳)と次女(5歳)が生まれたときは、3ヶ月の産休を取りました。産休が明けて仕事に復帰した後は、近くに住む親に子供を預け、面倒を見てもらいました。出勤前に子供を連れて行き、昼休み時間には工場からいったん帰り、ミルクをあげていました。3歳まではこの生活です。4歳になってからは近くの幼稚園に入れています。子供が幼稚園や学校に入れる年になると、大分楽になります。学校で1日見てくれるので、安心して仕事に取り組むことができます」
チャンラーさんの話では、多くの工場労働者は子供を親元に預けるのが一般的だという。親が近くに住んでいる人なら、朝預けて夕方引き取る。そして遠方でもタケオ州やコンポンスプー州といった比較的近いところなら週末子供に会いに行き、1泊して戻る。だが、さらに田舎が遠方の場合は預けっぱなしになり、連休の時しか子供に会えないとういこともある。
他方、近年では子供が 1 歳になると預けられる保育サービスがあり、ミルクや着替え、おむつなどを自分で買って持って行くと、月に約60ドルで預かってくれる子育てサービスを利用する工員もいるという。
余暇の過ごし方は、「生活して行くうえで必要なことだけ考えているので、レジャーにお金を使うことはあまり考えていないのです。たまに子供と一緒にトゥクトゥクに乗って王宮周辺に土鍋を食べに行ったり、王宮周辺を散歩したりしている程度です。夫が闘鶏が好きなので、鶏の世話をレジャーとして楽しんだり、週末に近所の人とバーベキューや鍋パーティーをしてビールとカラオケを楽しむことがよくあります」と教えてくれた。
育ち盛りの子供を育てるチャンラーさん。朝早く起きて朝食と昼食を作って出勤し、1時間の昼休みに帰宅して子供たちにご飯を食べさせる。そして再び工場に戻り、4時まで仕事。帰りがけに工場近くの露店で野菜や肉を買い、自宅で晩ご飯を作って家族と一緒に食べるのが生活パターンだ。日々の食材やお惣菜は工場周辺の露店や自宅付近の屋台、小さな市場で買うが、年に数回は低所得者層に人気の安くて品揃えが豊富な「ストゥンミェンチェイ市場」というちょっと大きめな市場へ行き、新しい服やキッチン用品などを買うという。
親を幸せにするためにやれることを頑張る!
プレイヴェン州出身のケオ・ヴィボルさん(26)は、家族を支えるために5年前にプノンペンの縫製工場に就職した。 彼女は現在、ヴェンスレーン通りの縫製工場で働き、友達と一緒に職場近くに月約60ドルの部屋を借りて暮らしている。
「工場周辺にはお手頃の賃貸アパートがたくさんあるので、交通費を節約するために工場近くの部屋を借りることにしました。毎日歩いて工場に通っています」
家庭の経済的事情で中学1年生の時に退学したヴィボルさん。その後は、従妹の紹介でプノンペンに上京して工員の仕事に就いた。工場に入る前に従妹である姉から服の仕立ての訓練を受けていたという。
5年間働いて多くの経験を積んだヴィボルさんだが、職場の環境について次のように語ってくれた。
「作業にも慣れて日々楽しく仕事に取り組むことができていますが、工場への注文が多い時もあり、締め切り日が迫ると間に合うように頑張らないといけません。チームが油断して間に合わないと隊長から怒られたりすることが当然あり、そんな時は落ち込みます。また、残業が多い時はやっぱり疲れを感じます」。
一方、祭日出勤があった際や業績が良い工員には、ボーナスがもらえるという。これが仕事のモチベー
ションになっているそうだ。1週間の仕事が終わったら、土曜日の夕方に田舎の両親のところへ美味しい食べ物を持って帰省している。田舎で暮らしている両親と美味しいものを一緒に食べるといつも幸せを感じるという。
「実家に帰る前に親に電話をして、何か欲しいもの、食べたいものはないか聞いています。工員の給料は少ないので、良いものばかり買えないんですが、できる限り親の好きな食べ物を探して買って帰りま
す。家族みんなで美味しいものを食べるととても幸せです。また、給料日には必ずいくらかの仕送りをしています」
「学歴がないので、工員の仕事以外の選択肢は限られています。でも、私ができる仕事で家族のために働けているので、今のこの仕事にやりがいを感じています」
というヴィボルさんの収入と支出は?
平均の給料:250ドル(残業がたくさんあると、約 300ドルになることも)
家賃:友達と2人での生活で、30ドル/月
水道代と電気代:50,000リエル(12.5ドル)/月
平均の食費:5,000~10,000リエル(1.25~2.5ドル)/日
(コロナ禍は残業がなく、給料は日々の生活費を賄うので精いっぱいで、貯金はほとんどできなかったという)
決して豊かな生活ではないが、クメール正月やお盆などの特別な時期には自分にご褒美の買い物をしているという。主に、近所のストゥンミェンチェイ市場に行き、自分と親のための新しい服を購入して、一度に100ドル程度使うこともあるという。
週に1日休み(日曜日)があるそうだが、アパートで友達や近所の人と食事を楽しむのがほとんどで、外出することは滅多にないという。
「工員の生活はオフィスに勤めている会社員と違って、週末や休みの日に映画を見に行ったり、モールで買い物をしたり、郊外の観光地へ出かけたりすることはありません。交通費と食費に多くの出費がかかるからです。外出することがあるとすれば、近所の小さな遊園施設がある場所だったり、辛い麺が好きなので安い韓国系のラーメン店にたまに食べに出かけたりしている程度です」
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