みなさん、コオロギを食べたことはありますか?
カンボジアでは油で炒めたコオロギが市場や屋台で売られているのをよく見かけますが、ちょっと手が出せないでいる人も多いのでは?
でも、コオロギは貴重なたんぱく源として世界的にも注目が集まっています。
そんなコオロギをカンボジアで養殖・加工して、日本や世界のマーケットに送り出そうとしている一人の日本人青年にお話を聞きました。
新時代の食糧提供に挑め!エコロギーに注目!
Q:今行っている活動の概略を教えてください。
カンボジアを拠点にコオロギという生き物を人の手で生産(育成)、加工して新しい代替タンパク質として市場に出す活動をしています。
カンボジアでは伝統的に、シェムリアップ北部などではブルーライトでわなを仕掛けて採取していますが、わたしたちは天然のコオロギではなく養殖をしています。
卵から孵化させ、小さいコオロギを大きく育てます。今年で 2 年目です。
コオロギは幼虫から成虫へ変態していくのとは違い、「不完全変態」の昆虫。だから育てやすいんです。
人工的に育てるので、育て方を研究しながらの作業となります。数十万・数百万単位の管理をしています。
実は、日本でもコオロギの研究をしていて、個人的には 5 年目なんですよ。
東京・学生時代に自宅で養殖していました。でも、自宅では 1000 匹が限界でしたね(笑)。
Q なぜコオロギに興味を持ったのですか?
早稲田大学商学部にて学生サークルで模擬国連をやっていて、国際問題(地球環境、貧困など)をディスカッションしていました。
その時に食糧問題を扱ったことがあり、今後世界的に人口が増えて食糧をどう作って運搬するのか、という話になった時に「昆虫」に注目が集まりました。
その後、色々昆虫を食べてみて、美味しいか、栄養があるか、育てられるかを軸に検討していきました。
例えば、日本には蚕が生息していますが、さなぎを食べてもおいしくありませんでした。
栄養価はあったんですけど、食べ物として美味しくはなかったんです。
桑の葉を栽培しなければならないところも、持続可能ではないという結論に至りました。
ゴキブリも繁殖するので育てやすいが、衛生環境の面や人のイメージを考え、自宅では飼えないですしね(笑)。
いろいろ検討していった末、コオロギに落ち着いたんです。
コオロギは雑食ですから、お肉、野菜・草、残飯などなんでも食べてくれます。
飼育の自由度が高いんです。農作物の残渣からコオロギが育てられる。ここがメリットだと気づきました。
Q カンボジアに来たきっかけは?
2018 年にカンボジアに初めて来ました。大きなフィールドでやりたい。万単位でやらなければならない。
そう思って日本の空き家も借りてみたんですが、日本は寒いですからね。
コオロギは暖かいところが好きなので、暖房をつけて環境にやさしくないシステム生産をしたのでは理にかなっていません。
沖縄に移住することも考えました。
そんな中、東南アジアに着目しました。飼育環境はクリアです。歴史的・文化的にも昆虫を食べる食文化があります。何よりも、広いスケールでできます。
タイ・ラオス・ベトナムも回ったのですが、カンボジアにたどり着いたのはコオロギの食文化が都心部でも根付いていることが決め手でした。
タイ・ラオスでは、都市部では屋台も探さないとなかなか見つかりませんでした。
カンボジアベースの国際 NGO(DanChurchAid・デンマーク本部)が昆虫食プロジェクトをするかもしれないという話を聞きつけ、その農村開発のプロジェクトとコオロギの知識がマッチングしたんです。
今もこの NGO と共同事業を継続してやっています。
Q 共同事業について教えてください。
現在はタケオ州の村で、農家 50 軒ほどの農家に参加してもらっています。
コオロギの卵を農家に育ててもらい、孵化したところで買い取り、プノンペンでさらに育てて加工しています。
農村開発の観点からは、農家の特に女性が副収入を得るための活動となります。
育てる人によって上手い、下手があるんですが、女性主体の農家のコオロギがうまくいっている印象があります。
小規模農家だと、1 軒で 60kg(1kg=2000 匹くらい)を育ててくれます。
育ててくれたコオロギは全量買い取っています。
幼虫から成虫になるまで 45 日間ですから、次々にコオロギを養殖してもらっています。
月に 1 度くらい現地を見て回っていましたが、現在では仲買人が回収してきてくれるようになりました。
Q 今抱えている苦労は?
システム化がされていない点です。誰がやっても同じようにできるというところに至っていません。
生産方法の標準化のために、更なる研究が必要です。
例えば、コオロギの品種もそうですし、雑食とはいえ、どういうエサなら一番育つのか、どういう環境ならよりよく育つのかということも研究しなければなりません。
この部分は、日本の大学で研究を進めてもらっています。
Q 現在のマーケットはどんなところですか?
日本では現在、コオロギの粉末を原料にしたペットフードのオリジナル商品の開発・製造・販売をしています。カンボジアで育てたコオロギを加工・粉末にしてカンボジアから飼料原料として日本向けに正規に輸出しています。
いま日本では昆虫食がプチブームになっていて、ヒトが食べる食材としても大分県の日田にある醤油メーカーと一緒にコオロギ醤油を作れないかという話にもなっています。
大豆もコオロギもタンパク質ですから、発酵させて醤油にもできるし、味噌や調味料にもなります。
カンボジアのマーケットにも挑戦しています。伝統的にコオロギがヒトの食べ物として根付いていますし、日本よりも商品提案しやすいマーケットだと思っています。
いま開発しているのは油を使わず乾燥・味付けした健康志向のコオロギ・スナックです。
「Angkor Cricket」という商品名で、Facebook ページでテスト販売も開始しています。
カンボジアの油で揚げた屋台のコオロギもおいしいのですが、本来コオロギは栄養価の高い健康食材のはずなのに、油でギトギトになってしまって体に悪そうですよね(笑)。
カンボジアの富裕層を中心にいま健康や体作りを意識する人々が増えてきているので、そういう人たちに刺さる商品を目指しています。
日本の方にはまだコオロギの姿形が抵抗あるかもしれませんが、例えば健康的なお酒のおつまみとしてお奨めできるのでないかな、と思っています。 極一部のお酒好きの方々からはご好評頂いてますよ(笑)。
Q この活動のミッションは?
コオロギ育てる→食糧にするというよりは、新しい生態系を作っているという広い視点で考えています。
コオロギを軸に新しい生態系を人工的につくりだすことができると思っています。
人をめぐる、資源、教育、生活、文化まで変えていく、そんな事業です。環境的インパクトという意味では、コオロギをきっかけに生き物、人、資源が循環する社会を作ることができます。
例えば、キャツサバは栽培しても芋の部分を取ってしまったらあとは農業廃棄物になります。ですが、コオロギのエサとしてキャツサバの葉を使うことができます。
いわば、コオロギがごみ処理場になるんです。また、コオロギの糞を有機肥料にすることでまた農業に循環させることができます。
エネルギーの削減という点でも、例えば同じ動物性たんぱく質の牛肉ですが、牛を育てるにはエネルギー(餌、水、フィールド)が必要です。これに比べてコオロギは生産効率が断然いいし、エコフレンドリーです。
食糧問題という点でも、「いつでも、どこでも、誰でも作れる食糧」として、新しい食糧問題のアプローチになると考えています。それは、経済的ビジネスインパクトにもつながっていきます。
すでに、隣国のタイでも、政府が農村でコオロギ振興をしていたり、会社規模での工場もあります。
欧米でコオロギコオロギプロテインバーとか、コオロギチョコレートが流通し始めていて、その原材料としてタイのコオロギが輸出されています。
大きなビジネスチャンスだと思っています。
そして、この取り組みを「日本での研究+カンボジアでの生産」として世界に誇る品質とうたえるものとしていきたい。
それが私の大きな夢なんです。
プロフィール
葦苅晟矢(あしかり せいや)
1993年生まれ。大分県日田市出身。早稲田大学商学部卒業、先進理工学研究科先進理工学専攻5年一貫制博士課程3年。2017年、株式会社ECOLOGGIEを創業。早稲田大学生物物性科学研究室で昆虫コオロギの利活用に関する研究に取り組む。現在はカンボジア在住。Forbes 30 Under 30 Japan(2019)に選ばれ、文部科学大臣賞(2016)など受賞多数。Twitter
株式会社ECOLOGGIE(東京都新宿区)
早稲田大学での研究成果をもとに、カンボジアを生産拠点として、現地でのコオロギ生産・加工からコオロギを活用した食品や飼料の開発・販売までを一気通貫で手がけている。東京都主催ビジネスコンテスト「Tokyo Startup Gateway」(2016) 最優秀賞など受賞多数。
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