こんにちは。ボンユキです。
クメール正月が明けて、気持ちも一新しました。振替休日を入れての4日間の連休。なんと私は、一歩も家から出ることなく過ごしました。家で「普段やれないこと」をしようと決めていたのです。
その一つが、「ニョニュムのボンユキ担当の記事ストックをいっぱい作ること」でした。
私の担当といえば、ポル・ポト、リムケー、エッセイ(以前は辛辣な口調が定評(?)の占いコーナーも担当していました)。どれも、じっくり時間をかけないとならないので、連休はチャンスなのです。
で、今回はポル・ポトの記事をいっぱいストックしようと取り掛かりました。折しも、4月17日、プノンペンが陥落した日です。
3年8ヶ月20日間の悲劇の歴史。
ニョニュムでは27号からその被害者や遺族などから聞き取りをし、文字に残す活動を行っているこの雑誌の日本語翻訳権を認めていただき、連載をしています。
1975年の4月17日。プノンペンが陥落したのが、まさに昨日。この翻訳をしながら、今日がその日なんだなって思いながら翻訳しました。43年前のこの日、あんなことが起きるなんて誰も思っていなかったでしょう。そして43年後のこの日に、こんなにのんびりしたお正月を迎えられるなんて、誰も思わなかったでしょう。
日本の戦争の話や、カンボジアの話、世界中で今起きている悲しい争いなどの話を聞くと、胸が痛みます。私は24年前にカンボジアに来て、生々しい戦後の混沌とした様子をこの目で見ました。そして、この耳で、私が関わった人からあの時のことを聞きました。
そんなエピソードを、今日は紹介します。
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「カンボジアの人と話すことの欲求」
チャンリーさんはキャリアウーマンなので、あまり家事をしない。土日は「下手なんだけどねぇ~」と言いながら、時々何か作ってくれたり、外で買ってきたおかずを皿に乗っけて、一緒に食べようと誘われてご飯を食べた。
ある夜、チャンリーさんの部屋で、いろいろと話をしていた。話をしていたと言っても、それほどいいたいことが言えたわけではない。でも、なんとなく言っていることが分かった。チャンリーさんは、ポル・ポト時代の強制労働の話をしてくれた。
その時代、それはそれはつらかった。強制労働をさせられ、希望を失った。やりたいことが出来ない、こんな生活がいつまで続くのか。でもそんなこと誰にも聞けない。そして誰も信じられない暗黒の世界。
そんな話をしながらも、彼女は「こんなこと、大きな声では言えないのよ。誰が聞いているかわからないでしょ」とささやいた。それが20年前のカンボジアだった。UNTACの選挙が終わり、民主的な政権が発足し、自由資本主義経済の社会になろうとしていた時代。でも人々の頭の中には、まだあの光景がしみついているのだ。私も協力隊の派遣前研修の際に「公の場では国王の話や政治の話はしないようにしましょう」といわれていた。どうして?私にはわからなかった。でも、チャンリーの言葉を聞いて、そうなんだ・・・と思った。好きなことが大きな声で言えない、そういう時代なんだ。
話をしていくうちにだんだん涙ぐんでいくチャンリーさん。もういいよ。話したくなかったら話さないで。
でも、そうではなかった。彼女は「話したかった」のだ。
カンボジアに来る前に、カンボジアで起こったことについて、それなりに勉強をしてきた。映画「キリングフィールド」も見たし、カンボジアに関する会合があれば参加した。でも、実際に体験をした人の話は、心に突き刺さるものがあった。
(写真は1994年のホームステイの時のもの。左から2番目がチャンリーさん。)
アンネの日記みたい。
当時は10代だっただろうチャンリーさんの話を聞いて、私は思った。彼女たちは過去に自分が受けた出来事を、ほんとうは誰かに話したいのではないか。でも、カンボジア人同士ではあのころの話は公然とできない。外国人の私にだったら話せる。
クメール語をもっと勉強しよう。そう思った瞬間だった。外国人にだったら話ができる。話をすることによって心の中でつっかえていたものが癒される。そのための対象となりたい。心からそう思った。そして、将来時間を見つけて当時の話を聞きとって書きとめる活動ができないだろうか。
そう思い続けて数年たったころ、カンボジア資料センターという団体がそれを実行した。「The Truth」という冊子になって、発行されるようになった。自分で活動をすることはいまだにできていないが、せめてこの貴重な資料を読んで、伝えて行かなければ。そう思って、その数年後に始めた生活情報誌「ニョニュム」に、The Truthの内容を日本語訳する権利をいただいて、掲載するようになったのだ。
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