2003年のNyoNyum創刊当初から連載している「ボンユキエッセイ」。カンボジアに長年住むと街の移り変わりが見えてくる。
おもしろくもあり、どこかもどかしくもある。
通訳、翻訳、会社経営に奮闘中のボンユキこと山崎幸恵がおくるカンボジアあれこれ。
今回は通訳業をしているボンユキによく起こりえるある現象についてのお話です。
「夢」は通訳準備時間!?
クメール語(カンボジア語)の通訳者としての人生、今年で20 周年を迎えたボンユキです。「経験豊富なのだからどんな分野の通訳も余裕でお手の物なんでしょう?」なんて思われているかもしれませんが、表向き余裕そうに見え
るその裏側で、実は20 年経っても緊張する場面はたくさんあります。
そしてその緊張で失敗しないために、事前勉強、準備がとっても大切です。その緊張のバロメーターというのが私の体内にはあるようです。20 年間、面白いことに、必ず起こる現象です。それは「夢」。
法律などの難しい分野の通訳とか、一世一代の大舞台的な通訳の仕事の前には、必ずと言っていいほどその通訳の
夢を見ます。最近の具体例では、「官民合同会議」。この会議は、日本とカンボジアの官民による二国間対話で、日カ投資協定の中で実施がうたわれているもの。
この2 月にも第16 回会議が行われました。最初の数回や途中何回か対応できなかったのを抜かすと、十数回の通訳をさせていただいていますが、この会議は何度目であっても必ず「緊張」します。
なぜって、やっぱりこれは二国間の公式な対話の場であり、二国間の関係と民間経済活動促進という、一個人としては相当な重荷の仕事。さらに、租税、税関、貿易、電力、労務、物流、環境、産業振興などなど、3 時間半くらいの時間の中でありとあらゆる分野の話題が次々に取り上げられるため、持っている知識を総動員させなければならないのです。
そう考えると、質問する人と答える人は自分の担当分野を話せばいいのだけど、私はすべての分野を扱わなければならないという、ある意味不公平な(?)状況が起きていますね。これ(苦笑)。
ともあれ、今年もこの会議の通訳を担当させていただき、事前に相当の準備をし、さぁ、明日はいよいよ本番! というその夜。なんと、「官民合同会議で通訳をやっている夢」を見て起床。
起きたときには一体あれが夢だったのか現実だったのかわからないほど、朝なのにぐったり疲れているのです。そしてだんだん意識がしっかりしてきて、まだ会議は終わっていない(始まってもいない)ということに気づいてがっかり、二重に疲れる。
あぁ、あれが夢だと気づかずそのまま会議が終わっていたらいいのに…なんて思いながら、毎回会場に向かうのです。
でも多分、そうやって夢の時間で頭のあちこちの引き出しを引っ張って、本番で記憶をフル回転できるよう準備をしているってことなのかも。
そう思えば、これも通訳技術の一つなのかもしれませんね。
Cambodia Joho Service 代表/日本カンボジア通訳翻訳家
神奈川県出身。在カンボジア歴、足掛け25年。
翻訳、通訳のほかカンボジア関連のアレンジやコーディネートを手がけることも。
仕事に追われつつも、大好きなビールは絶対に欠かさない。
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