2月10日に発行したカンボジア現地情報誌NyoNyum 93号内の特集記事をWEBでも紹介♪
カンボジア昔話③「龍の洞窟とウドン山の大仏」
●コンポンスプー州・ウドン山に伝わるお話●
プノンペンから北へ約40キロの所にウドンの街があります。ここにはかつてカンボジアの首都が置かれ、ウドン山には歴代の王様のお墓が奉ってあります。
むかしむかし、カンボジアのはるか北部で広大な土地を治めていた中国がインドシナへ使節団を送りました。使節団はウドンの街を訪問し、この地域の一帯を見渡すことのできるウドン山に登りました。すると使節団の中にいた易者(風水師)が驚くべき発見をしました。なんとウドン山には「龍の洞窟」が2つ開いているというというのです。
「龍の洞窟」とは霊験あらたかな洞窟のことで、龍が一方の洞窟から山の中に入り、もう一方の洞窟から山を出て行くと、その地は大変栄えると信じられていました。中国の使節団は自分たちの国よりもカンボジアの地が栄えることを好ましく思いません。もし龍がウドン山にやって来て2つの洞窟をくぐり抜けると、カンボジアが中国を脅かすような強大な国になってしまうのではと心配したからです。そこでなんとか良い策はないかと思案をめぐらせました。
使節団の代表はウドンの人たちに尋ねました。「この土地の人々はどんな神様を信仰していますか?」。尋ねられたウドンの人はこう答えました。「この土地の者は皆、仏教徒です。仏さまを信仰しています」。そこで使節団はウドンの人たちのために大きな仏像を作ることにしました。その大仏で一方の洞窟をふさいでしまうことを思いついたのです。これでもし龍がこの地にやって来たとしても、2つの洞窟をくぐり抜けることができなくなります。
しばらくして大仏は無事完成しました。「こんなに大きく立派な仏さまを作ってくれてありがとうございます」と、ウドンの人々は中国の使節団に大いに感謝しました。大仏で霊験あらたかな洞窟をふさいでしまった使節団は、「これで中国がカンボジアに脅かされることはないだろう」と安堵して中国に帰っていきました。そんなことから、ウドン山には大仏が祀られるようになったそうです。<おしまい>
お話の舞台を訪ねよう
カンボジアの古都、ウドン。首都が現在のプノンペンに移る前、1618年から1866年までの約250年間ここに王都が置かれ、この話の舞台であるウドン山が街の中心だった。そのため周辺には各代の王によって寺院などが数多く建設された。今もその一部が残り、歴代の王の墓である数基のストゥーパ(仏塔)も山上で存在感を放っている。
1911年にシソワット王が建てた寺院も残っており、この寺の大仏がこの話の起源となった大仏だという。「龍の洞窟をふさいだ大仏」の伝説は、地元では誰でも知っているような有名な話だそうだ。この寺と大仏は内戦時代に砲撃で大きく破壊されてしまったが、その後何年もかけて修復が行われた。現在では、折れた太い柱だけの状態になっていた建物にもしっかり屋根が付き、損傷していた大仏は金ピカの姿に生まれ変わってたくさんの参拝客を迎えている。ウドン山はプノンペンから気軽に行ける観光地としても人気で、山上の寺院や仏塔と大仏、そして山から望む見晴らしの良い景色を楽しみにカンボジア人、外国人がたくさん訪れている。
ACCESS
プノンペンから
国道5号線を北へ約40キロ、車で1時間ほどの場所にある。自家用車または車をチャーターしていくのが便利。
~土地に伝わる話を探して~
今回紹介したお話、じつは日本の団体「一般社団法人ホワイトベース」が集めたもの。カンボジア各地を訪ね歩き、土地に伝わる昔話を聞き取って物語にまとめる「カンボジア民話発掘・保存プロジェクト(CAMBODIA FOLKLOREARCHIVE)」という活動を行っている。同団体の代表を務める石子貴久さんに話を聞いた。「この活動を始めたのは2012 年頃。本屋をのぞくといくつか児童用の絵本はありましたが、多くは近隣諸国の昔話やどこかの童話のリメイク版のようなもの。“カンボジアの昔話” と言えるオリジナルの話は少ないのが現状でした」。そこで、まだ口頭伝承でしか伝えられていない地方の民話、伝説、昔話などを土地の老人にヒアリングし、絵本化することを思い立ったという。各地を訪ね歩くと、地元では有名でも全国的には知られていない、その土地の歴史や文化、風土に根ざした話に出会えた。聞き取った話をまとめたら、自ら絵を描いて紙芝居に。日本の若者たちといっしょにカンボジアの小学校を訪れ、地元の子供たちといっしょに絵に色をつけて紙芝居を上演する活動も行っている。「当初から比べると、最近ではカンボジアの本屋にもいろんな本が並ぶようになりました。私たちの団体が集めた各地の話もそこに並ぶのが目標です。昔話の発掘、伝播活動を通してカンボジアの文化復興にも貢献できたら」と語る。
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