6月中旬、サッカー日本代表・本田圭佑選手(パチューカ/メキシコ)が運営するソルティーロ・アンコールFC(本拠地シェムリアップ)が日本遠征を行なった。現在、カンボジア2部リーグ所属のソルティーロ・アンコールFCは所属選手が20人前後でそのほとんどが16歳から24歳の若い選手が中心。カンボジア代表経験のあるような即戦力の選手は獲得せず、プロ経験のない将来性のある若手を育てていく方針だという。
<移動>
今回は14名が日本遠征に参加。選手のほぼ全員が初めての海外ということもあり、パスポート取得や国際線搭乗など、選手達にとっては何もかもが初めての体験。シェムリアップから香港経由で東京へ向かったが、移動中に何度もスマートフォンで写真を撮ったりとまるで修学旅行生のよう。
<練習>
日本での練習は全部で3日間。千葉市内のZOZO PARK HONDA FOOTBALL AREAで行なった。初日、選手達はすぐ隣で練習していたJリーグのユースチームを見て、そのレベルの高さに衝撃を受けていた。また、滞在2日目には新ユニフォームのお披露目イベントがあり、選手達も出席はやや緊張していた様子。
その後、イベントに参加していた本田圭佑選手が練習に合流し、選手達を直接指導。世界で活躍している憧れの選手からの指導とあって、選手達は熱心に話を聞いていた。大雨の中の練習だったが、選手達の諦めない姿勢が本田選手の心に残ったという。また、映像解析のプロのもと、自分達のプレーの分析を行ない、その後フィードバックするなどカンボジアでは決して経験できないような世界の最先端で行われている経験もすることができた。
<宿泊>
宿泊先は日本のソルティーロFCの選手達が使用する寮。初めて日本に来た彼らに対して、寮母さんがご飯を作ってくれるなど温かく迎えてくれたことで毎日のトレーニングに集中することができたという。
<学び>
日本滞在中、浅草観光など何度か電車を利用したが、高齢者や障がい者用の優先席の存在や、車内が満員の際にはまず降りる人を優先でおろすというルールを皆が守っているということに驚いたという。皆が殺気立って我が先にといくカンボジアの交通事情しか知らない彼らにこういった日本の文化はどう映ったのだろう。
帰国後、選手達は日本で経験したことを選手全員に作文として提出。皆それぞれ、日本での文化や礼儀、まわりの事を考えて行動していることに感銘を受けており、サッカー以外の面でも学ぶことが多い遠征になったようだった。
日本や他の国のクラブでは練習時の遅刻・欠席に対する罰金・罰則は当たり前となっているが、ソルティーロではあえて、罰則を設けないようにしているという。
と同時にプノンペンはじめ、遠征に行く際は日系企業等で働いているカンボジア人に来てもらい、選手達の前で普段の仕事の様子を話してもらうというユニークな試みを行なっている。筆者が取材した6月末のプノンペン遠征では夕食時に日系の旅行会社で働くカンボジア人スタッフに来てもらい、選手達の前で話をしてもらっていた。翌日は朝から消防団を訪れ、実際の訓練を見て、カンボジア人スタッフに日々のトレーニングや時間を守ることの大切さを学んでいる。
東南アジアはじめ、途上国で仕事をするとまず、規律の面での問題に度々出くわす。その度に日本人や外国人が頭ごなしに縛り付けるよりも、このように日本の良い文化である「規律を守る」、「勤勉さ」というものを実際に体験しているカンボジア人から話を聞いたり、または実際に体験すると彼らの理解度も全く違ってくるだろう。
ソルティーロの選手達には罰則で縛り付けるような規則ではなく、「自ら考えて判断・行動する」ということを学んでほしいという思いが込められている。
そして、世界中どの国でもサッカー選手は常に注目され、彼らはお手本にならないといけない。ソルティーロはサッカーを通してこのような人間教育も行なっており、カンボジアで彼らはこれからサッカー選手を目指す子供たちのお手本にならなくてはいけない存在である。今回の遠征で選手達は日本人の良さである他人同士でもお互いが想い合い、規則を守る大切さを学んだことで人間的にも成長したに違いない。彼らにとってもかけがえのない経験をすることができた充実した遠征だったはずだ。
7月初旬、ソルティーロFCがプノンペンに遠征にくるというので練習試合を見にいった。結果は1部リーグ所属の格上相手に0-9の完敗。相手は1部リーグの下位クラブだが、普段からカンボジア代表や強靭な外国人選手達と対戦しているだけあって、技術、体格全ての面で圧倒されるなど違いを見せつけられた格好となった。カンボジアの選手達はたとえプロの試合でも大差がつくとすぐに諦めてしまう選手が多い。だが、点を取られても諦めずにひたむきにチャレンジし続けるソルティーロの選手達の姿にこの国のサッカーの明るい未来を垣間見れた気がした。今後の彼らの活躍に期待しよう。
文:狩野宏明(CJS編集部)
写真:HONDA ESTILO 提供
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