経済発展、ASEAN 経済共同体、メコン連結性、サプライチェーンがどうのこうの…と、難しいお話の通訳をすることが多くなったボンユキ。正直言って、この手の話題は苦手です。が、仕方ないので勉強して、必死で通訳をやっています。
そんなことで、経済系の会合に出たりすることが多くなったのですが、先日某所で某大臣とのミーティングがありました。案の定、何を話していたのかはだいぶ忘れてしまいましたが、電力供給の問題が今後どう改善していくのか、見通しを知りたい、という話題になったのだと思います。大臣がこんなふうにおっしゃいました。「皆さんはこの数年の駐在でのカンボジアを見ているのでわからないと思うけど、10 年前、20 年前と比べたら、今のこの発展の様子は誰も予想ができなかった。あの頃は1 日に電気が使える時間が数時間しかなかった。夜になると街は真っ暗になり、今のプノンペンの夜景からは想像できない真っ暗闇の街だったんだ」
この大臣、私ももう15 年のお付き合い(通訳で会う)なので、必ずこういう話の時には私に向かって「あなたももう20 年カンボジアにいるからわかるでしょう?」って言ってくる。私はうん、うん、とうなづくのだけど、最後に大臣に一言。「大臣、先程は真っ暗闇のプノンペンの話、その通りだと思いました。でも、あの頃は真っ暗闇だったから、星がとっても綺麗に見えましたね。車もほとんど走っていなかったから、夜に恋人とディナーの後、シクロに乗って道路の真ん中を走りながら、ゆったりのんびり星空を眺めるロマンチックな街・プノンペンでした。今はもうそんなことできなくなっちゃいましたね。そう思うとちょっと寂しくないですか?」
ふふふ、と大臣はじめ、周りにいた方々は笑ってくださいましたが、きっとそういう気持ちは、誰もが持っているのではないかな、って思うんです。
発展して得たものはたくさんある。でも、同じように失ったものもいっぱいある。どちらがいい、悪いということは一言で言えるものではない。ロマンチックなあの頃のプノンペンでの生活は、髪を洗えば水道の匂いで髪が臭くなり、停電のなか暑さで眠れず冷蔵庫のドアを開けて冷気を受けたり…なんて状態だったのも事実。今その生活に戻れるか、と言われたらそれはもうご免ですよね、やっぱり。
考えようによっては、私はそのどちらも体験している、という意味で、得がたいものを得ているのかもしれません。ネオン輝くプノンペンの街を高層ビルから恋人と一緒に見下ろしながらも、あのロマンチックな星空の思い出は、ずっと私の心の中で消えることなくあり続けるのだから。
2015.8-9月号(第78号)掲載
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