焼き物の窯にはいろいろな形態があります。登り窯や穴窯など名前もさまざまですが、皆作品の用途を考え、どう焼きたいか、どう仕上げたいかで窯を選択しています。
しかし村での伝統的な土鍋や水がめ作りに関しては窯はありません。地面に直接木の枝やもみ殻を敷いてその上で焼いてしまうからなのですが、これもある意味、用途を考え選んでいるようにも思えるのです。たき火で焼くようなものなので当然焼きが甘く、水がめは水を入れれば染み出てきます。しかし、このカンボジアの暑い気候がその染み出てきた水をあっという間に蒸発させ、その時に気化熱を奪うので、水はいつも冷たく悪くなりにくいのです。同様に土鍋も焼きが甘いおかげで直火に掛けても割れません。こうした素焼きの特性を生かした土鍋や水がめはたき火のような焼き方で十分なのです。
さて、プロジェクトはというと今後の展望や必要性なども考慮に入れて、登り窯という選択をしました。少し小ぶりの部屋を3 つ持つ窯です。これだと注文の量に応じて使う部屋数を減らすなど、臨機応変に対応できるし、ロスも少なく全体的にきれいに焼くことができる窯だからです。
使用した耐火れんがも今回は日本から丈夫なものを輸入しました。これにより壊れづらくちゃんと焼き上げることができる窯を持てました。これさえあればプロジェクト終了後もしばらくの間は窯で問題が出ることは少ないでしょう。
しかし、どんなに丈夫に作ったとしても窯は必ず壊れてきます。その時直すのに新しいれんがが必要なのですが、輸入れんがはとても高くて多分買えないでしょう。そこで今プロジェクトでは最終段階として、日干しれんが作りを教えています。粘土と砂を配合して作るれんがで少しもろいのですが、十分これだけでも窯は作れるのです。これにより将来プロジェクトから独立したとしても自宅に窯を持つことができます。
村中に高火度焼成窯ができてこそ、本当の釉薬(ゆうやく)陶器の産地といえるのではないでしょうか。この先、この日干しれんがの窯がどんどん普及していくことをとても楽しみに、そして期待しています。
猿田さんは、千葉県市川市出身の44 歳。青森県五所川原市で陶芸家として活動しています。現在は、素焼きの鍋で知られるコンポンチュナン州オンドン・ルッセイ村で、陶工たちに釉薬(ゆうやく)を使った陶器製造技術を伝える専門家として同州に滞在中です。村には、栃木県益子の国際陶芸協会の支援などで完成した登り窯があり、それを活用する形で日本財団の「カンボジア伝統陶器プロジェクト」が2009 年に開始されました。猿田さんは、岩見晋介さん、北村工さん、饗庭孝昌さんに続く4 代目の長期滞在専門家です。
2012.8-9月号(第60号)掲載
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