1970年代を経て内戦の苦難を経験してきた現在の50歳から70歳の人々に調査を行った。内戦の過去に対してどの程度のトラウマがあるのか、それでも前向きに人生を歩んできた人々が今思う価値観が、今回得られた回答の数字に垣間見られる。
アンケート内容
過去の内戦の悲しい経験をし、今も苦しみにとらわれているか、苦しみを乗り越えて前向きな気持ちに切り替えているのか。
Q1:過去のポルポト政権下や内戦で悲しい思い出をされていたかと思うが、今ではそれを忘れることができているか?
1、出来た 33%
2、できない 67%
Q2:内戦時代の悲しい経験をしながらも、国の状況はだいぶ良くなってきているが、過去に拘らず、前向きな精神で頑張ってこられたと思うか。
1、よく思う 73.5%
2、あまり思わない 6%
3、その過去と将来を両方考えている 20.5%
Q3:今の生活は良くなったと思うか。
1、はい、そう思う 82.7%
2、いいえ、思わない 17.3%
解説:
カンボジアではポルポト時代を生き抜いてきた人の中では、この時代に殺された親戚がいないと言う人は一人もいないと言われている。その時代を経験した人なら、人の命を生々しく奪う残虐なポルポト政権を忘れることは難しいだろう。だが、政治の安定と海外からの援助や投資により経済が急成長し、市民の生活が次第に豊かになり、目に見える発展の勢いのなかで一部の人の心(第1問目の解答で内戦の悲しいことを何とか忘れることができたという約3割の人)は癒されてきているのかと思う。また、今回のアンケートでニョニュム編集部が得たコメントの多くが「ポルポト政権下で殺された親戚のこと・人の前で人が殺された風景、苦労してきたことなどを忘れることは決してできないが、家族や子供の将来のために前向きに生きてきた」としている。そして、上記の3問目の回答で分かるように、多くの人が今の自分たちの生活に満足していることがわかる。
お子さんが今社会人で色々活躍されているかと思うが、子供たちへの教育について質問します。
Q1:子供の教育に関してどの程度頑張ってきたか?
1、子供を高等教育程度まで行かせた 34%
2、大学まで進学させた 56.5%
3、大学院まで進学させた 7%
Q2:子供に十分教育を受けさせることができたと思うか。
1、そう思う 96%
2、あまり思わない 4%
解説:
1990年代以降は、政治が安定するにつれて国の未来を担う学校教育が重視されてきた。教育のクオリティーはともかく、途上国なりの教育が推進され、それと共に教育の重要性を意識する国民の意欲が分かるだろう。50~70代の年齢を迎えた親として、内戦の影響で生活に苦労しながらも、5割以上の方々が自分の子供を大学まで進学させることができたということも、教育を大事に考えるクメール人の情熱が分かるのではないだろうか。
現状に関する自己満足感は?
Q1:現在の職に満足しているか。
1、はい 84.5%
2、いいえ 15.5%
Q2:今の生活環境に満足しているか。
1、はい 84.5%
2、いいえ 15.5%
Q3:今の自分の家庭の所得・収入に満足しているか。
1、はい 83%
2、いいえ 17%
解説:
内戦中と内戦直後の暮らしを苦労して生き抜いてきたクメール人は、近年の経済発展がもたらした今の経済の豊かさに満足する割合が高い(職業や生活環境、所得のいずれも8割台を超える)ことがうかがえる。
あなたが思う家庭の価値観とは?
Q1:生活して行くうえで第一にしていることは?
1、家庭・実家を持つこと 20.2%
2、良い仕事/キャリア・商売を持つこと 40.5%
3、家庭の収入 22.6%
4、友人・同僚・近所・親戚との良い関係 5%
5、国の平和 13%
6、その他( )
Q2:今自分が求める幸福とは?
1、健康でいること 13.3%
2、安定収入・財産を持つこと 45.8%
3、長生き 0%
4、楽しい日々を過ごすこと 0%
5、自分のことより、子供と孫のことを大事に考えている! 25.3%
6、お寺へ修行できること 0%
7、理想的な愛車・家を持つこと 0%
8、その他( )
Q3:あなたが人生で一番大事にしているのは?
1、親しい友人関係持つこと 3%
2、家庭生活 43%
3、結婚生活 23%
4、健康 11%
5、お金・財産 11%
6、仕事 9%
7、その他( )
Q4:親として子供のことで最もみたい幸せとは?
1、安定した収入を持つこと 38.6%
2、良い結婚生活 12%
3、公務員などのような社会的に位が認められた職業に就くこと 44.6%
4、健康でいること 5.6%
5、その他( )
Q5:親として子供にどの価値観を最も重視しているか。(最も重要だと思う3つを選択しなさい)
1、大きくなってちゃんと独立して生活できること 59.5%
2、勤勉でいること 34.5%
3、誠意な人になること 45.2%
4、他人への思いやりのあるひと 23.8%
5、謙虚であること 35.7%
6、信仰心のある人 1.2%
7、忍耐できる人 9.5%
8、競争心がある人 9.5%
9、教師や年上の人に対する敬意を持つ人 76.2%
10、お金持ちになること 17.9%
11、その他:…………………………
解説:
上記の設問1と2の回答の数字をみると、生活して行くうえで何よりも仕事やキャリアを重視していることがわかる。自己の幸福を聞いたところ、安定収入・財産を持つことを選ぶ人が最も多かった(45%)。経済勃興を背景に、個々人で仕事とキャリアを積み、そこから収入を得ることを最も期待しているようだ。そして、その収入が安定していることが理想のようである。また、家庭生活を重んじる(43%)のに対し、驚いたのは友人・同僚・近所・親戚との良い関係に価値を置く割合が非常に少なかったことだ(5%と3%)。それはやはり、経済の急成長期を初めて経験した現代クメール人が、人間関係より、個々人の収入を追い求める傾向が強いのだと思わせる。
他方、親としての価値観を尋ねると、親としては自分の子供が公務員などのような社会的に位が認められた職業に就くことが理想のようで、回答数が最も多かった(44%)。そして、最も重要な価値観を3つ選んでもらったことにより、最も多いのは教師や年上の人に対する尊敬心を持つこと(76%)、次いで子供の独立性(59%)であり、その後は、誠実な人(45%)であった。以上は50~70歳の年齢を持つクメール人が求める幸福と価値観だった。
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