陶器産地として必要なもの、それは何といっても粘土です。まず、良質の粘土が大量にあり、その後から陶器産地としての可能性が出てくるのです。
ここオンドン・ルッセイ村周辺では、大量の粘土が採れます。しかし、その粘土はこの村の産業として発展した、焼成温度が低い素焼きには適していますが、釉薬(ゆうやく)を使った高火度焼成には不向きです。なぜなら、耐火度が低いため釉薬が溶ける温度まで上げると、一緒に粘土も溶けてしまうからです。
当プロジェクトでは、これまで新しく2 種類の粘土をこの近隣で見つけました。高火度に耐えうる赤粘土と白粘土です。特に白粘土の方は、少し扱いづらい部分もあるのですが、良質で十分に耐火度も高く、何より釉薬の発色がとても良いのです。なので、これからの作品作りはこの白粘土を中心に使っていこうということになっていました。
そんな矢先、この白粘土で耐火れんがを作り、新しく小さな窯を築窯しようという話が持ち上がり、ある程度まとまった量の白粘土が必要となりました。トラック1 台分程の白粘土の調達をプロジェクトメンバーにお願いしたところ、なんと、今の季節は無理という答えが返ってきました。
よくよく話を聞いてみると、白粘土の採れる場所は、4 月から12 月頃まで水が入ってしまい採ることが出来ないというのです。とりあえず、ある程度の量は確保してあったので、作品作りには問題ないのですが……。
私は実際の白粘土採掘場を見ていなかったので、見ておきたいとお願いし連れて行ってもらいました。村からバイクで約30 分、着いた場所は数ヵ月前には緑でいっぱいだった広大な平原のど真ん中。今は、本当に道路以外はすべて水で満たされていました。
そして、白粘土はどの辺りで採れるのか聞いたところ、なんと、この広大な見渡すかぎりのすべてがあの白粘土で、だいたいどこを掘っても採れるというのです。
あの良質な白粘土がほぼ手付かずでこれほどに大量に眠っているということに、将来この地が釉薬陶器の大きな産地に成長する可能性を強く感じました。
猿田さんは、千葉県市川市出身の44 歳。青森県五所川原市で陶芸家として活動しています。現在は、素焼きの鍋で知られるコンポンチュナン州オンドン・ルッセイ村で、陶工たちに釉薬(ゆうやく)を使った陶器製造技術を伝える専門家として同州に滞在中です。村には、栃木県益子の国際陶芸協会の支援などで完成した登り窯があり、それを活用する形で日本財団の「カンボジア伝統陶器プロジェクト」が2009 年に開始されました。猿田さんは、岩見晋介さん、北村工さん、饗庭孝昌さんに続く4 代目の長期滞在専門家です。
2012.6-7月号(第59号)掲載
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