各家庭で新年の女神様を迎える正月の1日目に次いで、残り2日間の儀式を担うのは寺である。日常的にクメール庶民の拠り所である寺は、正月にも人々の集いの場となる。この2日間、寺ではどんな儀式が行われているのだろうか。
クメール正月と砂山造りの儀式
祖先を大事にするクメール人は、お盆だけでなく、正月も寺へ行く。正月2日目の午前中は、各家庭で準備した料理や果物などのお供え物を持ち、家族全員でお寺に赴く。祖先のために僧侶に寄進をし、お経を唱えてもらうのである。全国各地の寺はどこも参拝する人で賑わっており、その中で普段とは違う儀式が行われているのがめにつく。寺の敷地内に砂山を造り、お線香やお花をもってお祈りし、お布施をする儀式である。正月と砂山造りの儀式は、以下のような伝説が由来だと言われている。
「昔々、砂で汚れた怠け者の未成年の男がいた。若者は毎日砂の山に通っていたので、砂で常に体が汚れていた。ある日、インドラ神がその砂で汚れた若者の奥さんとなるように一人の女神を送った。求婚をしてきた女神に、怠け者の若者は自分が成年ではないことを理由に求婚を断った。だが、その女神は砂で汚れた若者の両親のところに行き、説得するようお願いした。女神の美しさに惚れたその両親は、砂で汚れた若者を説得し、結婚をさせた。女神と結婚して以来、女神は砂で汚れた若者の身体を毎日洗い、身の回りの世話をした。そのお陰で、砂で汚れた若者は以前よりはるかに格好が良くなった。女神の真摯な態度に感化され、砂で汚れた若者は人格も優れていき、村の人々に知られるようになっていった。ある日、この話を知ったある将軍が、砂で汚れた若者に会いたいとやってきた。その国を支配した王が急病で亡くなり、国を統治する後継者をこの将軍が探していたのである。砂で汚れた若者ほど人格が優れた人はこれまで見つからなかったため、将軍は若者と女神にその国の統治をしてほしいと要請した。それ以来、砂で汚れた若者が国王になり、その国を統治していった。」
このような伝説をもとに、砂山を造ることが様々な福に恵まれる行為であると信じられているようになった。特に、正月に寺の敷地内で砂山を造る儀式が行われ、多くのクメール人が砂山造りの儀式に足を運び、砂山から新年の幸福を授かろうとお祈りをするのだという。
仏像を清める
正月の最終日は僧侶が寺の仏像を水で清める儀式を行う。旧年の災い、不幸、不運などを洗い落とし、新年の幸福を呼び寄せるという意味があるという。
寺での儀式参加とその意義とは?
菩薩の教えによると、旧年の終わりと新年を機に両親や恩師、僧侶などに功徳を積むことにより、その人が男の人なら偉大な人になり、女の人なら美に恵まれ、幸福に暮らせるようになるという。また、正月に鶏やウサギ、鳥、魚、亀などの獣を解放することで、病気にかからず健康で長生きできるといわれている。そして、僧侶に寄進をする人は、来世に身体的、精神的に豊かな人生が得られるという。この信仰から、クメール正月になるとクメールの人々は両親や年寄りの人々に孝行をし、自分より弱い人たちに施しをし、動物を解放し、寺で僧侶に寄進をし、自身の幸福として返ってくるよう徳を積むのである。
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