NyoNyum119号特集:①母系社会文化
NyoNyum119号特集:①母系社会文化
2022.07.25

現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum119号の特集のWeb版です。

 

「変わりゆくクメール女性たち~古来から現代につづくカンボジア女性の姿~

経済発展が進むカンボジアでは、省庁や民間企業での女性の活躍が目立つようになっています。カンボジアの伝統風習では、女性は結婚して妻となり、主婦として料理・洗濯・夫や子供、親の世話をして家を切り盛りするものとされてきました。

しかし現代では、家事に加えて仕事をして収入を得る女性が増えています。主婦の80% が家計に収入をもたらす仕事をしているとする調査結果も。

一方で、古来カンボジアでは社会における女性の地位は高く、それを示す文化・思想も多く残っています。そして今もカンボジア人女性の心の中にしっかり根付いています。

では、カンボジア社会における女性の伝統風習とはどんなものなのでしょう?そして現代において働くカンボジア人女性の環境はどのように進化しているのでしょう?

 

母系社会文化

カンボジアは母系社会であることをご存じですか?実は、古くから末の娘が財産や家督を相続することになっているほか、結婚式も「婿入り婚」で、花婿行列が新婦の家に向かって行くのを見たことがあると思います。この母系社会の文化は、カンボジアの歴史や神話からも見てとれます。ここでは、その歴史を探ってみます。

 

男は女性の後ろを歩くもの!?

プレァタオン・ニァンニァック

花婿が花嫁の肩掛けを持つ「プレァタオン・タオンスバイ・ニァンニァック」というクメールの伝統的な結婚の儀式の一つになっている

昔々、今のカンボジアの地形ができる前、トロークの木が1 本生える島がありました。その付近の海底には竜王の国があり、そこに美しいニァックという娘がおり、その島に上がってきては海岸で遊ぶことを楽しみにしていました。

ある日、ニァックが女官を連れて海岸で遊んでいると、インドから流されてきたタォン王子が島にたどり着き、2人は一目で恋に落ちました。結婚をすることを誓った2人。でも、ニァック姫がこう言います。

「結婚の許しを得るために、今から私と一緒に竜宮城にいる父に会ってください」

人間であるタォン王子は、海の中で息をすることができません。でも、ニァック姫はこう言うのです。

「海に入って竜宮城に着くまで、私のこの肩掛けにつかまっていてください」

タォン王子が姫の肩掛けにつかまると、ニァック姫は海の中に入っていきました。不思議なことに、タォン王子は海の中でも息をすることができ、無事に竜宮城にたどり着きました。

娘から結婚の許しを請われた竜王はこれを受け入れ、2人を祝福するために持っていた杖を海底に突き刺しました。すると、トロークの島の周りの海水がみるみる引いていき、現在のカンボジアの国土となる「コークトロークの国」が生まれたのだとされています。

これは、カンボジアの建国神話「プレァタオン・ニァンニァック」。現在の結婚式でも新郎が新婦の肩掛けにつかまって歩く儀式が行われている。この神話から、カンボジアの文化が「婿入り婚」であること、竜王が娘に授けた土地に後のカンボジア王国の前進の王朝が発生したことからも、女系文化であるのだと言える。

 

カンボジアの最初の王は女帝

2022年4月16日にシアヌーク州のプレイヌップ郡ベットラムコミューンのコキー村に建立された高さ21メートルの巨大なプレァタオン・ニァンニァックの銅像

1世紀頃になると、「扶南王朝」が発生する。この扶南王朝こそが、前述の建国神話に出てくるニァック姫が統治していたコークトロークの国だ。この王朝を統治していたのがリゥイー女王で、神話のニァック姫であるとされている。この時代はなんと、女性が男性に求婚をしていたという。

そのもととなったとされる一説には、リゥイーはインドから進軍してきたフン・ティェンを打ち負かしたが、海岸で次の戦闘の準備をしていたフン・ティェンの勇敢さに惚れたリゥイーが結婚を申し入れ、それが受け入れられたことにあるとされる。

その後の時代において即位する王は男性であっても、その王位継承者が母方の血筋であるなど、母系社会は続いていたようだ。だが、石碑などの文献によると、中世以降はこの母系の血筋による王位継承は薄れていき、王位は父親から息子へ、息子から男児の孫へ、父系の血筋が受け継ぐようになっていく。

先ほどの求婚の話に戻ると、現在のカンボジアでは求婚は男性がするのが一般的。これはカンボジアの母系社会が崩壊したことを意味しているのであろうか?いや、そうではない。男性が求婚するルールはこんな民話になって描かれている。

これは、コンポンチャム州にある2つの小高い丘にまつわる逸話である。国道6号線を走っていると、高い山と低い山が遠くに見える。この民話を取り上げると、カンボジアの人たちは「女性のほうが賢いのね」とクスクス笑うのだ。社会構造としては男性が中心とはなったものの、心のどこかで女性のほうが優位、といった意識があるのかもしれない。

その人々の深層心理の一つとして、「言葉」がある。たとえば、បងប􀆡 ូនជីដូនមួយ「いとこ」に使われる「ជីដូន」は祖母という意味もあり、すなわち女系を意味する言葉である。またេមផ􀆐ះ「主婦」、េមទ័ព「隊長」、េម្រក􀈩ម「グループリーダー」に使われる「េម」は、本来は動物の「メ
ス」を指すが、人間社会の中では「長」「リーダー」という意味を持たせる。また、結婚式でも男性側を「下」、女性側を「上」と言うなど、カンボジアでは古くから社会の中での女性の地位が確立されていたのではないだろうか。

 

男山・女山

Google Mapsで確認できるコンポンチャム州にある高さ30mの男山(プノンプロス)と、300m 離れたところにある高さ114mの女山(プノンスレイ)

昔々、カンボジアでは女性が王として統治をしていた。女帝が美しい男性に求婚して結婚したことから、女性が男性に求婚をするのが習わしとなっていた。だが、容姿が端麗でない女性が求婚をしても、男性は嫌がって応じてくれない。ある日、女性たちが集まってこの風習をなくして男性が求婚をするようにしようと策を練った。男性たちを誘って土を盛り山を作る競争をしようと持ち掛け、夜が明けて日が昇るまでに山を作り、低い山のほうが今後求婚するという約束をした。

競争が始まると、男性たちはどんどん土を積み上げていく。日が暮れて夜になり、このままでは負けてしまうと思った女性たちは、知恵を絞って空に提灯を掲げることにした。女性たちの山が自分たちの山よりはるかに低かったので、勝利を確信していた男性たちは、提灯の光を見てそろそろ日の出が近いのだと思い、休むことにした。男性たちが寝入った後も女性たちはコツコツと土を積み上げ、そして本当の日の出の時刻がやってきた。

男性たちは、まぶしい朝日の光を浴びて目覚めた。すると、女性たちの山が自分たちの山より高く積み上げられているではないか。こうして競争に負けた男性たちはそれ以来、女性に求婚をするようになったのだという。

 

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