クル・クメールによる伝統治療法を信頼する田舎に暮らしているクメール人が今も少なくないようだ。クル・クメールが工夫して処方した薬草で、ある程度の病を治療することができる。昔も今も軽度の骨折や肌の病気の治療は、皆クル・クメールのところに足を運ぶ。昔ながらのクメール伝統治療法で田舎の住民の病気を診ているプレイヴェイン州に暮らしている2人のクル・クメールをご紹介したい。
骨折や捻挫など治療をするクル・クメール
トム・ヴォンさん(62)は、30年以上、田舎で傷や骨折の治療をしてきたクル・クメールである。ヴォンさんは村の内外で多くの人々の病を癒し、皆に信頼されている。この伝統医学を学んだ理由について、次のように教えてくれた。「私が青年の頃、なぜ私たちの骨は折れても治せるのか、ということに疑問を抱き、強い興味を持ちました。それから村の伝統治療師のもとで、その治療方法を学びました」。身に着けた知識と技術を生かしてクル・クメールになって以来、ヴォンさんは高齢にもかかわらず、村人のために今も治療を続けている。
ヴォンさんはプレイヴェイン州ボス・コミューンのダムレイプォン村に自宅があり、昔も今もクメールの薬草師として多くの村人に知られている。ヴォンさんが一部の治療法を共有してくれた。
- 捻挫の治療法について
たいてい、唾を吐き出して治療する方法をとっている。ヴォンさんの自宅の周りには薬用の植物を栽培しているため、それぞれの病に合う植物の葉を採取し、葉をよく噛んだり、砕いたりして、肌の傷や腫れのところに吐き出していく。治療期間は決まっていないが、症状にもより、通常は1週間から半月程度掛かるという。
- 骨折の治療法について
伝統的なクメール薬の処方と唾を吐き出して治療する方法を併用する。主に骨折の治療に適用した薬の原材料としては、夜に餌を狩る動物の骨を採取する。そういった動物の骨を炙って、ココナツオイルと混ぜておく。このオイルを骨折した部分に塗ることにより、軽度の骨折が治るという。
- 骨折の治療手順:
先ずは、骨折した骨を調整する
次に、骨折した部分に口で噛んだ薬用の植物を吐き出して包帯をし、1週間置いておく。
1週間後、上記の動物の骨のオイルを骨折した部分に塗り、治癒するまで塗っておく(通常は1~2か月掛かるという)。
手術による骨折の現代の治療と比較して伝統治療の方が時間が掛かるが、傷跡が残らず、安価で治療できるところが魅力的だと言う。治療の価格については、あまり決まっておらず、やって来る患者の自宅の距離や生活状況を考えたうえで判断する。通常は骨折の治療費は約300ドルだという。
塗り薬を作るために使われる動物の骨はヴォンさんが他の業者から購入しており、それだけに費用が掛かってしまう。また、伝統治療法を利用すると、今の医学で使用されている麻酔薬などは利用しないため、痛みを我慢する必要がある。
古代からの治療法を採用してきたヴォンさんは、現代の科学的な進歩による医療を望む人々が多くいると認識している。だが、洗練された設備の病院へ行くと医療費が高額になるため、骨折の治療ができない村人が自分のところによくやってくるという。とはいえ、骨折の状態が重くなり、麻酔薬や手術を要する時はちゃんとした現代医学の設備が整った病院での治療を勧めたりもするそうだ。
唾を吐いて肌の病気を治療するクル・クメール
モン・ケアさん(54)は、プレイヴェイン州のスバイアントール地区トゥクトラコミューンのプレイ・プダオ村に住むクル・クメールである。 ケアさんは、肌の「毒」と呼ばれる人体の肌に悪質な湿疹を引き起こす肌の病気の治療を専門としている。
毒のある湿疹を治療するには、湿疹の種類により異なるが、たいていは3日から7日、長ければ21日という期間を要するという。そして、治療中はお肉の絶食が必要で、治療したことがある経験者にきちんと診てもらうことが大切だと言う。「毒のある湿疹の病気にかかったら、放っておいてはいけません。ひどい毒のある湿疹が発症し、きちんとした治療を受けずに命の危険にまで至った患者もいました。ですから、肌の病気だと言って、無視してはいけません」。
ケアさんは、自分の祖先の時代から現在に至るまで、約3、4世代受け継がれてきたこの伝統治療法を父親から学んだという。唾を吹き出すこの治療法は、タバコの葉と、ビンロウの実と葉をよく噛み、お経を唱えながら毒のある湿疹のところに唾を吐きかけるというものだ。この伝統治療を引き継いだ後継者は、治癒効果をもたらすためには、「生き物を殺さない、人の物を自分のものにしない、不倫など道徳に外れた関係を持たない、嘘をつかない、酒を飲まない」という5つの戒めを実践しないといけない。ケアさんはまた、このクメール伝統治療に加えてタイや中国産の治癒補助薬も利用していると言う。
安全な伝統医学を促進するために、現在保健省がクル・クメールのために伝統医学関連の研修コースを開催している。このような取り組みを耳にしたケアさんは、将来、自分の息子にこの伝統医学の知識を伝え、保健省の研修コースで得た医学の専門知識を活用して村人のための治療を引き継いでほしいと思っている。
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