(日本語) NyoNyum109号特集:カンボジアの社会保障制度 ②企業側はどんな風にNSSFを見ているの?
(日本語) NyoNyum109号特集:カンボジアの社会保障制度 ②企業側はどんな風にNSSFを見ているの?
2020.11.30

最新号NyoNyum109号の特集は、「カンボジアの社会保障制度」と題して、国家社会保障基金(NSSF)について紹介しました。

誌面版に続き、WEB版でもその詳細をお伝えします。

第1弾の記事はこちら

第2弾はカンボジアの企業はどんな風にNSSFを見ているのかを紹介します。

 

カンボジアの社会保障制度 ~国家社会保障基金(NSSF)について~

国家社会保障基金(NSSF)をご存じですか? NSSFは、主にフォーマルセクター(民間企業)に勤めている従業員や公務員を対象とした健康保険と労働災害保険を司る機関です。

今後、年金支給制度を展開する予定で、国の社会保障制度を執行する重要な機関であり、国民からも注目が集まっています。

これまでに約117万人の従業員と公務員がこのNSSFの制度に登録しています。

これにより、会社員や工員などの民間企業に勤めている従業員、政府機関に勤めている公務員が、妊娠・出産やけがの際にNSSFの健康保険と労働災害保険のサービスを受けることができます。

みんなが注目しているこの社会保障制度。どういうメリットがあるのでしょうか。

政府の今までの取り組みと、民間企業などがこの社会保障制度にどう理解を示し、利用しているのかご紹介します。

 

企業側はどんな風にNSSFを見ているの?

カンボジア労働法の下に置かれるすべての労働者を対象としたNSSF。この加入は企業・組織の義務として定められている。労働省から指導を受けて加入手続きをしている会社も多いようだ。

プノンペンで労働者派遣を行っているIISの担当、セーク・モムさんに、NSSF運用の実態を聞いてみました。

 

Q:IISはどんな会社で、いつから社員をNSSFに会員登録をしましたか? そして、この制度を会社としてどう思いますか?

IISはカンボジアの人材会社で、日本やタイ、マレーシアなど海外にカンボジアの労働者を派遣するため、2008年に設立しました。

政府が民間企業にNSSF制度を適用させた年から、弊社でも社員のNSSF登録を行いました。当時は約20人の社員を登録しました。

NSSFの保険料は会社負担ですが、その額は会社にとってそんなに大きな負担だと思わないですし、制度の内容を見ると社員にとって大切だと思えるものばかりです。

会社としても最初からこの制度に賛同して加入しました。

 

Q:登録した社員からこの制度の運用やサービスなどについて何かクレームはありますか?

特に大きな問題はないですが、これまでに聞いていた話では、一般の患者と比べてNSSFカードで入院した場合、病院側があまりきちんと対応してくれないということがあったようです。

ただそれはNSSF運用当初の話で、最近はNSSFの制度改善の目的でSNSなどを使って利用者の声を公開で聞く取り組みも行われ、NSSF利用者に対する病院での差別がだいぶなくなったと聞いています。

IIS社員の中で、妊娠・出産した人がいました。彼女に聞くと、NSSFを利用していろいろな手当と出産前後の医療サービスを受けられたそうですよ。

 

Q:このNSSF制度が企業にとって良いのはどんなところですか?

まず、このNSSF制度ができて本当に良かったと思います。制度ができる前は、企業として社員の健康問題までカバーしなければならない、ということがありましたから。

でも、この制度で社員が健康保険と労働災害保険の対象となる治療サービスを受けられるようになり、社員が安心して病院へ行けるようになりました。

これは会社としても望ましいことです。会社の近所にもNSSFと提携する民間クリニックがあるので、社員も気軽に病院にかかることができるようになりました。

ちなみに、社員にとっては病気の際は民間クリニックよりも国立・公立の病院に行くのが好ましいようです。

現在では、NSSFと提携する民間クリニックも増えてきているようですが、やはり国立・公立の病院に信頼を持つ人がまだ多くいるみたいですね。

 

Q:企業の目から見て、NSSF制度の欠けている点や、この制度に求めることはありますか?

まだまだNSSFカード利用者を受け付けていない病院があるので、どんどん提携病院を増やしてほしいと思っています。

NSSFは社員の健康のみならず会社にとって大事な制度なので、将来誰からも信用される制度となってほしいと思います。

また、社員のためにさらなる制度の充実を頑張ってもらいたいです。

 

 

NSSFをさらに知っておこう!

カンボジアでは2000年代以降、経済が急成長し、貧困率は2004年の53%から2014年に13.5%まで急激に低下しています。その結果、2016年にカンボジアは世界銀行の分類で低所得国から低中所得国に格上げされました。

一方で、貧困削減はまだ残る大きな課題です。カンボジア政府は貧困率のさらなる削減と、自国を上位の中所得国とするために国家政策を推進することとし、2030年の実現を目標に「国家社会保護政策フレームワーク2016-2025」を採択しました。ここではもう少し詳しく、この制度について見ていきます。

「国家社会保護政策フレームワーク2016-2025」をもとに、カンボジア政府は2017年に社会保護政策の導入を開始した。これには社会支援制度と社会保障制度という2つの柱がある。

社会支援制度(扶助制度)は、特定の貧困層や社会的弱者を対象に、経済的な支援をはじめ職業訓練を行う。また証明カードなどを提供し、そのカードを通じて無料の医療アクセスを可能としている。

この社会支援制度には、人材育成、緊急時の対応、高齢者と障がい者の福祉、社会的健康保護(平等基金)、職業訓練などのプログラムがある。その一つ一つを簡単に紹介します。

 

人材育成

政府は妊娠中の女性、特に子どもたちを支援するプログラムを実施するために、地方の学校で栄養食と奨学金の提供を行っている。約30万人の地方の子どもたちが、国連世界食糧計画から栄養のバランスが整った朝食を受けている。また、教育青少年スポーツ省が国連世界食糧計画と共同で実施する奨学金制度が、約10万人の地方の学生を対象に行われている。

 

緊急時の対応

2018年に物価が高騰したことを受け、政府は緊急事態として約50万人の社会的弱者層を対象に緊急食糧支援を実施。そして現在はこの制度を利用して、新型コロナの影響で貧窮している約52万世帯を対象に、1世帯12万リエル(約30$)の助成金の支給を行っている。

高齢者と障がい者の社会福祉:貧困者と障がい者、そして高齢者に該当する約30万人にそれぞれ$5/月と、孤児と脆弱な立場にある約1万1,000人を対象に$1.25/日の資金援助、そして公立の病院と保健センターで健康サービスを提供している。

 

社会的健康保護(平等基金)

保健省が特定した貧困世帯証明カードを持つ人々を対象に医療サービスを提供する。約300万人の貧困者が公的な病院や保健センターで、無料で保健サービスを受けている。

 

職業訓練

労働・職業訓練省が実施する若者への支援プログラムで、貧困が原因で学校を中退した若者を対象に職業技能・技術の訓練を行う。政府はこの制度で1人年間約100ドルの奨学金を提供している。

一方、社会保障制度(社会保険)としては、フォーマルセクターとインフォーマルセクターで勤めているすべての従業員や障がい者、政府機関に勤める公務員を対象に、2008年から段階的に健康保険と労働災害保険を実施している。将来は年金制度を提供する予定だ。実施機関はNSSFで、カンボジアの労働者に基本的な所得保障を提供する公共行政機関になる。

技術的支援機関として労働・職業訓練省が、そして財政的支援機関としては経済財務省が関わっている。NSSFの理事会は、政府代表と雇用主(企業側)代表、労働者代表の3者で構成されている。NSSFの保険制度は以下の3本柱からなる。

 

1.年金制度
<民間セクター>
制度構築中。近い将来運用される予定。

<公共セクター>
公務員は基本賃金の約60%から80%の年金を受ける。

 

2.健康保険
<民間セクター>
民間企業は従業員をNSSFに登録させる義務があり、従業員に支給する賃金等の総額の2.6%に当たる険料を保険料として毎月支払う。

<公共セクター>
公務員の加盟が2018年に政府により決定された。

 

3.労働災害保険
<民間セクター>
社会保障制度の中でいち早く、2002年から実施されている。企業が従業員に支給する賃金等の総額の0.8%を保険料として毎月支払う。仕事中に事故に遭って働く能力を失った従業員の場合、治療にかかった費用全般とその他の手当給付が受けられる。

<公共セクター>
公務員の加盟が2018年に政府により決定された。

 

その他のサービス

出産

<民間セクター>
1人の子どもを出産した場合、40万リエル(約100$)の手当を支給
2人の子どもを出産した場合、80万リエル(約200$)の手当を支給
3人の子どもを出産した場合、120万リエル(約300$)の手当を支給

<公共セクター>
1人の子どもを出産した場合、80万リエル(約200$)の手当を支給

 

死亡事故 :仕事中に死亡した場合

<民間セクター>
NSSFに登録して180カ月の保険料を支払っている場合、遺族に年金を支給

<公共セクター>
遺族に対し、6カ月分の保証金と年金に加えて、150万リエル(約375$)から400万リエル(約1,000$)の葬儀費用を支給

 

その他の補助金について

<民間セクター>
病気または育児休暇の際に、基本給の70%の日給に当たる補助金を支給

<公共セクター>
病気または育児休暇の際に、給与全額と3カ月連続の補助金などを支給

 

今後の制度拡充に期待しよう!

カンボジア政府は現在、国家の社会保護政策の大黒柱である社会支援制度(扶助制度)と社会保障制度(社会保険)を通じて社会保障サービスをさまざまな角度から拡大しているが、課題もいろいろ抱えているという。

社会支援制度の課題は、「社会的弱者」「貧困者」の明確な特定の問題や、補助金支給が不十分であるという問題、奨学金プログラムの実施効果の問題、途中で退学した若者が低学歴で職業訓練プログラムについていけない問題などが生じている。

社会保険については、定年退職した公務員の年金は政府予算に依存しているため、それが将来的に国家の財政問題を引き起こす可能性もある。

さらに、この社会保障体制を持続的に運用するためには、民間企業の雇用主や従業員、政府、さらに自営業者などの参加が必要だが、自営業者からの参加がまだまだ見られないという。これらの課題をひとつひとつ解決しながら、よりよい社会制度の構築が期待される。

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