現在カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum113号の特集では「カンボジアのデジタル教育」について紹介しましたがそのWeb版も公開します。
カンボジアのデジタル教育徹底研究!~教育格差の溝を埋めるカギとなるか~
カンボジアのデジタル教育は、教育・青年・スポーツ省が定めた2019年から2023年における教育戦略計画と2030年に向けての教育方針の柱のひとつとなっています。
同省スポークスマンのロス・ソヴィチャーさんは、「デジタル教育により、教育の質、公平性、環境が改善できるでしょう。また生涯学習の機会を全国民に提供できることにもつながる」と説明しています。
カンボジアにおいて、幼稚園から高等教育までの教育機関の数は1万5,000以上あり、そこで学ぶカンボジア国民の数は約350万人だといいます。
そんな中、新型コロナウイルス感染症拡大により、カンボジアの教育現場ではオンライン、通信教育の必要性が一気に高まりました。
ハンチュオン・ナロン教育・青年・スポーツ省大臣は去年5月、「300万人を超える学生のうち、約30%がオンラインで、他の約30%が我が省が配信するテレビ授業で勉強している」と発表しました。
一方で、対面での勉強ができているのは約10%で、残り約30%の子どもたちは通学やデジタル教育の環境が整っていないため十分な教育を受けられていないと補足しています。
感染症拡大が収まる様子が見られない中、デジタル教育を推進する上で、教育・青年・スポーツ省を中心としながらも、他の公的機関や民間企業などへの協力も呼びかけています。
現在、どのような機関がどんな取り組みをしているのでしょうか。
教育・青年・スポーツ省のデジタル教育推進の取り組み
2020年3月にカンボジア国内初の新型コロナ感染者の死亡が確認され、カンボジア政府が同年3月16日に全校の閉鎖を決定した。
それをきっかけに教育・青年・スポーツ省は教育のデジタル化に大きく舵を切ることになりました。同省は早速「Krou Cambodia」というFacebookページを立ち上げ、オンライン授業を開始。
現在このKrou Cambodiaのフォロワー数は92万人以上おり、授業の生放送や同省からの最新情報などを発信する重要な手段となっています。
コロナによる学校閉鎖という状況の中、正確な情報を得るためにこのSNSによる情報配信が注目されるようになり、閲覧者数も上昇しているそう。Krou Cambodiaは未曾有の事態に応じての同省初の緊急対応策でした。
配信したすべての授業動画は教育・青年・スポーツ省が運営するYouTubeチャンネルでも共有され、コロナ禍での学習ツールのみならず生涯学習にも使えるデジタル教育プロジェクトの一環ともなっています。
授業をライブ配信するFacebookページには、過去の授業を閲覧できるYouTubeチャンネルの情報や、各科目の放送スケジュール、宿題のダウンロード用リンクなどの情報が盛り込まれている。
教育・青年・スポーツ省が作成した授業動画には同省のロゴが付いているため、学生はそのロゴを確認して安心してその授業動画で自習ができる。
教育・青年・スポーツ省と公共機関の協力
カンボジアの小・中・高等学校のほとんどが公立校でその数は約13,300箇所あるという。
教育・青年・スポーツ省によると、2018-2019年度の公立学校在学者数320万人に対して、約21万人が1,222の私立学校に在籍していたという結果が。
私立学校のほとんどの学生が都市部で生活していて、農村部に住む私立学校在籍者数は約3.5万人でした。
都市部、農村部での教育へのアクセス格差をなくし、全国の学生が学校閉鎖時期でも教育を受けられるように、教育・青年・スポーツ省はすぐさま公共機関に協力を呼びかけました。
情報省によるテレビ授業
全国規模で授業配信を実施するため、2020年4月20日より情報省の協力のもとで、教育・青年・スポーツ省は初めてテレビ放送による授業を配信した。
視聴率が高い国営放送局であるTVK2を中心に他の民間テレビ放送局も協力し、毎日朝8時からスケジュールに従って各科目の新しい授業が放送されるほか、過去に配信された授業の再放送など、24時間のテレビ放送を行っている。
●授業配信を担う国営局TVK2
カンボジア唯一の国営テレビ局であり、視聴率も高い。このテレビ授業は、インターネット環境が整っておらず、スマートフォンなどを購入する経済的な余裕がない田舎に住んでいる学生にとっては最適な対応策の一つとして考えられた。
現在でも、いくつかの民間の放送局が授業配信を行っている。
その内容は、小・中・高校レベルの学生を対象としたプログラムで、教育・青年・スポーツ省が作成した授業やクイズ・問題集の動画が日々配信されている。
このテレビ授業の効果はまずまずだという。だが、地域によっては通信電波が弱いという問題があり、授業配信中に電波が切れることもあるそう。
また、親も子どもと一緒にそばで見ていないと、授業についていけなくなるといった問題もある。
●民間放送局も協力
カンボジアでは国民の娯楽としてテレビが全国的に普及しており、国営のみならず民間のテレビ放送局が多くある。
その中で、地方各地まで放送範囲が最も広いのはTecho TVという衛星テレビ放送局。
この放送局でも、教育・青年・スポーツ省が録画した授業や問題集、子ども向けの教育番組の配信が行われている。
郵政通信省による学習アプリ
教育・青年・スポーツ省が呼びかけた協力要請に応じて、郵政通信省の研究機関であるNIPITCTとSabay Digitalというメディア会社は「カーオプロムピーチョムガイ」という携帯用の学習アプリを開発した。
これは2020年7月から開始され、教育・青年・スポーツ省が指定した各科目の教科書を基に、小学校と中学校向けの各種授業を録画してアプリで配信するものである。アプリは無料でダウンロードでき、登録も簡単。
教育・青年・スポーツ省の協力のもとで開発されたたアプリは、学校教育の補助プログラムとして推薦されている。
教育・青年・スポーツ省と民間企業の協力
カンボジアには新型コロナの感染が拡大する前から、教育のデジタル化を推進する民間企業が存在していました。
これらの会社はアプリ開発などを行っていますが、まだまだ学習コンテンツが不十分なのが現状です。
しかしコロナによる学校閉鎖をきっかけに、さまざまな動きが起きています。
全国の学校教育を管轄する教育・青年・スポーツ省と協力して、デジタル教育化を積極的にサポートする民間企業や団体の取り組みを紹介します。
eラーニング用教育アプリ開発
今年5月6日、E-School Cambodiaという教育デジタル推進会社とフン・セン首相の三男が会長を務めるカンボジア青年連盟(UYFC)が「スヴァイソクサー(クメール語で「自習」の意)」という新たな教育アプリを開発した。
新型コロナ収束の見通しがつかない現況を見据えて、デジタル教育の必要性を徹底的に研究・検討してできたものだという。
E-School Cambodiaが技術面をサポートし、UYFCと教育・青年・スポーツ省がコンテンツを開発した。
全国の学生が使いやすいように、機能、デザイン、学習コンテンツのすべてをカンボジア人だけで開発したという。
公開されてからたった1ヶ月でアプリのインストール者数が約20万人となるなど、国民からも注目される最新の教育アプリとなった。
教育・青年・スポーツ省からの全面的なサポートに加え民間企業の最新の技術を活用し、長年の教育指導経験を持つ教師によってわかりやすく、学生が興味を持てるさまざまな授業が配信されている。
学生はお気に入りのコンテンツの保存、15秒ごとのビデオチュートリアル録画、テスト結果の保存や更新などが可能。
学生の使い勝手を重視し、便利で役立つさまざまな機能を有するこのアプリで、いつでもどこでも自習することができる。
携帯大手「Smart」によるオンライン授業支援
2020年9月3日の現地報道によると、大手携帯会社「Smart」が自社の配信技術を共有するという形で、教育・青年・スポーツ省に約100万ドル相当の支援を行ったという。
教育・青年・スポーツ省が作成したすべての授業の動画が短時間でダウンロードできるのと、配信時に学生がスムーズに受信できるように技術をサポートするというのが主な内容だ。
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