NyoNyum118号特集:③Japan Animal Hospital ~ペットを愛する心の種を育てたい~
NyoNyum118号特集:③Japan Animal Hospital ~ペットを愛する心の種を育てたい~
2022.05.28

現在カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum118号の特集では、「カンボジア最新ペット事情」について紹介しましたが、Web版も公開します。

 

「カンボジア最新ペット事情

コロナ禍で生活や行動に制限がある中でも、プノンペンの街ではペットを連れた飼い主が公園などの公共の場を歩いたり、バイクや車に乗っているのを見かけます。

夜間外出禁止、集会や飲食店営業時間の制限、そしてロックダウンといった数々の措置が取られてきたが、プノンペンのペットをめぐる環境にはどのような影響があったのでしょう?

元来、クメール社会には古くからペットを飼育する文化があります。じゃれて遊ぶということだけでなく、猫や犬は家を守るという考えも。犬が番犬として重宝されるのはもちろん、猫はネズミから食糧を守ってくれるのです。

経済が発展し、人々の生活が多様化する中、ペットに対する意識も変わりつつあります。血統書付きの犬や猫を外国から取り寄せたり、ペットを「家族」として迎え入れ、大切に育てる人も出てきているよう。これに合わせて、動物の保護や動物にまつわるサービスも多様化の傾向がみられます。

今回の特集では、昔ながらのお寺での野良犬、野良猫の世話はもとより、動物病院、トリマー、ペット・ペットグッズショップ、動物愛護といった団体まで、さまざまな角度から「ペット」を徹底研究してみました!

 

Japan Animal Hospital~ペットを愛する心の種を育てたい~

愛するペットが病気になったとき不安になりますよね。そんな時にしっかりと病気を診て、相談に乗ってくれ、治療をしてくれる動物病院は飼い主にとって神様のような存在。日系の動物病院がプノンペンにオープンし、多くの人がペットを連れてワクチン接種や病気治療に訪れています。どんな思いをもって運営されているのか、日本人の千村友輝先生(37)、カンボジア人のクイ・ダニー先生(32) にお話を伺いました。

 

開業の経緯や苦労について教えてください。

2019年5月に開業しました。最初は機械も揃っておらず、聴診器と診察台、赤ちゃん用の体重計から始めました。創業者の喜久田が、JETROなどの協力を得てカンボジアの農林水産省からの承認を受けて、開業に至りました。カンボジアで動物病院をやるのは難しい面があります。日本では、動物病院を開業すると言ったら薬剤や医療機器、制服などいろいろな業者が営業に来ますし、どこに連絡したら調達できるかがすぐにわかります。カンボジアではどこにどういう業者があるのかもわからず、薬屋さんが並ぶ道を歩きながら、これがある、あれがあると探しながら集めたような状況です。

 

千村先生がこの病院に関わったきっかけは?

私は高校生の頃から海外で自分の専門を生かして仕事がしたいという思いがありました。大学で獣医の勉強をして、卒業後すぐに青年海外協力隊でエルサルバドルに行ったんですが、その時は獣医としてではなく青少年活動という職種でした。国際協力での獣医は、家畜の治療や伝染病予防といった活動が多く、私は小動物臨床で海外に出たいという思いがあったので、別の職種となったんです。

エルサルバドルにいた2年間であるJICAの専門家と知り合い、専門技術で国際貢献をすることのヒントを得て帰ってきました。それから獣医として下積みをし、臨床に7年くらい携わりながら、その間もアジアを中心に市場調査をしていました。開業するにもライセンスの問題や現地の人とやっていけるのかという不安もあり悩んでいたときに喜久田先生と出会いました。先生は日本で動物病院を経営されているので現地に張り付くことはできない、自分は現場で働きたい、その2人の思いが合致したんです。

 

エルサルバドルで出会ったJICA 専門家から、どんなヒントを得たのですか?

エルサルバドルは治安の悪い国です。40年ほど前に内戦があり、国が破壊され、国民が死に、自分が赴任した20年ほど前は同じ年齢の人がみな戦争経験者、五体不満足、家族の誰かが戦争で亡くなっている、街にはギャングがいるという、内戦の爪痕がはっきりと見える国でした。そんな国の中でも最も貧国地域に牡蠣の養殖プロジェクトを行うJICA専門家がいました。海辺の家に研究所を作り、海水を引いて養殖過程がすべてわかるように水槽で牡蠣を育て、育った牡蠣を養殖場に持って行き、養殖された牡蠣を地域のレストランに卸すという、養殖から販売までの過程を現地の人に教えるプロジェクトをされていました。

そこで感動したのは、最貧層と言われる現地の人が、技術と知識を習得し、市場で売れるものを作る喜びを体感し、自分に自信をつけて自立していく様子でした。自分には何ができるか、と考えました。自分は獣医師であり、小動物の診療をやりたいという思いを持っている。それをどこかの国でやればいいのだと。それが今の形です。ようやく夢のスタートラインに立てたと思っています。

 

カンボジア人スタッフの働きぶりは?

私の一番の自慢はスタッフです。着実に成長してくれています。現在9人のカンボジア人スタッフがいますが、獣医療人材育成の環境が整っていないカンボジアで、この病院は彼らが動物医療を学べる場なのではないかと思います。正しい技術と知識で飼い主さんに接し、説明をすることで信頼関係が生まれればコロナ禍でも通ってきてくださる。そうすれば病院としても発展し、持続するのだということを感じてくれていると思います。

 

9人はどのような人たちですか?

獣医学部の卒業生や、大学に通って獣医師の卒業資格をとりながら通っている在学生もいます。カンボジアには獣医師の国家試験がまだないので、免許自体がありません。簡単に言えば今日から獣医師になりますと言えばなれてしまいます。ペットブームでお金になりそうだから、ちょっと器用だからやってみようみたいな人が出てくるのが心配です。

 

カンボジア人獣医師はどのような治療をするのですか?

普段の外来の診察や検査、能力に応じて麻酔や手術もしています。もちろん入職してすぐにやらせたのではなく、私がやって見せて少しずつやらせて自信をつけさせました。今や自信をもって治療を任せることができるようになりました。一方で、さらなる技術と知識向上のために日々研修もやっていますし、みんな真剣に取り組んでくれています。

 

ペットブームが起きていると思いますか?

思います。もともと半野犬で残飯処理のような飼い方をしていた人たちが、家の中で一緒に生活し、シャンプーをしてあげ、栄養価のあるご飯を食べさせ、長生きしてほしいと検診や診療に来てくれる。以前、手遅れの状態で連れ込まれたペットが結果的に助けられなかったことがあったんですが、飼い主さんがわんわん泣く姿を見て、家族として本当に大切にしているのだと実感しました。

家族としてペットを大事にしている。僕らが対応したいのはそういう人たちなんです。そういう飼い主さんの期待に応えることが獣医療に携わる醍醐味であり、それに応え続けていけばいい病院になると思います。ペットは人を幸せにする力を持っています。ペットや弱いものを慈しむ心をみんなが持てば戦争なんか起きない。それをスタッフが学び、感じ、成長してほしいです。

 

お客様はどこの国の人が多いですか? 多い病気は?

カンボジア人が6割、日本人2割、その他国籍が2割です。カンボジア人の飼い主さんが多くなってきていることがうれしいです。最も多いのが、ウイルス性の病気です。パルボウイルス、ジステンパーウイルス、ダニ熱のような日本では予防ワクチンや薬がきちんと投与されていればかからない病気です。カンボジアでは予防の意識が薄い、わからないのだと思います。そういう飼い主さんに、きちんと正しい知識と情報を伝えていきたいです。

今後の展望は?

大きな目標は、日本とカンボジアの動物医療の懸け橋になりたいです。日本から来てこんなに貢献できるのだということを自分が感じているので、日本の技術や知識を持っている獣医師、看護師、トリマーがカンボジアで知識を伝える場を提供したり、日本で学びたいカンボジア人にチャンスを提供するなど、アカデミックな点でもお互いの獣医療の発展に貢献できるような活動です。

小さな目標は、この病院で育つ獣医がカンボジアの獣医療を正しく導くような存在になっていくお手伝いをすることです。また、狂犬病をなくすプロジェクトもできると思います。日本では戦前に狂犬病撲滅のキャンペーンがあり死亡率がほぼゼロになりました。第二次世界大戦でプロジェクトが中断し、狂犬病率が一気に上がり、戦後に狂犬病予防法ができて知識の普及、ワクチン接種を義務付け、今では狂犬病はありません。このサクセスストーリーをカンボジアの行政や市民に伝え、展開できるんじゃないかと思っています。

 

J A H で働くカンボジア人獣医 ダニーさん

王立農業大学獣医学部を卒業したダニーさん(32)は、JapanAnimal Hospital(JAH)勤続2年の獣医。プレオープン時に日本の先生方が動物医療や病院の設備に関してプレゼンしているのを聞いて興味を持ったという。そこから約1年後に入職し、日本人獣医や看護師とともに働き、飼い主さんたちと触れ合う中でさまざまな刺激を受けている。

「小さい頃は獣医になるなんて思ってもいませんでした。高校を卒業し、兄弟の勧めで農業大学で獣医学を専攻したんです。同期のみんなは民間のペットフード会社やクリニックで働く人もいれば、自分でクリニックを開業したり家畜飼料販売をしたり、農園で家畜飼育をしている人もいます。私は獣医学を学んでいるうちに、うっすらと獣医になりたいという思いが芽生えてきました」

JAH では同僚と一緒に日々治療に追われている。「体力的に疲れることはありますが、とても楽しいです。特に千村先生からさまざまな技術や知識を学べるチャンスがたくさんあります。先生の技術を学び、それを自分の臨床につなげる日々です。それに、専門技術だけでなく、チームワーク、ほうれんそうといったソフトスキルを学べるのも、仕事が充実している要素です」

カンボジア人のペットに対する意識は確かに変わってきていると思うという。「田舎では動物というと牛、水牛が周りにいて、犬は番犬として飼う程度でしたが、最近は小動物を家族のように飼う人が多くなっています。ペットが病気になったら家族のように心配して連れてきます。

私たちも、世話の仕方、予防の仕方を説明します。狂犬病も以前は知識が浸透していませんでしたが、正しい知識を伝えて理解してくれています。エサも人間と同じものでなく、動物用のエサをあげるよう
に指導しています」

 

Japan Animal Hospital 店舗情報
住所:#M43, Preah Trasak Paem St. (63), Phnom Penh
TEL:010-303-088
Facebook:@japananimal
時間:9:00AM-12:00PM, 1:30PM-6:00PM (月曜休診)
料金;診察、手術、予防、ペットホテル、渡航手続きなど

 

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