チリア・ナイシムさん(26)は、2013年から2018年までプノンペン王立大学の外国語学部(IFL)の日本語教育学科を専攻する学生だった。大学在学中の2016年には、日本語学科の学生の中で成績が最も優れた学生として、交換留学プログラムのための奨学金を獲得し、日本ウェルネススポーツ大学で1年間交換留学を通して、日本の大学での学習や生活を体験した。受かったこの奨学金は授業料のみに適用されたため、生活費などは実費で頑張っていたという。2018年にプノンペン王立大学の日本語学科の学士号を取得して卒業した後は、自動車部品の製造販売会社である株式会社マルエムという会社に就職し、日本で働くことになった。同社はプノンペンとマレーシアにも支店があり、ナイシムさんは現在販売コーディネーターとして活躍している。
日本で働く理由
「この会社で働こうと思ったのは、大学4年生の頃に通訳のアルバイトをしていたのがきっかけでした。経営者が私の才能や周囲との良好なコミュニケーション能力を見て、私に日本で働くことを勧めてくれました。でも、当時は日本語学科を専攻していたため、畑違いの事はしたくないという思いがあり、2回も断りました。しばらくして、日本働く仕事の説明会を改めて聞き、次第に日本で働くことに興味を持つようになり、卒業直後に日本で働くことに決めたのです。」
日本での勤務の現状
「働き始めた当初は、営業に関する知識が不足していることと、会社の製品名・部品名についてもわからないうえに、日本語の能力も限られていることなど、いくつかの困難がありました。最初は仕事に追い付かず、ゼロからいろいろ勉強しなければなりませんでした。当時、最初に任せられた仕事は、ミッションのスケジュールの調整や海外勤務、製品のプロモーションやゲストとの面談などのためにさまざまな国に行くこと(上司の通訳として)でした。私は人とのコミュニケーションや案内、海外旅行がとても好きなので、このような業務がずっと好きでした。今まで私が主に関わってきた仕事は、上司のアシスタントと営業コーディネーターでした。仕事をする上で大変だったと思うのは、社内で扱っている自動車の部品名を覚えることと技術的なことを説明することです。そのため、今でもお客様から車の部品に関する技術的な質問で回答できない問い合わせがあったときは、一緒に働いている日本人の先輩社員に代わって対応して頂いたりしています。最初の1,2年目まではいくら頑張って研究しても、学ぶ新しいことが多くあり、とても大変でした。でも、諦めず日々少しずつ勉強して、今まで何とか頑張って来れています。」
日本での生活現状
「交換留学生として来日した時は、他のカンボジア人留学生3人と共同生活していたため、勉強や生活、食事などに何の苦労もありませんでした。時々退屈することもありましたが、特に問題があるときは、友達とおしゃべりしたりしてストレスを解消していました。ですが、約5年前に日本に戻って就職したときは、一人暮らしをして、多くの責任を負わなければなりませんでした。そして、当時も今も職場では外国は私だけですし、話し相手がおらず、休日に一人で家にいると寂しさを感じる時がありました。でも、職場では働く雰囲気がよくて、上司も同僚も良い人ばかりです。」
日本の好きなところ
「まずは治安が良いことです。誰もが知っているように、日本は治安と秩序が非常に良い国です。私が住んでいるところや職場周辺など、どこに行っても、夜一人でも心配なく出られます。次は、公共交通機関が便利であることです。行先を問わず、どこまでも電車やバスの公共交通機関が利用でき、短時間かつリーズナブルな料金で移動できます。特に定時の出発時間があり、安全性が高いのもとても魅力的です。それからは清潔感です。すべての町や公共の場所は清潔感があるうえによく整頓されています。特に会社と住まい周辺の公衆トイレがとても清潔です。食べ物に関しては、美味しくて健康的で、消費者向けの商品も豊富です。さらに、日本人は正直です。見てきた限りでは日本人は他人のものを触らないという性質があり、そのためか、紛失や盗難の心配もなく、快適に移動できるし、生活も安心できます。また、仕事に真摯に取り組んでいる日本人の姿はとても理想的です!」
不思議だと思うこと
「日本に関して気に入らないことを言うと、日本人は率直に物事を言わない性質があり、困ることがあります。つまり、遠回りして話をする。例えば、ある出来事についてそれが正しいか正しくないかと聞いているのに、たいてい、日本人は率直な回答をせず、自分が認識した理由ばかりを述べています。そのため、日本人の考えを理解するのは非常に難しいです。職場に関しては、既存の仕事のルールを厳守し、新しいやり方を挑戦しようという精神が欠けているなと思います。時々、同じ結果を得るにはどの方法でも良いと思う反面、日本人がたいてい定まった既存のやり方ばかりこだわり、訳が分からないと思うことがありました。しかし、長く一緒に仕事をやって行くうえで分かってきったのは、日本人は長く経験してきたことを踏まえてルールを定め、そのようなやり方でやると効率性が高いという考え方があるということです。だから、会社が定めたルールに従ってやると、間違いもあまり犯さないという理屈ですね!」
今後の計画
「将来、私は日本でずっと働くつもりはありません。現在は、自動車部品販売会社で働いているので、自動車部品の売買に関する経験と知識を積みたいと考えています。将来は、経験したことを国で活かし、自動車部品関連商品を日本から輸入してカンボジアで販売したいと考えています。」
クメール人の若者に一言を
「日本語学習者である後輩の皆さんが日本で働きたいのであれば、優れた専門性や能力を磨いておく必要はないかと思います。上述した通り、私が大学でビジネスの専攻をしていませんでした。でも、なぜ日本の会社が私を選んでくれたのか? それは仕事に対する真摯な態度が問われているのだと思います。仕事に真面目に取り組んで行けば、新しい知識や専門をいろいろ学ぶことができると思います。」
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