ある日、美容室で頭の先から足の先までの美容コースを受けているときのこと。店内に置いてあるテレビでは、ポップス音楽がガンガンに流れていた。
美容室の女の子が「私この曲大好き。お姉さんはどう思う?」と聞いてきた。これって韓国のグループだよね? 韓国の歌手が好きなの? って聞くと「大好き。だってきれいだし、ファッションもとっても憧れるし、ダンスもイキだし、音楽もいいもの。男性歌手もみんなカッコいいし」と言う。テレビからは、次から次に韓国の女性、男性グループの映像が流れ続ける。「日本人も、韓国人歌手好きでしょう?」と聞いてくる美容室のお姉さん。そうね。今、日本でもとっても流行っているみたいね。
続けてお姉さん、こんなことを聞いてきた。「日本には、こういう音楽はないの? 若い歌手ってあまり見たことがないわ」。え、そう? 日本にもいるわよ。私はあまり詳しくはないけどね。すると彼女は「だって、テレビを見ていても、日本の音楽番組は、高齢の歌手ばっかりが出てくるんだもの。でも、歌はとっても上手よね。こぶしのまわし方とか、長~く音を伸ばすところとか、聞いていてほれぼれしてしまう」と言う。ああ、それって、演歌のことね。「日本の番組は、ニュースか、そういう古い歌のプログラムばかりなので、若いグループがいないのかと思っちゃった」
なるほど、最近カンボジアでK-POP が浸透して、田舎でさえも村の男の子がラジオでK-POP をかけて韓国語で口ずさんでいるのを聞いてきたし、K-POP が流行ってJ-POP が全く流行らないことに対し、どうにかしなくちゃという声がちらほら聞こえてきたりするけど、これって根本的なところで日本のイメージ戦略の欠如から来ていることだったのね。
カンボジアではケーブルテレビが一般的で、MTV とかがガンガン流れているのだけど、そこに日本の音楽が流れてこない。日本のテレビ局でキャッチしているのはNHK か、時々台湾系のテレビ局で日本の旅番組のようなものが流れていたり、古~い時代のプロレスが流れていたりするだけ。ん~。これじゃあ美容室のお姉さんが描く日本のイメージが偏っていくのがよくわかるわ。そんなことを考えているわきで、K-POPはどんどん流れていく。
演歌を批判しているわけでも、NHK の番組構成を批判しているわけでもないけれど、J-POP が浸透しないという嘆きの前に、これは一度、日本をどう海外に見せるのかという国家戦略レベルでの検討が必要なんではないかと、この美容院の会話で思ったボンユキ。
それから意識してNHK を見ているけれど、確かに歌番組は演歌中心。海外に住む日本人としては、それも望郷の念を抱かせる、日本の心を感じさせるひと時ではあるのだけど、なかなかポップス音楽はかからない。ましてや、いろんな番組がある中で、音楽番組だってとても限定的。カンボジアの人たちが、チャンネルを回して偶然日本のポップス曲を耳にしたり目にしたりする確立はとっても低いわけだ。他のチャンネルに変えてみると、MTV やChannel [V] といった音楽番組で、韓国、中国ポップスがとっても魅力的に流れている。
日本のカンボジアに対するイメージが、地雷、戦争、貧困といった負のイメージが根強いというのと同じように、カンボジアの日本に対するイメージはこんな限定的な情報源からしか出来上がっていかないのかもしれない。
数日後、どこかのチャンネルで日本語の音楽が流れてきた。あ、日本のポップスだ! と思って目をとめて見てみると、どうも様子が違う。ああ、なんだ。韓国人男性グループじゃないの、これ。日本の芸能界では韓国人グループをどんどん日本でデビューさせているようだけど、それがアジアや世界に流れると日本のポップス=韓国人が代表者となってしまうのか。これが現実なのかもしれないなぁ。ちょっと苦笑いしつつも、このエッセイを「NHK 歌謡コンサート」を見ながら執筆しているボンユキでした。
2012.6-7月号(第59号)掲載
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