NyoNyum119号特集:⑤~困難な道でも一途に取り組めば想いは叶う~
NyoNyum119号特集:⑤~困難な道でも一途に取り組めば想いは叶う~
2022.07.29

現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum119号の特集のWeb版です。

 

「変わりゆくクメール女性たち~古来から現代につづくカンボジア女性の姿~

経済発展が進むカンボジアでは、省庁や民間企業での女性の活躍が目立つようになっています。カンボジアの伝統風習では、女性は結婚して妻となり、主婦として料理・洗濯・夫や子供、親の世話をして家を切り盛りするものとされてきました。

しかし現代では、家事に加えて仕事をして収入を得る女性が増えています。主婦の80% が家計に収入をもたらす仕事をしているとする調査結果も。

一方で、古来カンボジアでは社会における女性の地位は高く、それを示す文化・思想も多く残っています。そして今もカンボジア人女性の心の中にしっかり根付いています。

では、カンボジア社会における女性の伝統風習とはどんなものなのでしょう?そして現代において働くカンボジア人女性の環境はどのように進化しているのでしょう?

 

カンボジア女性の職場・役職等の環境は?

男女平等の環境の中で、職場で活躍する女性が多くいる今のカンボジア。ひと昔前(~ 2005 年あたりまで)は、一般家庭では娘には門限を課したり、女性は男性のように夜遅い時間まではもちろんのこと、実家から遠いところへ出勤や出張をしたりすることは滅多に許されていませんでした。

しかし現在ではジェンダー平等が重視され、男女問わず大学に進学して高学歴を目指したり、各界でさまざまな職種に就いて働く若い女性が目立つようになっています。彼女たちはどんな思いを持っているのでしょうか。各分野で活躍する女性たちの思いを聞いてみました。

 

①困難な道でも一途に取り組めば想いは叶う

リー・チャンソチェッターさん(25)

カンボジア史上初めて、日本の防衛大学校に留学した女性がいます。2022年3月に晴れて卒業し、帰国したばかりのリー・チャンソチェッターさん。一体なぜ、軍の世界に入ったのでしょうか。そして日本への留学でどのような経験をし、これからカンボジアでどのような人生を描いているのでしょう。美しい容姿の裏に、強い意志と情熱を秘めたチャンソチェッターさんに話を聞きました。

 

Q.日本の防衛大学校への進学を選択したきっかけについて聞かせてください。

父が軍医で、大阪に2年間滞在していたことがあり、父を通じて日本という国を知ったのが一つ。母も一緒に滞在していたので、日本の文化が家庭にありました。

また、日本人が運営する「オリガミ」幼稚園に通っていたり、学校の机の上に「From People of Japan」と書いてあるのを見つけたり、日本の文化に触れていました。2015年に軍に入り、日本への奨学金があることを知り受験をしたところ受かったので、2017年に念願の日本に行き2022年3月に卒業したんです。

 

Q.日本留学の前はどのような勉強をされていましたか?

高校を2014 年に卒業して、プノンペン王立大学の英語学部に所属しながら2015 年に軍に入りました。日本の防衛省の奨学金に受かって2017 年に防衛大学校に入学しました。

 

Q.軍隊の職に就いておられますが、今の職を選択したとき、周りから批判的な言葉が出ませんでしたか?

2015年に軍に入ったときは訓練をするのが仕事でした。基礎体力を作り、規律を学び、6 カ月間の訓練を受けてから、しばらくは英語を使う仕事をしていました。

母は娘が軍に入ることに抵抗がありました。女の子なんだから他の勉強をしてほしいと言われ続けました。日本に出発するときも泣いていました。親戚からもそういう声はありました。友達は、私が自ら決めたことはやる性格だと知っていたからか、あまり批判的な声はなかったです。そもそも父と兄が軍に所属しているので、制服姿や国家のために働く姿を見てずっとあこがれていたので、私にとっては自然な流れだったんです。

防衛大学校の13ヵ国からの同期留学生と、卒業式にて(2022年)

 

Q.防衛大学校への留学期間中に困ったことはありましたか? また、女性の留学生だからといって差別的なことはありませんでしたか?

男性とは体力の差があるので、やはり訓練はきつかったです。でも、同期のいろんな人に助けてもらえました。もう一つ困ったのは日本語の問題です。1年間日本語を勉強してから大学校に入るんですが、軍事に関する特殊な言葉もありますし、教官から指示をされてもわからず全然違うことをしていたり…。それが大きな壁でした。コミュニケーション面は、日本人は恥ずかしがり屋なのでこちらが何かお願いすれば優しく助けてくれるんですが、最初はそういうこともわからず困りました。そういったカルチャーショックはありました。

女性だからということで困ったことはなかったですが、日本でパワハラ、セクハラということを学びました。カンボジアではあまり浸透してしない言葉だったので日本に行った当初はよくわかっていなかったんです。防衛大学校ではこの点にとても厳しかったです。防衛大学校にはタイ、ベトナム、インドネシアなど東南アジアを中心に13カ国からの留学生がいて、異文化交流はとても楽しかったです。彼らとも日本語で会話をしていました。

留学1年目、教室で同級生と(2017年)

Q.自分と同じように日本の防衛大学校へ留学したいと思う他のカンボジア人の女性は多くいると思いますか?

どうでしょうね。軍の中に女性は増えていますが、行きたいか、5年間をかけたいと思うかはわかりません。5歳年を重ねてしまいますからね。そういう抵抗はあるかもしれません。でも、自分のキャリアを高めたいと思う人はこれから出てくるかもしれませんね。

 

Q.今、カンボジア防衛省で専念しているのはどのような仕事でしょうか?

正式な配属はまだなのですが、国際関係の部署に行きたいです。特に日本との関係、防衛省との関係をつなげるような仕事をしたいです。先日は岸田総理や統合幕僚長もいらっしゃって、これから関係が深まるのではないかと期待しています。名誉なことに統合幕僚長にお会いすることができて、日本では絶対に会えない階級の人だったので、防衛大学校の友達からうらやましがられました。日本との懸け橋になりたいという思いがますます強まりました。

 

Q.将来の夢は?

国のために活躍したいです。どの分野でも国のためであればいいと思います。それが自分の専門であればさらにいいと思います。日本で国を守るということを身をもって知ったので、それを生かして活躍したいです。

 

Q.現在、カンボジア人女性がどんどん社会に進出していろいろな職種で活躍するようになっていますが、それについてどう思いますか?

母が公務員(公共事業運輸省)で、仕事をしながら家事もやる母を見てきたので、働く女性のすごさ、強さ、美しさを感じて育ってきました。私の女性像が母なんです。でもあこがれる一方で、難しい面もあることはわかっています。男性と同じように働いて帰ってくるのに、家のことは女性がするという昔の概念がまだ根深いので、女性の負担という意味では難しさはあると思います。

 

Q.昔と比べて、カンボジアの女性の置かれている環境は変わっていると思いますか?

国の発展の過程で女性の社会進出は確実に進むと思います。教育も重要ですね。軍でも女性は確実に増えています。でもどの部署でもどんな役職でも働けるのかはまだ難しいですね。女性が最前線で戦えるのか。女性が男性と同じ時間で同じ仕事をどこまでできるのか、それはまだ組織としてもわからないと思います。それをどう改善するのか。組織としての改善も必要だし、女性の意識の改善も必要だと思います。

2019年の冬、日本人の友達と浅草へ観光に行った

Q.最後に次世代の女性に何か一言いただけますか。今後の抱負も聞かせてください。

贈りたい言葉があります。「2つの道があったら難しいほうを選んでください」ということをみなさんに伝えたいです。これは防衛大学校で訓練指導教官に言われた言葉なんですが、2つの道がある場合、簡単な道を選んだら自分が成長しないということです。難しい道を選んだら、挑戦することになり自分自身が成長する。自分も実際に難しいほうを選びました。5年間かけて、体力的にもきつい環境の中でやり抜いてきた。それが成長につながりました。もちろんまだまだ成長途中なので、これからも努力し続けたいと思います。

努力している人には助けてくれる人が必ず現れます。日本人は恥ずかしがり屋ですけど、きちんとこちらが意思表示をしたら必ず助けてくれます。私も多くの日本人に助けられました。特に日本語で困っているときに助けられました。そのためにもコミュニケーションが大切だと思います。

抱負としては、私は人生の5 分の1 を日本で過ごし、しかも一番思い出が多い5年間です。日本はきれいで、本当に楽しかったです。卒業の日は同期の友達との別れが本当につらかったですが、やはりカンボジアにいったん戻り、国のために働こうと思って帰ってきました。また次のチャンスがあれば、日本でのさらに高学位の留学にも挑戦したいです。

防衛大学校学校長から学位証明書を授与される

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