現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum121号の特集のWeb版です。
「クメール人の拠り所ー仏教の僧侶と寺の存在感とはー」
「国家・宗教・国王」という国の標語に掲げられている通り、カンボジア人の90%が信仰する仏教(小乗仏教)は、君主や政府と並んで国家の最高機関の1つとされています。国王を含むカンボジア国民は、お坊さんを“サンマー・サンポット(仏陀)” の使徒であると信じており、古代から現在に至るまで僧侶は高い人格と深い知識を持ち、人々に仏教の教えを示す高貴な存在として敬っています。
カンボジア全土に多くの寺院が存在することも、仏教に対する強い信仰心を示しています。カンボジア
の人々がお坊さんを崇拝し、仏教を強く信じる理由に迫ります。
仏教徒たちは何をしている?~功徳を積む~
功徳を積むことは仏教を信仰しているカンボジア人にとって重要な善の行為であり、老若男女を問わず、「トガイサル」と呼ばれる仏日には精神を安らかに鎮めるため、また功徳を積むためにお寺に行きます。一体この仏日には何が行われているのでしょうか。お寺でカンボジアの人々が行っていることを覗いてみましょう。
十善戒
身業
不殺生(ふせっしょう)
故意に生き物を殺さない。
不偸盗(ふちゅうとう)
与えられていないものを自分のものとしない。
不邪淫(ふじゃいん)
不倫など道徳に外れた関係を持たない。
口業
不妄語(ふもうご)
嘘をつかない。
不綺語(ふきご)
中身のない言葉を話さない。
不悪口(ふあっく)
乱暴な言葉を使わない。
不両舌(ふりょうぜつ)
他人を仲違いさせるようなことを言わない。
意業
不慳貪(ふけんどん)
激しい欲を抱かない。
不瞋恚(ふしんに)
激しい怒りを抱かない。
不邪見(ふじゃけん)
因果の道理を無視した誤った見解を持たない。
カンボジアのカレンダーには通常、月に4回の仏日がある。新月、上弦、満月、下弦の日がこの仏日にあたり、特にお年寄りを中心としたカンボジアの人々は功徳を積むために寺に参拝する。信者たちは早朝(4時半頃)に起きて、お坊さんのためにお供え物を準備する。寺に着いてからやることについて、功徳を積みに来ていたエーン・ラーンさん(65)が次のように教えてくれた。「5時頃寺にみんなが集まったら、仏様の前でお経を30分ほど唱えます。そのあと、お坊さんが皆に“戒め” の説教をしてくださいます」
カンボジアの仏教信仰では、仏教の戒めを授かることにより、その人の心の欲望を清め、来世の幸せのための功徳となるのだと言われている。仏教の戒めは10(十善戒)ある。だが、一般的に皆が守るようにとされているのは5つ、または8つの戒めだという。
これらの戒めは各家庭でも行えるが、お寺で行うことが一般的であるという。ラーンさんは「自宅でやるよりお寺でお坊さんの前で戒めを説いていただき、それを守ることが大切。お坊さんから戒めを授かることほうが心の清めに効果的だと実感しています」と言う。お寺での受戒は朝6時頃からの1時間程度。そのあと煩悩を捨てる人の心を育むため、また功徳を積めるよう僧侶による説法があるという。「お坊さんの説法を聞き終えると家に帰る人が多いです」とラーンさんは教えてくれた。
7年前から受戒を始め、現在では5つの戒めを授かったというラーンさんによると、「お寺に来る受戒者の中にはお年寄りの人ばかりではなく、30代後半くらいの人もよく見かけます。カンボジア人は自分の子供が結婚して家庭が落ち着いたら受戒を始めます。最近は家庭の問題で人生の苦しみを抱える若い年の人も、精神を安らかにするためお寺で受戒するようになっている」という。
仏教と僧侶へのみんなの思い
プノンペンのネアックヴァン寺に通うナウ・ヴォンさん(72)は、仏教への信仰について次のように語ってくれた。「仏教徒である私がお寺に受戒のために通うのは当然のことです。年老いた自分のような人はお寺で受戒することにより、精神を鎮めることができてとても良いことです」。お坊さんの存在については、「お坊さんは仏教の教えをよく学び、仏教徒たちに戒律を通して思いやりや助け合いなどの優しい心を持つように導いてくれます。カンボジア社会に欠かせない存在だと思います」と話す。
ネアックヴァン寺の住職のお世話をしているピッチ・ポッチさん(58)は、仏日の受戒には必ず参加していると言う。自分の残りの人生を仏教に捧げていくと決めているポッチさんは、「お寺で受戒することにより自分の心を清めるためだけでなく、仏教を通じて社会に貢献したいという気持ちがあります。お坊さんは信者たちにお経を唱えるだけでなく、善悪について教え、人としての善行を説いてくれます。仏教の教えこそが我々の社会を良くしてくれるのだと信じています。お坊さんの存在なしでは社会が成り立たないと思います」と語った。
仏教の勉強とお寺で受戒するのが好きな元僧侶だったソン・クリーさん(26)は、“自業自得” という道理を信じ、仏教こそがそのわけを倫理的に教えてくれると語る。カンボジアの社会におけるお坊さんの存在については「僧侶は人々へ善悪がわかるようにお経を通して教えてくれるだけでなく、クメール語やカンボジアの伝統など、国のアイデンティティを保護してくれる重要な存在です。我々カンボジア人がお坊さんのために熱心に物資や資金に捧げるのはそのためです」と話す。
仏日に欠かすことなくネアックヴァン寺に通う、過去にアチャー(司祭)をしていたホー・ソンさん(64)は、年をとったため今こそお寺で受戒をしないといけないという。「私は年なので、来世のために功徳を積まないといけません。僧侶こそが功徳を積む行為に導いてくれると信じています。
また、お寺に来ることにより他の受戒者から時々物やお金をいただき、今の生活をしていくうえで助けられています。お坊さんはお釈迦様の教え子だから、仏教に関する知識を持ち人々に仏教の教えを伝えてくれる唯一の存在だと思います」
コンポンスプー州出身のテス・チューンさん(73)は、約20 年前からプノンペンのボットムヴァテイ寺で生活をしている。チューンさんは以前、ボトム寺でアチャー(司祭)の仕事をしていたという。「アチャーの父から仕事を学ぶために2002年にプノンペンに上京してボトム寺にやってきました。父が8 年前に病気で亡くなったため、ボトム寺の住職にこの寺で引き続きアチャーとしての生活をさせていただきたいと願い出ました。数年前に自分が精神的な病にかかってしまい、アチャーの仕事を辞めざるを得なくなったのですが、このボトム寺の本館で掃除や管理などの仕事をしつつ、受戒もちゃんと参加して寺で暮らしています。寺は私のよりどころです」
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