現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum121号の特集のWeb版です。
「クメール人の拠り所ー仏教の僧侶と寺の存在感とはー」
「国家・宗教・国王」という国の標語に掲げられている通り、カンボジア人の90%が信仰する仏教(小乗仏教)は、君主や政府と並んで国家の最高機関の1つとされています。国王を含むカンボジア国民は、お坊さんを“サンマー・サンポット(仏陀)” の使徒であると信じており、古代から現在に至るまで僧侶は高い人格と深い知識を持ち、人々に仏教の教えを示す高貴な存在として敬っています。
カンボジア全土に多くの寺院が存在することも、仏教に対する強い信仰心を示しています。カンボジア
の人々がお坊さんを崇拝し、仏教を強く信じる理由に迫ります。
寺はみんなのよりどころ ―「寺子」の現状について―
人々のよりどころであるお寺。僧侶やアチャー(司祭)以外にも、孤児や進学の目的で身寄りのない都会へ上京する地方出身の男子学生はお寺に寝泊まりが認められています。昔も今も、お坊さんの保護のもとで勉学に励む「クメーンヴァット(寺子)」と呼ばれる学生がいます。では、寺子たちはどのような生活をしているのでしょうか。
ターイ・ソポンさん(23)は寺子としてプノンペンのウナロム寺に4年間下宿している。コンポンチュナン州で生まれ育ったソポンさんは高校卒業後、以前ウナロム寺で寺子をしていたことのあるいとこに連絡し、お寺で生活しながら大学に行きたいと相談した。
「僧侶宿舎に入居を希望する場合、保護者が宿舎の責任者である僧侶に直接に連絡して、許可を得ないといけません。その際、宿舎が定めたルールに従うという契約書も結びます。万が一問題を起こして他人に迷惑をかけるようなことがあった場合は退舎となります」。
現在は、ソポンさんと同じように11人の若者が僧侶宿舎で生活しているという。宿舎での生活についてソポンさんは「宿舎の屋上に私たちが共同生活する部屋があります。部屋は2 つしかなく皆で雑魚寝をしていますが、たとえば学校の課題や勉強をしないといけない人が優先的に、テーブルと椅子を置いて使えるようにしています。夜には可動式のベッドを並べ、蚊帳をかけてみんな寝ています」と教えてくれた。
カンボジアの人々にとって、上京する地方の貧しい学生がお寺に下宿したいと願うのは一般的だ。寺の僧侶宿舎で生活することにより、家族の生活費や食費の仕送りなどの負担が軽減されるからだ。
「宿泊費が無料になるだけでなく、一緒に住んでいるお坊さんの料理や身の回りのお手伝いをすることで、ご飯も無料で食べられます。でも、水や電気代は皆で出し合わなければならず、時には一緒に住んでいる宿舎のお坊さんとお金を出し合って、お米やお肉などの食べ物を一緒に買うこともあります」。
僧侶宿舎で寝泊まりするメリットについて、「日々の経費を削減できるだけでなく、お互いに助け合うということを学べます。たとえば、お坊さんのための食事の用意や後片付けをするときに、皆で協力して仕事をします。そして、勉強のことでわからないところがあったら、先輩に聞くと丁寧に教えてもらえます」と語った。お寺で大きな儀式があるときも、必要に応じてお寺の仕事の手伝いをするという。
「家が貧しいなら、お寺に頼らなければなりません」と、バッタンバン州出身のクン・サムナンさん(30)。サムナンさんは、プノンペンの国立教育研究所で教員養成コースを受けるために半年ほど前に上京し、ボトム寺の僧侶宿舎に入居した。
「お寺の僧侶宿舎に住む人は“クメーンヴァット(寺子)” と呼ばれます。私たちは、僧侶の教えに忠実に従わなければなりません。一緒に住むお坊さんのための料理の準備や宿泊施設の掃除などを手伝います。こういったお手伝いをすることで、一緒に暮らすお坊さんが食事をされた後に、私たちも食事をいただけるからです。規律正しく修行されている僧侶と暮らし、ルールに従うことにより、みんなの共同生活が円滑になります。他人に配慮して行動したり近くにいる人を助けるという、社会生活で欠かせない良いマナーを身に付けることができます」。
サムナンさんは2021年に国の教育学試験に合格し、教員になるために勉学に励んでいる。教員養成コース終了後は故郷に帰り、高校の教師になりたいという。
お寺の厄払い士
ヴェン・ソリヤヴォンさん(35)は2012年からプノンペンのサラーヴォン・テチョー寺で聖水による厄払い士として従事しています。厄払い士として名前が知られており、プノンペン周辺や遠方からも人が訪れます。厄払いという仕事について、ソリヤヴォンさんに教えてもらいました。
厄払い士になった理由は?
昔、私の家族が他人の恨みを買い、その後病気にかかりがちになって家族みんなを悩ませたことがありました。亡くなる兄弟も出たため、厄払いに関心を持ち始めたんです。厄払いの仕事を選んだのは、自分の家族を救うのはもちろん、みんなにも自分の家族と同じような悲しい経験をしてほしくないと思ったからです。それでいろいろな厄払い士から厄を追い払う術を学びました。
厄払いの仕事は?
厄払いには人間関係の問題、倦怠感、ストレス、身体の不調などを抱えている人が足を運んで来ます。厄払いをしてもらうことによって、そういった悩みがなくなると信じているからです。土曜日と日曜日は絶え間なく人がやってきます。多くの人は口コミからです。占いや運勢を高める呪文もやっています。
厄払いの流れは、まず生年月日でその人の運勢を見ます。運勢に問題が見つかった人は、呪文(お守り)により運勢を高めるか、聖水で清めて厄を払うかを選んでもらいます。厄払いは水に呪文をかけた聖水で行います。厄払いをする人の中には精神的な問題を抱え、頭痛や不眠症などの症状が出ている人がいます。深刻な場合だと、刃物で自分の手を切ったり、朝起きたときに体に打撲のような跡が付いているという人もいます。そういった症状があることがわかったら、まず言葉でもって心に寄り添います。そして最後に聖水で厄を追い払うとみんな安心します。
その人たちには、これから運勢が良くなると告げます。このように聖水による厄払いはもちろんですが、運勢を良くするための相談を受けてアドバイスもしてあげるのです。そうすることで、精神的に問題や悩みを抱える人を助けることができます。
厄払いした人の状態は改善されますか?
来る人のほとんどが自分自身で精神的、肉体的に何か不自然なことが生じていると感じています。また以前病気にかかったことがある人もいれば、単に健康を維持するために月に数回定期的に来てくれる人もいます。厄払いに来て改善した人が多いのか、その口コミで多くの人が私のもとに来てくれています。
聖水による厄払いと、お坊さんがお経を唱える際にかけてくれる聖水は何が違いますか?
あまり違いがありません。お経を唱える際の聖水も運勢を良くするための祈りが込められています。一方で、「厄」を追い払うための聖水には厄払いの効果があります。昔も今も悪霊にたたられる、といったことを信じているカンボジア人がまだまだたくさんいるので、厄払いの聖水を信じる人の比率は高いように思います。
厄払いをしに来た人は…
よく厄払いをしてもらいに来るというチャン・チュレップさん(43)は、「時間がある時によくこのサラーヴォン・テチョー寺で聖水の厄払いをしてもらっています。私はこれまでに幽霊に出くわしたり、悪霊にたたられたといったことはありませんが、厄払いを信じています。なぜなら厄払いをしてもらうと商売は繁盛するし、病気にもならないし、気持ちが安定して運勢まで上がるのを実感しているからです。ここで厄払いをしてもらうと、運気をアップさせることができますよ。
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