NyoNyum123号特集③:シェムリァップ在住約28年「一二三日本語教室」鬼一二三校長インタビュー
NyoNyum123号特集③:シェムリァップ在住約28年「一二三日本語教室」鬼一二三校長インタビュー
2023.03.28

現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum123号の特集のWeb版です。

 

「コロナ禍で変わりゆく日本語観光ガイド

観光産業で発展してきたシェムリァップ。観光にまつわる多くの仕事と職業が生まれてきました。シェムリァップだけでも、英語、スペイン語、日本語、中国語、韓国語、ロシア語など、世界各国の言語に対応するガイドが約5000人もいます。英語と中国語に続き日本語ガイドは3番目に多く、その数は約800人。

新型コロナの流行から約3年の間に、観光ガイドの生活はもちろん、シェムリァップの観光ビジネスは大きな変化を余儀なくされました。仕事がなくなり生活のために、約3割のガイドが新しい仕事を求めてシェムリァップを離れたり、州内で建設業や農業、トラックのドライバーなどへと職を変えました。そして中には身に付けた日本語能力を活用して、新たな一歩を踏み出した人も。

今回の特集では、コロナ禍で変化した日本語観光ガイドをめぐる環境、そして今後のシェムリァップの観光ビジネスのあり方に迫ります。

 

シェムリァップ在住約28年「一二三日本語教室」鬼一二三校長インタビュー

朝7時の日本語クラスに通っているガイドさんたちと写った鬼先生

シェムリァップで長年にわたり日本語教育に携わる鬼一二三(おに・ひふみ)さん。自身が運営する「一二三日本語教室」からは多くの日本語観光ガイドを輩出してきました。一二三先生から見た、ガイドたちの仕事や生活の変化を語っていただきました。

 

約3年のコロナ禍でシェムリァップの日本語観光ガイドの生活にどのような変化が見られますか。

新型コロナのパンデミックはガイドたちのライフスタイルを一変させました。観光ガイドは、観光客を遺跡へご案内をするという仕事が好きでやる人が多いです。ガイドには旅行社専属ガイドとフリーランスのガイドがいますが、毎日9時から17時まで働くといった種類の職業ではありません。仕事がある時とない時が必ずあって、ない時は家族とゆっくり過ごしているというのがガイドの一般的なライフスタイルです。そういう生活に長年慣れてきたわけですですから、コロナ禍で突然観光客が来なくなり、仕事がなくなって生活に困っている人は多いと思います。特に、一家を支える立場にある人は、収入源を確保するために出稼ぎをしたり、シェムリァップ市内で商売を始めたりしています。新しい仕事を始め、コロナ禍以前の生活とは一変したわけです。

みんな大変だと思いますよ。たとえば商売を始めると朝早く開店しないといけないとか、開店のための準備とか、自分が店にいないといけないとかありますよね。また、レストランを始めた人もいて、屋台などの経営経験のある人だと大丈夫だと思いますが、そうでない人がいざレストランを自分で経営することになるとお客様の来店見込みがわからない中、肉や野菜をどのくらいの量、どういうふうに効率良く準備したらいいのかなど、難題が山積みですね。店の経営は効率の悪いやり方では赤字になるので、まだまだ大変なところが多いかと思います。ですから、多くが元のガイドという職業に戻りたがっていると思います。

 

新しい仕事にチャレンジしたガイドたちをどう思いますか。

コロナ禍で通訳や翻訳を始めた日本語ガイドもいます。ガイドは口頭でお客様を案内するので、いかにお喋りが上手かが大切ですが、通訳や翻訳となると別の世界になります。翻訳では、日本語の文章を理解する能力が問われるし、たとえば日本にあるものでカンボジアにないものはどういうふうに訳せばよいかといった異文化理解能力も関わってくるので、日本語がたくさん喋れるから簡単にできるというわけでもないんですね。

そういうわけで、通訳や翻訳家を目指そうとしているガイドは日本語能力を高めないといけないと自覚するのです。実際、通訳や翻訳の仕事の依頼を受けるときには日本語能力試験のN1とかN2くらいの資格を問われますし、そのレベルの日本語能力を持たないと仕事ができないのです。ですから、コロナ禍になってから日本語学習をやり直そう、漢字の勉強をゼロから始めようと意気込んでうちの日本語学校に通い始めたガイドが何人もいます。仕事がない暇な時間を活用して漢字や日本語の文法表現を身に付けたい、日本の新聞が読めるようになりたいという向上心のあるガイドたちが頑張っています。中高生に混じってベテランガイドが熱心に勉強しているのには頭が下がります。

 

 

 

\ 一二三日本語教室の卒業生に聞いてみた ! /

トック・ピセットさん(40歳)

現在、日本で介護士として活躍している元日本語観光ガイドのピセットさんは、一二三日本語教室の卒業生で、2020年11月に来日した。

「日本の老人ホームでの介護士の仕事は慎重さが求められます。最初は職場での日本語のコミュニケーションに多少困難があり、仕事も忍耐が必要でしたが、日々の課題から学びつつ仕事に取り組んできました。今は多くのことを学んだし、介護の仕事にも大分慣れてきました。今後もこの分野で働き続け、国にいる家族を養うための貯金も頑張りたいと思っています。将来、国で介護の仕事が必要になったら、日本での経験を生かして介護士として仕事を続けていきたいと思います」

 

鬼先生によるとコロナが発生する前から、介護分野の技能実習生、 特定技能を目指して日本へ仕事に行く日本語ガイドもいたという。このような需要に応えるべく、 介護の仕事をしたいと思う人のためのクラスも開講し、 介護の専門用語や表現、 日常の仕事に使う漢字の読み書き指導も行っている。

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