(日本語) ~東京オリンピックへの道~水泳カンボジア代表の奮闘記②
(日本語) ~東京オリンピックへの道~水泳カンボジア代表の奮闘記②
2019.08.15

日本では来年開催される東京オリンピックが近づくにつれて、試合日程やチケットの話題で盛り上がっているが、カンボジアの首都プノンペンでは今日も一人の日本人コーチが選手たちに水泳を教えている。生山咲さんはJICAの隊員としてカンボジアにやって来て3年間指導し、現在は水泳カンボジア代表のヘッドコーチを務める。この連載ではカンボジアの水泳界発展のために彼女が日々全力で選手たちと向き合っている姿を紹介します。

1回目の奮闘記はこちら

 

「~私の人生を変えた“カメ事件”~」


今から3年前、6人の選手たちと行った3年前のタイ遠征。今でもその日のことは昨日のことのように鮮明に思い出せます。

当時指導していた選手たちは、国際大会の舞台で堂々と胸を張り、自己記録を大幅に更新して、満面の笑みで私のもとへと帰ってきました。素晴らしい結果で泳いだ彼らのことを、私はおもいっきり褒めました。それを横目に、面白くなさそうに眺めている人がいました。金銭的サポートをしてくれていた連盟のお偉いさんでした。ホテルに戻ってからも明らかに彼の様子がおかしいため、私の方から何かあったのかと問いかけました。すると彼は、“水泳は私がどんなにお金をかけてもメダルが取れないな”と、冷たく一言言い放ちました。メダルにはまだ遠くても、素晴らしい自己記録を出した彼らのことを認めてもらいたく、私も言い返しました。しかしそれは火に油を注いだようなものだったようで、彼は私の教え子たちをけなしはじめました。“あいつらは怠け者だ”“日本人が来たのに、水泳チームはずっとメダルが獲れないね”…必死に我慢していたものの、ついにその時はきてしまいました。彼は鼻で笑いながらこう言いました。“お前の選手はカメみたいだな!”

その瞬間、私の中で何かがはじけたように、涙が止まらなくなりました。焦った彼は、必死に私のことを慰めます。“違うんだ、あなたが悪い先生だとは言ってない。あなたの選手が悪いんだ…” そうじゃない。自分のことをバカにされただけだったら、絶対泣かなかった。自分が力不足なのはわかっているから。だけど、号泣しながら、選手たちの笑顔が思い浮かんで、1年間やってきたことが走馬灯のようによみがえった。彼らの努力をこの人は知らない。どうしてその人に、”カメみたい”って、なんでバカにされなきゃいけないの?

水泳はメダルが取れないって なんで決めつける?どうして戦う前から、勝てないと決めつける?どうして“信じる”ということができない?大人が、指導者が、可能性を信じてあげなくて、子供たちはどうやって未来を見るんだ?!

 

”どうして、何も知らないくせに、そんなこと言えるんですか”

”私のことをバカにしたければいくらでもしてください。でも、彼らのことを侮辱することだけは許せません”

”たとえあなたがどんなに彼らのことをバカにしたとしても、私は、彼らを信じます”

 

どうして、あんなに悔しかったんだろう。

わかんない、でも、ただただ涙があふれてきて、悔しくて 悔しくて 仕方なくて、

だけど、その悔しさと同じくらい、”絶対メダル取ってやる”って思った。

そして、思ったことがそのまま口に出た。

 

”私が帰るまでに絶対メダル獲りますから”

 

あれから3年。まだ彼を見返せてない。険しい道のりだけど、諦めない夢は終わらない。あと少し。そう信じて、私たちは今日も泳ぎ続ける。

 

 

筆者・生山 咲さんのプロフィール


筆者: 生山 咲
1992 年生まれ。母の影響でベビースイミングから水泳を始め、大学卒業まで22 年間競技生活を
続ける。東海大学水泳部では女子主将を務め、2014 年9 月の日本学生選手権をもって現役引退。2015 年3 月に東海大学教養学部国際学科を卒業後、平成27 年度3 次隊でJICA 青年海外協力
隊の水泳隊員としてカンボジアへ渡り、2 年間ナショナルチーム及びユースチームの選手を指導。任期満了後に再びカンボジアへ戻り、現在は代表チームのヘッドコーチを務めている。

 

「いつか世界を変える力になる 第3部」に出演

BSフジで放送されている俳優 斎藤工さんが世界中のJICA協力隊員を訪れ、彼らの「今」を追う番組「いつか世界を変える力になる」。3月17日に放送された第三部に青年海外協力隊OGで現在、カンボジア水泳代表のヘッドコーチを務める生山咲さんが出演しました。

 

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