NyoNyum115号特集：③すべての力を出し切り、成長の階段を上る選手たち～パラ陸上編～

TOP › 読み物 › スポーツ › パラスポーツ › NyoNyum115号特集：③すべての力を出し切り、成長の階段を上る選手たち～パラ陸上編～

2021.11.29

パラスポーツ特集記事

現在カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum115号の特集では「東京2020オリンピック・パラリンピックのレポート」について紹介しましたがそのWeb版も公開します。

「自己の記録を塗り替えろ！～東京2020オリンピック・パラリンピックからのレポート～」

東京2020オリンピック・パラリンピックが終わりました。

みなさんはどこで、誰と、どのように大会を見ていましたか？

カンボジアに住む私たち日本人、それにカンボジア人や各国の人たちも、それぞれいろいろな角度からこの大会を見ていたようです。

新型コロナウイルス感染症の影響がありながらも集まったアスリートたち。

その中にはカンボジア人の姿もありました。

今回、ニョニュムでは大会に出場したカンボジア人アスリートや関係者からさまざまな声を聞いて、カンボジア人から見た東京2020オリンピック・パラリンピックをのぞいてみました。

カンボジアのオリンピック参加の軌跡

東京2020オリンピック・パラリンピックが終わり、皆さんいろいろな思いをもって観ていたと思います。カンボジアからは、オリンピックに3人、パラリンピックに1人の選手が参加しました。

コロナ禍の準備、渡航、競技大会への参加で普段よりもいろいろな困難が伴う歴史的な大会でしたが、カンボジア選手はこれまでにも選手を大会に送ってきました。オリンピックとカンボジアの歴史を少し覗いてみましょう。

近代オリンピック第1回大会は1896年のギリシャ（アテネ）大会。欧米先進国14カ国が参加し、実施競技は8競技43種目、男子のみの出場だった。

以降、参加国や競技数を増やして発展していき、その歴史の中にカンボジア人選手の姿が見られるようになったのは、1956年のメルボルン大会から。同大会に、カンボジアは馬術で2名の選手を送り込んだ。

以来10回の大会に水泳、陸上、マラソン、自転車、カヌー、ボクシング、幅跳び、レスリング、柔道、テコンドーなどの選手が出場している。

だが、一時期オリンピックの舞台からカンボジア人選手が消える。1972年のミュンヘン大会以降、カンボジアは内戦状態となりオリンピックへの参加ができなくなったのだ。

1993年にカンボジアオリンピック委員会が国際オリンピック委員会の正式メンバーとして再度認められたことにより、1996年のアトランタ大会から再びカンボジア選手が参加できるようになった。

今回の東京2020オリンピック・パラリンピックでカンボジア代表選手団は、オリンピックに関してはワイルドカード枠（主催者推薦）、パラリンピックはリプレゼンテーション枠での出場となった。

すべての力を出し切り、成長の階段を上る選手たち～パラ陸上編～

ヴァン・ヴォン選手

陸上男子100m 車いすT54 クラス

T I M E ： 14.21

順位：7 位

3歳の時に患ったポリオの後遺症を持つヴァン・ヴォン選手（35）は、東京2020 パラリンピックの陸上男子100m 車いすT54 クラスに出場した。今大会、唯一のカンボジア人障がい者の選手となった。

2006 年から障がい者選手としての訓練を受け始め、スポーツの世界にのめりこんだ。ひたむきに練習を積み重ね、2011年に初めてインドネシアで行われたASEANパラゲームに出場を果たし、銀メダルを獲得。

以来、毎年のようにASEANパラゲーム、アジアパラ競技大会に出場し、2013年にミャンマーで行われたASEANパラゲームで金メダル、2015年にシンガポールで行われたASEANパラゲームで銅メダル、2017年にマレーシアで行われたアジアASEAN パラ競技大会で銅メダルを獲得する実力者。

NPO法人ハート・オブ・ゴールドとカンボジアパラリンピック委員会の支援を受けて、2017年には日本での短期研修を受けている。パラリンピックには2016年のブラジル・リオ大会にも出場しており、東京
2020パラリンピックは2回目の出場となった。

今回の東京2020 パラリンピックでは、カンボジアのパラリンピック出場史上初となる決勝進出を果たした。

「新型コロナウイルス感染症の影響で練習場所であるカンボジアのオリンピックスタジアムが感染者隔離治療センターとなってしまったため、これまで通りの練習が一切できない状況でした。しかし、私はその状況に屈することなく、知り合いの土地を借りて練習を重ねてきました」と、ヴォン選手。

日本では、大会関係者から温かい歓迎を受け、新型コロナ感染症対策を含め、行き届いた環境の中で滞在することができたという。

そして、自己ベストを更新して予選を通過した。これはカンボジアのパラリンピック参加史上初めての快挙だ。決勝では予選での自己ベストをさらに更新して14.21秒で7位入賞という偉業を果たした。

「まさか、決勝に進めるとは思ってもいませんでした。自分自身では、予選グループの4位につければ上出来だと思っていたんですよ。コロナの影響で、普段の練習も思うようにできず、必要な物資も不足している中、世界の強豪が集まるこの大会でカンボジアの新たな歴史を刻むことができたことは、本当に感激でした」

カンボジアでは障がい者スポーツに対する注目が低く、練習用の道具などが不足している。「自分が活躍することによってカンボジアの人々が障がい者スポーツに目を向け、多くの支持をしてくれるようになり、自分はもとより次世代の選手たちが活躍する環境が少しずつ整ってほしい。そのためにも、今後のASEANパラゲーム、アジアパラ競技大会に出続けたい」と語るヴォン選手。

そして、次の大きな目標である2023年のSEAGames ではメダルを獲得し、国に貢献したいという。