12月12日から14日にかけての3日間、カンボジアの首都プノンペンでJリーグ・ギラヴァンツ北九州がサッカークリニックを開催した。このプログラムはJリーグと国際交流基金アジアセンターの共同プロジェクトの一環として実施されており、ASEAN地域を中心にアジアのレベルアップを図るために日本のプロの指導者を派遣している。今回、プノンペンに本拠地を置くプノンペン・クラウンFCの下部組織所属の選手を対象にギラヴァンツ北九州のコーチが指導を行なった。
●プノンペン・クラウンFCとは
プノンペン・クラウンFCは過去に国内最多リーグ優勝6度を誇る強豪で、これまで数多くのカンボジア代表選手を輩出している名門クラブ。今シーズンは、かつてアルビレックス新潟プノンペンFCでGMを務め、昨年までシンガポールサッカー協会でマーケティングマネージャーを務めていた池田憲昭氏がGMに就任。クラブ公式Facebook ページ:https://www.facebook.com/PhnomPenhCrownFC/
●ギラヴァンツ北九州とは
日本の福岡県北九州市をホームタウンとする、Jリーグに加盟するプロサッカークラブ。2017年シーズンはJ3リーグに所属。スタジアムは今年オープンし、海のすぐ横にあるせいで大きなクリアボールが海に入ると話題のミクニワールドスタジアム北九州。
クラブ公式サイト:https://www.giravanz.jp
●ギラヴァンツ北九州の指導経験豊富なコーチ陣
クリニック開催は今年2月に続いて2回目の開催。今回、ギラヴァンツ北九州からは普及事業本部の下田功本部長、普及事業部の千疋美徳部長、普及グループ企画推進担当の上村剛史コーチの3人がカンボジアを訪れた。3日間に渡り、プノンペン・クラウンFCのU-14及びU-16の選手達を千疋、上村の両コーチが指導を行なった。
●カンボジア人選手は技術に長けてはいるが・・・
今回、クラウンの選手たちを指導してみると技術的なところはいいものを持っている選手が多く、練習中に自分達が持っている技術をアピールするのが上手という印象を受けたという。だが一方で実際の試合になるとそれが生かしきれないようだ。
サッカーの試合ではピッチ内にボールがある限り、選手たちは次々と変わってゆく状況の変化を相手よりもいち早く察知し、動かなくてはならない。そういった中で求められるのはチームメイトとの連動した動きや場面場面での瞬時の判断力、そしてチームの結束力。特に国際試合ではこの差がそのまま試合結果として現れることが少なくない。欧州や南米などのサッカー先進国が国際大会で結果を残し、アジア諸国が遅れを取っているのはこれが理由のひとつでもある。特にカンボジアは他の国と比べても代表戦や国内リーグの試合中に集中力が切れて、ミスから失点するという場面が多い。
●選手たちの課題に合わせたテーマを決めて指導
今回の練習は各コーチがそれぞれの日ごとに指導するテーマを決め、実行。上村コーチの場合は1日目はシュート、2日目は試合中に周りを見ながらの判断力、3日目は守備の部分にテーマをおいて指導。短期間の中でもしっかりと目的意識を持つことで選手たちが成長できるようなトレーニングを実施した。上村コーチ自身も今回、海外で指導するという貴重な機会の中で成長できるようにと、毎日大先輩の千疋コーチとしっかり振り返りを行なって練習に取り組んだ。
今年、カンボジアを代表するスター選手であるチャン・ワタナカが藤枝MYFCへ期限付き移籍したことにより、カンボジア国内でもJリーグへの注目度は一気に加速した。育成年代の選手たちからすると日本のJリーグは憧れの舞台。そんなJリーグから指導者が来たということで、選手たちから「このチャンスをものにするんだ」という意気込みを感じた。
クラウンの池田GMは「クラウンの下部組織は同じ年代でも、誰でも参加できる”コミュニティ”と”エリート”、そして選び抜かれた選手が所属する”アカデミー”と3つのカテゴリーに分かれています。今回は近い将来、トップチームで活躍する可能性のあるアカデミーを見てもらった。選手たちがこのクラブで育ってカンボジアを代表して海外で活躍できる選手に成長してほしい」と語った。なお、北九州市とプノンペン都は2016年に姉妹都市になったということもあり、今後も両都市の交流が期待される。
●Jリーグが掲げるアジア戦略とカンボジアのサッカー
カンボジアサッカー協会とJリーグは2013年にパートナーシップ協定を締結しており、現在多くの日本人サッカー関係者が関わっている。中でもカンボジアの育成年代はJFAからの派遣で日本人指導者が継続的に指導している。近年は海外遠征が増え、国際舞台での経験を積むことでJリーグのユースチームに勝利するなど徐々に結果も出始めている。特に先日行われたU-19AFC選手権2018予選では井上和徳監督率いるU-18カンボジア代表が中国に惜敗(0-1)、ミャンマーに勝利(3-2)するなどし、初の本大会出場にあと一歩まで迫った。(総得点1差で予選敗退)
カンボジアサッカー最大の目標は2023年に自国開催の東南アジア版オリンピック”SEA GAMES”の優勝。U-23代表チームが出場するので現在、育成年代の強化を行っている。Jリーグが掲げる「アジア戦略」はアジアの国々のレベルアップとマーケット拡大が目的。今後、アジア戦略を通して両国のサッカー交流が活性化し、良い方向にいくことを期待しよう。
(文:狩野宏明)
※写真提供:プノンペン・クラウンFC、国際交流基金アジアセンター
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