NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」
上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。
今回は、アンコール寺院の壁に開いた穴について。
石の穴 あいたり、消えたり

寺院の石材表面を観察すると、多くの穴があいていることに誰でも気がつく。
直径は 3 センチ、深さは 10センチ弱程度である。
一つの場合もあれば、二つ、三つがセットになるパターンもある。
これらは寺院建造に際しての施工のために必要とされ、穿たれたものだと考えられている。
工事の際に石材を横や上下に動かす時に使ったのであろう。
この穴は、その後二つの理由によってなくなる場合があった。
一つ目は、石を積んだ後の工事で石材の表面が削り取られ、結果として穴そのものが消えてなくなる場合。
二つ目は、石で穴が塞がれてなくなる場合である。穴は全てが石で塞がれたわけではなく、穴のまま放置された箇所も多い。
後日穴を埋める栓として用いた石が人為的に取り外されて再度穴となったものも多数あるように見受けられる。
ミリ単位以下の精度で石を積み上げ、細緻な彫刻を施すクメールの石工や彫り師の仕事の中で、この「穴」の扱いだけはデザイン上「無頓着」という気がしないでもない。
気にならなかったのだろうか?
(この記事は2018年12月に発行されたNyoNuym98号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリアップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。
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1:アンコールトーイに行ったことありますか?
2:「今日はいい天気?」~日本とカンボジア~
3:あれから20年
4:カンボジアは日本の先輩!?
5:アンコールワット西参道前の広場
6:アプサラ機構専門家による熊本視察
7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
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